第20話 レクと女騎士と異常な集団

第20話 レクと女騎士と異常な集団




 ティターン様の家を出てすぐに私は第1防衛ラインとして決めている場所に向かった。

 町を出ると遠くの第1防衛ラインの辺りに白兎魔法騎士団の騎士たちが集まっているのが見える。

 私は走って第1防衛ラインに集まっている白兎魔法騎士団に合流した。

 騎士団に合流した私を見て、私の補佐の若い騎士と白兎魔法騎士団で百人長を任せている女の騎士が近付いてくる。


「騎士団長!」

「レク!」

「はぁ……今は騎士団長と呼ぶように」

「あ、ごめんなさい騎士団長」


 この白兎魔法騎士団で百人長を任せている女騎士とは普段それなりに親しいこともあって、たまに仕事中でも名前で呼ばれることがある。

 私は毎回、仕事中は騎士団長と呼ぶようにと注意するのだが、これがなかなか直らない。


「まぁいい。 それで今の状況はどうなっている?」

「はい。 騎士団長あちらを見てください」


 補佐の若い騎士に言われた方向を見ると遠くの方に確かにこちらに向かってくる200程の人影が見える。


「確かに200程の人影がこちらに向かってくるのが見えるな。 奴らがこちらに来るまで後どのくらいだ?」

「あの移動速度だとあと2時間はあるかと思います」

「2時間か……それだと魔法の射程に入るまで1時間半はあるか」

「やっぱり魔法で倒すの?」

「あぁそうだ。 わざわざ奴らと至近距離でやり合う必要はない。 奴らがこちらの魔法の射程に入ったら魔法で近付かれる前に倒せばいい。 それならこちらに被害は出ないし良いだろう。 なにせ奴らは魔法なんてものを知らないだろうから混乱もする筈だ」

「流石はティターン様だね! こんな凄い魔法なんてのを私たちに教えてくれたんだから!」


 この女騎士の言う通りだ。

 ティターン様は私たちにこんな凄いものを教えてくださった。

 この魔法があれば魔法を知らない奴らに負けることはないだろう。


「そうだ、左右の森に偵察は出しているか? 途中で横から奇襲される訳にはいかないぞ」

「はい、既に出しています。 報告では今のところ、森に敵の姿は見えません」

「へ〜流石は騎士団長の補佐を任されるだけはあるね。 騎士団長が言う前にやっているなんて」

「まぁこいつは優秀だし、よく訓練もしているからな」

「はい、騎士団長のお陰です!」

「そうかい。 それじゃあ私たちはこのままこの第1防衛ラインで敵が来るのを待つの?」


 私は女騎士の問いに考える。

 このまま騎士団全員で奴らを迎え撃った場合……おそらく簡単に勝てるだろう……しかし、最悪の場合も考えなくてはならない。


「……よし、第1防衛ラインに100人を残して、残り100人を二手に分けて第2防衛ラインと最終防衛ラインに置く」


 その私の言葉に女騎士は不思議そうな顔をする。


「どうしてわざわざ分けるの? 確かに100人でも魔法があれば勝てると思うけど、騎士団全員でやった方が確実でしょ?」

「確かにその通りだが……私はこの白兎魔法騎士団の騎士団長として最悪の場合も考えなくてはならない」

「最悪の場合……ですか」

「そうだ。 考えたくはないが、もし騎士団全員でこの第1防衛ラインに居てここが敵に突破されたらどうする? 後ろには誰も居ないから町まで一気に攻められるぞ」

「う〜ん、確かにもし敵に突破されたらそうだね。 でも私は奴らに負けるとは思えないけど」

「自分もそう思います」

「私だって負けるとは思ってない……が保険は必要だ」

「……わかったよ」

「よし、ではこの第1防衛ラインの指揮はお前に任せる。 私と補佐は最終防衛ラインから訓練と同じように合図を出すので見逃さないように」

「了解!」

「了解しました!」

「では下がるぞ。 号令をかけろ!」


 そうして第1防衛ラインに100人、第2防衛ラインに50人、最終防衛ラインに50人の布陣になる。

 私は敵がこちらの射程に入るのをじっくりと待ち続けた。



♢♢♢



 白兎魔法騎士団の百人長として第1防衛ラインの指揮をレクから任された私はじっと敵が魔法の射程に入るのとレクからの攻撃開始の合図を待つ。

 敵がこちらに近付いてきて姿が良く見えるようになると敵がどんな武器を持っているかも分かった。

 報告通り敵は角耳族、丸耳族、頭角族、丸毛族の4種族が混ざっていて殆どが手に石の槍を持っている。

 しかし、時たま石の槍ではなく細い木の棒のような物を持っている敵が居ることが分かった。

 その細い木の棒のような物をよく見ると、昔教えられた弓という武器に似ていることに気が付く。

 弓というのは矢という木の棒に尖った石を付けて飛ばす武器なのだが、山形にしか飛ばないし威力もないその上射程も短いので私たち白兎魔法騎士団は使っていない。

 何故なら私たちには真っ直ぐ飛ぶし威力もあって射程も長い魔法があるからだ。

 そういう風に敵を観察しながらレクの合図を待っていると、とうとう最終防衛ラインに居るレクから攻撃開始の合図が出る。

 私はその合図を確認すると思いっきり息を吸ってから叫ぶように声を上げた。


「全員、攻撃、開始ぃぃぃぃぃぃぃぃッ!!!」


 その瞬間、私の居る第1防衛ラインから色取り取りの魔法が音を立てて敵に向かって飛んでいく。


「ウインドボール!」


 次々と魔法を飛ばしている仲間たちに負けじと私も風の魔法【ウインドボール】を敵に向かって放つ。

 【ウインドボール】は風の属性の魔法で不可視の風の球体を発生させて放つ魔法だ。

 私が放った魔法はどうやらちゃんと前方の敵に当たったようで敵が片膝をついているのが見て分かる。

 その敵は遠目で見た限りでは、まだ大人になったばかりの角耳族の青年に見えたが私は容赦せずに次のウインドボールを放って殺した。

 その後、すぐに私は戦場を見渡して状況を確認する。

 ……どうやら私たち白兎魔法騎士団の攻撃は順調に上手くいっているらしい。

 このままいけばいずれ敵は私たちの攻撃で全滅するだろう。

 やはり、この魔法はとても強力で素晴らしい武器になる。

 そして、この魔法を私たち兎族に教えてくださったティターン様はとても偉大なお方だ。

 私はそう思いながら敵に向かって魔法での攻撃を再開した。



♢♢♢



「あいつら……なんて狡賢いんだ!」


 私たちの魔法での攻撃は順調に上手く敵を倒していっていたが敵が残り100人くらいになった頃、驚くことに敵は私たちの魔法で倒れていった仲間の死体を盾にして攻撃を防ぎ始めた。

 私たち白兎魔法騎士団では絶対にやらないようなありえない魔法の防ぎ方に憤りを感じる。

 死んでいった仲間を盾代わりにするなんて、あいつらは何を考えているのか?

 だが、実際に盾としての効果は出ていて私たちの魔法での攻撃は敵に届いていない。

 その代わり敵がこちらに近付いてこられないように死体から少しでも身体を出したり動いたりしようならすぐに魔法が飛んでいくので敵は動けないでいた。

 そしてこの戦場は膠着状態になり、それがしばらく続いている。


「くそっ……これじゃあ何も変わらない」


 私は動かない戦場を見ながら、どうするべきか考えていた。

 その時、最終防衛ラインにいる騎士団長のレクから合図が出ているのに気が付く。


「あれは……第2防衛ラインまで後退だって!?」


 どうして今、私たちが第2防衛ラインまで後退しなければならないのか?

 今、私たちがこの第1防衛ラインを離れれば確実に敵が進行を再開してしまう……まてよ?

 ……そうか! 相手が動かないのなら私たちが動けばいいのか!

 私たち第1防衛ラインにいる騎士団と今の敵との距離なら追いつかれることもなく第2防衛ラインまで後退できる。

 敵が私たちを追いかけて来るのなら確実に敵は死体から身体を出さなくてはならなくなる……そこが狙い目だ。

 もし敵が死体から出てこなくてもこちらは人数が増えて魔法攻撃の回転率も良くなって悪いことはない!

 私は再び息を思いっきり吸って叫ぶ!


「全員、第2防衛ラインまで全力で後退せよッ!!」


 その私の号令が出た瞬間、第1防衛ラインに居る騎士団が全員敵に背を向けて全力で後退し始めた。

 私は第1防衛ラインに居た騎士団が全員すんなりと私の号令に従ってくれたことに安堵して、私も少し敵を気にしつつ後退を始める。


「はっ……はっ……はっ……やった……」


 私たちが全力で第1防衛ラインから後退を始めると予想通り敵は慌てて隠れていた死体から身体を出して私たち騎士団を追いかけてきた。

 このまま私たちが第2防衛ラインまで辿り着けば、第2防衛ラインに配置されている騎士団50人が即座に追いかけて来る敵を魔法で倒してくれる筈だ。


 私たち騎士団100人は必死で走り、第2防衛ラインまで後半分の所まできた。


「はっ……はっ……はっ……なにあれ?」


 突然、私たちを追いかけてきていた100人も居ない敵が左右に分かれて中央を空けた。


「……はっ……なにを……するつもり?」


 完全に敵の中央に空間が空いた瞬間――そこから猛スピードの何かが飛び出してきた!

 それは通常の敵の何倍ものスピードで私たちに向かってくる。


「なに……あれ?」


 良く見るとそれは――50人程の集団だった。


「はっ……はっ……まさかタテガミ族!?」


 そうだ、間違いない。

 とんでもないスピードでこちらに走って近付いてきているのは後方に控えていたタテガミ族50人だ!

 理解出来ない――したくない。

 なんだあのスピードは!?

 通常の人に出せる速度ではない!?

 このままでは、間違いなく私たちが第2防衛ラインに辿り着く前に追いつかれてしまう!

 第2防衛ラインの50人の騎士団は私たちが前に居るせいで魔法で攻撃は出来ない。

 どうする?

 どうするのだ私!?

 このままでは、あの異常なタテガミ族たちに追いつかれて私たちの無防備な背中を攻撃されてしまう!


「くそっ……どうすればいいの!?」


 このままじゃいけない。

 無防備な背中を攻撃されて、ただやられる訳にはいかない!!


 ――ごめん、レク。


「全員、反転!! 後方から来るタテガミ族を迎撃せよ!!」


 怖い……あの異常な速度で迫ってくるタテガミ族たちがとても怖い。

 相手は50人、私たちは100人居る……負ける筈がないと思う……でも嫌な予感がする……もしかしたらあのスピードで私の魔法を避けられてしまうかもしれない。

 でも、逃げる訳にも……ただやられる訳にもいかない!!

 私たちだって槍と盾、魔法を使った近接戦闘の訓練だって必死にやってきたんだ!

 私の……私たちの……白兎魔法騎士団は負けないんだから!!


 私の号令を受けて全力で第2防衛ラインに後退していた騎士団が止まって反転する。

 止まって反転した騎士団は迫ってくるタテガミ族に向かって魔法を放つ。


「ウインドボール!!」


 もちろん私もタテガミ族の向かって魔法を放つ……がタテガミ族はその異常なスピードで私たちの全ての魔法を避けられてしまう。


「そんなッ! くっ! 全員、近接戦闘用意!!」


 騎士団の一度の魔法を避けただけで、すでに私たちの近くまで近付いてきたタテガミ族を見て私は即座に近接戦闘の号令をかける。

 遠くから一方的に魔法で攻撃する時間は終わった……でも私たちにはこの槍と盾と魔法がある!


『おおおおおおおおおお!!』

「くっ!」


 私は大柄な黒いタテガミ族の男とぶつかった。

 その大柄な黒いタテガミ族の男は両手で石の槍を持ち私に突撃してきたので、盾でなんとか受け流す。


「重いッ!?」


 そのタテガミ族の男の攻撃は予想以上の重さで受け流すのも精一杯だ。


『なんだ? 長耳族の女か? ちっハズレだな』

「くっ……舐めないで!」


 馬鹿にしてくるそのタテガミ族の男に私は石槍を突き刺そうとするが、そのタテガミ族の男は驚くことに脇で私の石槍を押さえ込んだ。


「なっ! う、嘘」

『なんて言っているか知らないが、終わりだ』


 ガンッという衝撃とともに私は意識を失った。

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