第17話 ドラゴンヴァンパイアと神聖ティターン王国

第17話 ドラゴンヴァンパイアと神聖ティターン王国





 この町に白兎魔法騎士団が出来てから、しばらくの時間が経ち神聖暦30年になった。

 あれから騎士団は毎日町を見回って兎族同士の揉め事を解決したり訓練をしたり町を襲ってくるモンスターを倒したりしている。

 騎士団は毎年人数を少しずつ増やしていて、騎士の戦い方も毎日の訓練でマシになってきた。

 町も大きくなっていて人口も順調に増えていることだし、俺はそろそろここにおそらく世界初だと思われる国を作ろうと思う。

 国を作ればここに住む兎族たちの結束も強まりそれによって技術の進歩も早くなる筈……何より俺が一度国というのを作りたかった。

 しかし、俺は素人だし国としての体制の作り方なんてよく分からないので、とりあえず各分野のトップを決めて、国の名前を決めて、国民となる兎族たちに国になったと宣言するくらいをしようと思う。

 早速、俺は騎士団長のレクと農業を引っ張っている30歳を超えたドウと町の建築をしている職人を纏めている親方っぽい男、それにティターン学校の学校長をしているリーウの4人を俺の大きくなった家に呼び寄せた。

 集まった4人の中でリーウが代表して俺に話しかけてくる。


「エルト様。 今日、僕たち4人は一体どのような御用件で呼び集められたのでしょうか?」

「今日、お前たち4人を集めたのは……俺はそろそろここに新しい国を作ろうと考えたからだ」

「国……ですか。 それは昔エルト様に教えられたのを覚えています」


 リーウは国がどのようなものか分かっているが他の3人は分かっていなさそうな顔だ。


「確かある一定の範囲を持つ場所を表す言葉で……国には王というトップが居るとか」

「まぁ簡単に言うと俺たちが所有しているこの土地が国となって王というのは国の中で一番偉い奴だ」


 それである程度、理解したのか3人が分かったような顔で頷いた。


「ではその国の王には、もちろんエルト様がなるのですね!」

「……そうだな。 学校と同じで最初は俺が王としてやっていくが、後継者が出来たら俺はそいつに王座を譲る」

「そんな……族長が居なくなってからやっとエルト様が正式に僕たちのトップだと宣言していただけるのに、すぐに辞めてしまうのですか!?」


 リーウが驚いて俺にそう聞いてくる。

 まぁリーウはずっと俺に族長になって欲しそうだったから驚くのもしょうがないか。


「いや、流石に王は学校長のように数年で辞めたりはしないし、ちゃんとお前たちが納得する後継者を選ぶ。 これは俺が最初から決めていることだ」


 俺はちゃんとリーウに学校長とは違って長く王をやること、納得する後継者を選ぶことを説明する。


「……そうですか……分かりました。 ……ではエルト様は神で王になるので、これからは【神王】様ですね」


 神王……神で王だから神王か……けっこう厨二的な名前だが、かっこいいからそれもいいな。


「神王か……中々にかっこいい呼び名だな。 よし、それでいこう!」

「ご満足頂けたようで何よりです。 それで僕たち4人を呼んだのはエルト様が王になる、ということを宣言するためでしょうか?」

「いや、それだけではない。 お前たち4人にはこの国で今のところだが俺の次に偉い地位に就いてもらう」


 俺のその言葉に4人は驚いた顔をして俺を見る。

 なんか兎族と出会ってからこいつらの驚いた顔をばかり見ている気がするな。


「あの……それは一体どういう事なのですか?」

「あぁ、今からちゃんと説明するからよく聞いておけ」

「はい……」

「正直に言うと俺は国の事なんて詳しくは知らない。 だから、俺はとりあえず国の名前を決めて今日からここは国だと宣言することと、それぞれの分野のトップを決めることにした」

「それぞれの分野のトップを決める……ですか。 それで僕たち4人が呼ばれたのですね」


 流石リーウだ、もう俺が言おうとしている事を理解したのか。


「そうだ。 お前たちは4人にはそれぞれの分野でトップになってもらう。 と言ってもお前たちはもうそれぞれでトップなようなものだが、形は大事だ。 例えばリーウであれば学校長兼任でこの国の勉学を纏めてもらうから……そうだなお前は今日から文学大臣だ」

「文学大臣ですか? ……大臣というのは?」


 俺がてきとうにそれっぽい地位の名前を使った所にリーウが突っ込んでくる。


「あー、それっぽい地位の名前だ。 とりあえず今は大臣というのは俺の次に偉いという事が分かればいい」

「分かりました」

「次にドウだが、お前はこの国の農業を纏めてもらう。 名前は農業大臣でいいだろう」

「は、はい!」

「次に騎士団長のレク。 お前は騎士団長と兼任でこの国の治安と外からの攻撃からこの国を守る為に働いてもらう。 ……あーそれっぽい名前が思いつかないから簡単に騎士大臣でいいか」

「承知しました」

「次は建築を纏めているお前、名前はなんだ?」


 俺は連れてきた建築を纏めている親方っぽい男の名前を聞く。


「俺はユーグといいます、ティターン様」

「そうか。 ユーグお前にはこの国の建築などを纏めてもらう。 名前は建築大臣でいいだろう」

「俺なんかがいきなりそんな地位に就いてもいいのでしょうか?」


 なんか見た目と違って少し気が弱そうな答えで俺はこいつがトップでいいのか少し不安になったが……まぁなんとかなるだろ、と思い直す。


「構わない。 俺がそう決めた。 不満でもあるのか?」

「いえ、ありません」


 一気に俺は4人の大臣をこの国に誕生させた。

 名前はてきとうだが、いずれ時間が経てばそれなりに良い名前に変わっていくだろう。


「よし、とりあえず最初はこの4人に大臣をやってもらう。 いずれ新しい大臣が必要になったらまた増やせばいいだろう。 お前たちにはさっきも言ったようにそれぞれの分野を纏めてもらう。 それと自分の後継者もちゃんと育成していくように。 分かったか?」

「分かりました。 謹んでお受けいたします。 お前たちもいいな?」

「「「はい!」」」


 俺が4人に言い渡した仕事をやるように、と自分の後継者を育てるように言っておく。

 最後はリーウが他の3人に確認して大臣となった。


「……それでエルト様、この国の名前はなんと言うのでしょうか?」

「あ!」


 リーウに言われて俺はこの国の名前を決めるのを忘れていた事を思い出した。

 さて、なんて名前にしようか?


「……エルト様、まだ国の名前を決めていないのですか?」

「すまん、忘れてた」

「ではいい名前があります」


 俺に神王と名付けたリーウが国の名前を提案してくる……これは任せてもいいのではないか?


「どんな名前だ?」

「【神聖ティターン王国】……なんて名前はどうでしょう?」


 神聖ティターン王国か……まーた厨二的な匂いのする名前だが悪くはない。


「神聖は神が聖なるもの、暦と同じで次にエルト様の姓を入れて最後に王の国なので王国……どうですか?」

「うむ。 神聖ティターン王国か……よし! 今日からここは神聖ティターン王国だ!」


 俺がそう言うと4人は拍手をして俺を祝い始めた。


「おめでとうございます、エルト様」

「うむ。 お前たちもそれぞれ纏め役を頑張ってやっていけ。 あと町の者たちにちゃんとここが国になったこと、俺が神王となったこと、お前たちが大臣になったことを説明しておけ。 明日全員を集めて改めて俺が国の樹立を宣言する」

「はい、分かりました」


 4人は俺の言ったことを了承すると早足で俺の家から出て行った。


 翌日、俺の家の前にある広場に集まった兎族たち全員の前に俺は大臣となった4人を連れて立った。

 兎族たちはみんな俺が何を言うのか既に分かっているのか静かに俺を見ている。


「もう皆聞いていると思うが俺はここに俺の国を作ることにした。 国を作る理由だが、今まで以上にお前たちが強く結束することで技術の進歩が早くなる……つまり今よりもっと家が大きくなったり、人口が増えたり、良いものが食べられるようになってこの町がもっと繁栄すると俺は考えたからだ。 それに何より……俺が国を作りたいと思った。 だからお前たちにこの俺の思いに付き合ってもらう。 ……今日ここに神聖ティターン王国の樹立を宣言する!!」

「「「「……ワァァァァァァァァァァァァァ!!!!」」」」


 俺の神聖ティターン王国樹立宣言に一拍おいて兎族たちから歓声が上がる。

 ……兎族たちに反対の声は上がっていない……どうやら殆どの兎族たちは反対ではなさそうだ。

 兎族たちの歓声が止んで静かになってから俺は再び話し始める。


「それに伴い今日から俺はこの国の王、神で王、神王と名乗る。 お前たち、これからはティターンでも神王でも好きな方で俺を呼ぶといい」


 少し騒がしくなっていく兎族たちを気にせず俺は続きを話す。


「続けてこの国の大臣を紹介する。 ……大臣のことは既に説明されていると思うが、もう一度説明していこう。 大臣たちは、それぞれの分野でそれぞれの者たちを纏めてもらう……その分野でトップに立つ者たちのことで、俺の次に偉いということを覚えておけ。 それぞれの分野で困ったことがあればそれぞれの大臣またはその下の者に相談しろ。 では最初の大臣を紹介しよう」


 俺はそう言ってから後ろで控えているリーウを隣に呼び寄せる。


「最初の大臣は皆も知っているリーウだ。 知っていると思うがリーウは俺の名前を許すほど努力と結果を重ねてきた。 そしてリーウは今のティターン学校の学校長をしているので兼任で学問に関わる大臣、文学大臣になってもらう」


 リーウが一礼して後ろに下がった。

 次にドウを俺の隣に呼び寄せる。


「次はこのドウだ。 ドウは今まで一番農業を頑張って引っ張ってきた。 だからドウにこの国の農業を纏めてもらう農業大臣に任命する」


 ドウがリーウと同じように一礼して下がる。

 そして次に騎士団長のレクを俺の隣に呼び寄せた。


「次に白兎魔法騎士団の騎士団長をしているレクだ。 レクには騎士団長と兼任で、この国の治安や外からの攻撃から守る者たちを纏める騎士大臣をしてもらう」


 レクは綺麗な一礼をして下がった。

 最後にユーグを隣に呼び寄せる。


「最後はこのユーグだ。 ユーグにはこの国の建築関係を纏めてもらう建築大臣に任命する」


 ユーグも皆と同じように一礼して下がった。


「今の4人に最初は大臣をやってもらう。 この4人以外に新しい大臣が必要になったら新たに任命する。では今日は解散、それぞれのことに戻ってくれ」


 俺がそう言って締めくくると兎族たちはぞろぞろとそれぞれの場所に戻っていった。

 これでこの町は正式に神聖ティターン王国となり、俺は神王に……。

 いつまで俺がこの国の神王としてやっていくのかは、まだ分からない。

 だが、少なくともリーウやムーア、ドウにレク、それとユーグが生きている内は俺が神王としてこの国のトップでいよう。

 そう思いながら俺は後ろで控えている4人に話しかける為に振り返った。


「お前たちもこれからの事、頼むぞ」

「「「はい!」」」

「はッ!」

「ではお前たちはそれぞれの仕事に戻れ」


 俺の言葉に4人が返事をすると、それぞれの仕事に戻っていった。

 俺はその4人の姿を見送ってからすぐ側の俺の家に歩いて入ろうとする。

 その瞬間、俺は久しく感じていないような感覚が一瞬俺を襲う。

 俺はその場で自分の身体を見下ろして今の一瞬の感覚が何だったのか考える。

 そしてそれに近い感覚を俺は思い出していた。

 それは俺がこのドラゴンヴァンパイアに転生してから一度も感じたことのない、感じる筈のない――


「――眠気? ……そんな馬鹿な」


 俺はその一瞬の感覚が、眠る必要のないこの身体で感じる筈のない眠気に近かったような気がした。

 

「気のせいだろう」


 だが、俺はその一瞬感じた感覚が何かの間違い……気のせいだと思いたいして気にせずに自分の家に入っていった。

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