第16話 ドラゴンヴァンパイアと名前と騎士団
第16話 ドラゴンヴァンパイアと名前と騎士団
ドウや他の兎族たちと一緒に出来た作物を収穫して一日中騒いだ日からしばらくして、村の中にとうとう学校として使用する予定の木造のそれなりに大きな建物が建てられた。
俺はすぐさまその学校、【ティターン学校】の初代学校長として子供たちを集めて学校をスタートする。
集めた子供たちは6歳から7歳になる子供たちで、予定では6年間学校に通わせる……つまりこの学校は前世でいう小学校という奴だ。
最初は俺とリーウにムーアがこの学校の教師として勉強を教えていく。
この学校で教えることは日本語と魔法を中心に様々なこと。
いずれは日本語と魔法以外のものも中心にして教えていきたい。
そしてこのティターン学校から卒業生が出た時には、その卒業生の中から新たな教師を選び出し、学校をリーウに任せるつもりだ。
その時には約束通り、俺はリーウに名前を呼ばせてやることにする。
♢♢♢
兎族の村の中でティターン学校がスタートしてから3年が経っていた。
今では木材建築の技術が進歩していて村の中にそれなりに大きな木造の家が建ち並んでいる。
それでも俺の家が一番大きいのは兎族たちが毎年俺の家を作り直すからだろう。
農業の方も大方上手くいっていて、今では安定して作物を収穫できている。
そういえば、そういう技術の進歩を披露する場所や、毎年の疲れを発散するような祭りを作った方がいいと考えた俺は毎年の始め1月1日に【ティターン祭】という祭りを開催することにした。
そのティターン祭では1年の技術の進歩をみんなの前で発表、披露して馬鹿騒ぎをするというもの。
今では農業技術を引っ張って日々進歩させているドウの奴が毎年ティターン祭で自分で育てた新しい作物などを発表している。
ちなみに今年のティターン祭で一番兎族たちを沸かせたのは、ある木材建築の職人が作った精巧な装飾であった。
今まで兎族たちは木材での建築や道具作成などは機能重視で、装飾を入れるなどの遊びが無かったのである。
なので今まで建築物や道具に装飾を入れるなど考えられなかった兎族たちは大いに驚いた。
それからは兎族たちに木製の何かに装飾を入れるというちょっとしたブームがやってきている。
ティターン学校の方は今では四年生まで生徒が進級していた。
俺と兎族たちが出会った時から人口がどんどん増えている事もあり、毎年安定した人数を入学させている。
そういえば、この3年でリーウとムーアの間に1人の息子が誕生していた。
リーウとムーアもいい歳だし何より夫婦なのでそういう事も普通なのだが、ムーアの抜けた間をどうするのか大変だったし……何より子供の頃から知っている2人の間に子供が出来るというのも変な気分だ。
そんなリーウとムーアに子供が出来た時、リーウとこんな会話をした。
「ごめんなさいティターン様。 こんな大変な時期に子供を作ってしまって……」
「い、いや……お前らもいい歳だし……夫婦だし……しょうがないだろ?」
「は、はい。 すみません。 ムーアが抜けた分は僕が頑張りますので」
「いや、お前も妊娠したムーアの面倒を見なければいけないし大変だろ。 俺もムーアが抜けた分に入るから2人で分けてやっていこう」
「ありがとうございます、ティターン様。 この御恩は一生忘れません」
「……元はと言えば俺がリーウとムーア2人が夫婦になったことをあまりよく考えてなかった所為だから気にするな」
それからムーアが学校に教師として復帰するまで俺とリーウの2人で頑張って授業を回した。
♢♢♢
そして更に時間が経ち神聖暦20年。
今年のティターン祭では俺的に革命的な発見だと思われる物が発表された。
俺も最初は驚いてまさか兎族たちがこんな発見をするとはと思っていた……それが鉱物資源である。
色的に銅と鉄だと思われるそれを兎族たちがどこから発見したのかというと、何と村近くの山肌に空いた洞窟からであった。
まだまだ兎族たちに鍛治技術など無いようなものだし、俺も鍛治なんて詳しくないので兎族たちのこれからに期待である。
それから先日、とうとうティターン学校から初の卒業生が誕生した。
俺は早速その中から数人の優秀な生徒をティターン学校の新しい教師として任命する。
これで俺とリーウとムーアで頑張って6学級の授業を回す必要がなくなった訳だ。
それでこの学校から卒業生も出たし毎年新しい生徒も順調に入学している。
だから、もう俺が居なくなってもリーウが頑張ってやっていけるだろう。
そう思った俺はリーウに学校の運営を任せることを告げる為、学校の一室に呼び出した。
リーウはすぐに俺の待っている部屋に入ってくる。
「ティターン様、僕を呼んでいると聞いてやって来ました」
「あぁ。 随分早かったな」
「すぐ近くに居ましたので……それで一体なんで僕を呼んだんですか?」
「……お前はこのティターン学校が始まってからずっと頑張っていた。 それを俺はよく見ている」
「ありがとうございます」
「そして先日、とうとうこの学校を卒業した生徒まで出てきてその中から新しい教師も選べた」
「そうですね。 大変でしたけど僕たちの努力と頑張りが形となったようで嬉しかったです」
「うむ、そうだな。 それで俺はもうこの学校は俺が居なくてもやっていける、と考えている」
「そんな……」
「なに、お前とムーアそれに新しい教師たちなら十分やっていけるだろう。 なんせ今まで俺とお前とムーアの3人でやっていたのだ。 俺が抜けても前よりは人数が多いし大丈夫だ」
「……」
「俺はこのティターン学校の学校長の座から退いて……リーウ、お前にこの学校を任せようと思う」
「……それは、まさか!」
リーウは俺が何をしようとしているのか気が付いたのだろう……目を見開いて俺を見ている。
「リーウ、約束の時は来た! お前との約束通り俺の名前をお前が呼ぶことを許そう!」
「あ……ああ」
俺の言葉を聞いたリーウはその場で両膝をついて俯いている。
やがて身体を震わせたかと思うと部屋の床にポツポツと涙を落とし始めた。
「なんだリーウ? 泣いているのか? 予想はつくが間違っていたら恥ずかしい……どうして泣いているのかお前の言葉で聞かせてくれ」
「……あ……この日を……この日をずっと待っていました! ずっとティターン様に認められたくて……」
「そうか」
「……嬉しい……これは喜びの涙です!」
「……俺の名前を許すのだ。 嬉しくて喜んで泣くくらい当たり前だな! ……でも、お前になら俺も喜んで名前を呼ぶことを許せる。 今日これからは俺のことをエルトと呼べ」
リーウは腕で涙を拭いて俺を見上げる。
「はい、エルト様! これからもよろしくお願いします!」
リーウは満面の笑顔でそう言った。
その目を赤く腫らした笑顔を見ていると俺は初めて名前を許した日の事を思い出す。
……そういえば、あいつ……族長も喜んで泣いて笑顔だったな。
次の日、俺は全生徒と教師たちを学校の前に集めて、学校長の座を退くことを伝えることにする。
「皆、授業の前に集まってもらって悪いな。 今日は大事な事を伝える。 ……突然だが、俺は今日でこの学校の学校長の座を退くことにした」
俺の突然の学校長を退く宣言に集まった生徒と教師まで騒めきだす。
「これはこのティターン学校を始める前から決めていた事なのだ。 俺はこの学校から卒業生が出て、俺が居なくてもやっていけるようになって、学校を任せられる奴がいたら全てそいつに任せるつもりだった。 そして今年、初めての卒業生が出て新しい教師も増えたし俺が抜けてもやっていけるだろう……そして学校を任せられる奴もできた。 それが今俺の隣に居るリーウだ。リーウならやっていけると俺は思っている。 ……それに俺はリーウに俺の名前を呼ぶことを許している」
俺がリーウに名前を呼ぶことを許したという言葉に生徒や教師たちは更に騒めく。
その中でムーアだけは俺の言葉を聞いて泣いて喜んでいた。
俺の耳が何かを呟いて泣いているムーアの言葉を聞きとる。
ムーアは「リーウ……良かったね……本当に良かったね」と繰り返していた。
おそらくムーアはリーウが俺に名前を許されることを目標に頑張っていたのを知っていたのだろう。
「これからはこのリーウがこのティターン学校の学校長となる。 学校長が代わってもお前たちはちゃんと勉強するように。 俺からは以上だ。 後はリーウが何か話すだろう……お前たち静かに聞け」
俺の言葉を聞くと騒めいていた生徒や教師たちはすぐに静かになってこちらを向いた。
「よし、ではリーウ」
「はい……みんな聞いたと思うけど、この学校の新しい学校長になるリーウだ。 僕は今まで教師として頑張ってきたけどこれからは学校長として頑張っていく。 だからみんなもよろしく頼みます。 ……最後に、今まで僕たちを引っ張って学校を運営してくれたエルト様……ティターン様に盛大な拍手を!」
リーウがそう言った瞬間、もの凄い大きな拍手が俺に向けて贈られた。
俺はその盛大な拍手を背に学校から離れていった。
♢♢♢
俺がリーウにティターン学校を任せてから6年が経った神聖暦26年。
村の人口も増えて大きな木造の家も建ち並び、魔法を覚えた兎族たちがそれを活かして生活していて、もう村というより町と言える……かもしれないくらいになっていた。
そのせいで村の中で兎族同士の揉め事が増えてモンスターに襲われる頻度も高くなっている。
だいたいは当事者同士で揉め事は解決するし襲ってくるモンスターも弱いので魔法を覚えた兎族が殺す。
しかし、俺はそろそろこの村というより町を見回って揉め事を解決したりモンスターを退治する組織を作って方がいいと思っている。
そこで俺はこの兎族たちの町に新しく魔法を使う騎士団を結成しようと考えていた。
騎士団の名前も、もう決めてある……その名も【白兎魔法騎士団】だ。
兎族たちの毛が白いことからそう名付けた……なぜ騎士団にしたのか? 警察でもいいのじゃないか? とも思ったが、やっぱりファンタジーといえば騎士だろうと思い騎士団に決めた。
早速、俺は魔法が使えて腕に多少の自信がある兎族を募集する。
すぐに集まってきた兎族たちを俺は騎士団に即採用した。
いくら人口が増えたからといっても今の町に余裕はないので集まった者は採用する。
集まった20人くらいの男女の兎族を見ながら最初はどうしようかと俺は考えた。
そこで俺は騎士団を引っ張る騎士団長をこの中から決めようと考える。
最初はもちろん俺が手助けするが、やっぱり騎士団長は必要だろう。
「集まってくれたお前たちは今日から白兎魔法騎士団だ。 明日からこの町を毎日見回って揉め事を解決したり、町を襲ってくるモンスターを退治したりしてもらう。 もちろん訓練をして日々自分を鍛えてもらう……がその前にこの白兎魔法騎士団の騎士団長を決める」
そう俺が言うと喜んでいた集まった兎族たちは皆真剣な表情になる。
「騎士団長を決める方法は簡単だ。 この中で一番強い奴がこの騎士団の団長だ。 1時間後にここでトーナメントを行う」
やっぱり騎士団長は一番強い奴がなった方がいいしトーナメントで周囲に力も見せられるから丁度いいと俺は考えていた。
「それぞれ武器を持って集まれ。 武器がない奴は俺が石槍と木の盾を貸してやる。 もちろん魔法も使ってくれて構わない。 怪我をしても俺が治してやるから安心しろ。では解散」
すぐに騎士団となった兎族たちは散らばっていった。
そして1時間後、再び集まってきた兎族たちは殆どが武器を持っていなかった。
まぁこの町で武器を持っている奴は少ないし、しょうがないだろう。
「では早速戦ってもらう。 戦う順番は俺が決めておいた。 では最初は……」
俺は1時間の間に見た目で、てきとうにトーナメント表を作っておいた。
集まってきた兎族たちに早速トーナメント表通り戦わせる。
兎族たちの戦いは見ていて凄いと思えるものが殆ど無かった。
だいたい石槍で突くか魔法を相手に向かって撃つだけ……まぁ今まで戦ってこなかった兎族だからしょうがないか。
戦い方はこれから兎族たちに教えていこう、と思っていると1人だけ別次元の戦いを見せる者が居た。
そいつは若い男なのだが、1人だけ貸した木の盾を使っていて上手く攻撃と防御に石槍と木の盾と魔法を織り交ぜている。
結果的にその若い男は決勝まで登っていき優勝して騎士団長となった。
まさかこんな所で戦いの才能を見せる兎族の男が居るとは思わなかった俺は今後のことも考えてそいつの名前を聞くことにする。
「おめでとう、お前が今からこの騎士団の団長だ」
「……ありがとうございます」
「さて騎士団長。 お前の名前を聞こう」
「ッ!? ……私の名前を覚えてくださるのですかティターン様?」
「そうだ。 これから色々お前に指示を出すこともあるだろうし、名前を知らないのは不便だ」
「ありがたき幸せ。 私の名前はレクといいます」
「そうか……レク、今日から頑張れ。 騎士団を頼むぞ」
「はッ!」
若いが少し硬派な感じのその男の名はレク。
これから長く続いていく白兎魔法騎士団の初代騎士団長だ。
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