第15話 ドラゴンヴァンパイアと魔法の適性と畑
第15話 ドラゴンヴァンパイアと魔法の適性と畑
ムーアが魔力の制御に驚きの才能を持っていることが分かってから数日後の朝。
農業をした場所、畑を見に行ったところ何やら兎族たちが集まっている。
何か問題でも有ったのかと思い、俺は兎族たちの中に居た日本語が分かる奴に話しかけた。
「どうしたんだ? お前たち集まって」
「あ、ティターン様! 見てくださいよこれ!」
「うん?」
何やら興奮した様子で畑を指差す兎族の言うとおりに俺は畑を見る。
すると、畑の一箇所から可愛らしい芽がピョコンと出ているのが分かった。
「……もう芽が出てきたのか。 随分早く感じるが……こんなものか?」
俺は曖昧な知識で色々と考えてみるが、結局分からない。
「ティターン様! これって種が成長したって事ですよね?」
「そうだと思うが……」
「じゃあ俺たちの畑は上手くいっているんですね!」
「……そういうことになるな……多分」
「やったぁー!」
そう言って喜んだ兎族を見て周りの兎族も状況を察して一緒に喜び始める。
少し疑問があるし、これから上手くいくかなんて分からないが、これはもう兎族たちに任せた事なので俺は特に何も言わずに喜んでいる兎族たちから離れた。
その後、俺はリーウとムーアがいつも魔力の制御を練習している場所に向かう。
向かっている間に、俺はこれまでの2人の成果について考えていた。
最初に魔力を感じる練習をしてからムーアはずっと魔力の制御を練習させていて、リーウの方はやっと魔力を感じる事が出来て今はムーアと一緒に制御を練習している。
ムーアの方は魔力の制御はもう完璧って感じだが、リーウの方は魔力の制御はまだまだ甘い感じだ。
そう考えていると2人が地面に座って練習しているのが見えてきた。
俺が歩いて近付いてくるのに気が付いたムーアが立ち上がって近付いてくる。
「ティターン様、畑の方で何かあったんですか?」
どうやら畑の方の騒ぎにムーアは気が付いて気になったらしい。
「種が成長して畑から芽が出たのだ。 それを皆が喜んで騒いでいるだけだ」
「うわぁ〜。 種が成長したんですか! それは凄いですね!」
「そうか? まだまだ成長してもらわなくては困る」
「それはそうですけど……今までの私たちじゃ考えられない事だから」
そう嬉しそうにムーアは俺に言った。
俺は畑のことはもういいだろうと思い2人の魔力の制御について聞く。
「で、魔力の制御だが……ムーアは問題ないと思うが、リーウの様子はどうだ?」
俺はムーアの後ろで地面に座って目を閉じて集中しているリーウを見ながら言った。
「リーウは少しだけ魔力の制御が出来るようになったみたいですけど、まだまだですかね」
「……確かにそうみたいだな」
ムーアの言うとおりリーウは少しだけ身体の中から漏れる魔力が減っているが、まだ漏れている。
今まではリーウが魔力を制御できるようになるまで魔法を教えるのを待とうと思っていたが、ムーアはもう魔力の制御は完璧だし時間も勿体無いと思った俺は先に進めることにした。
「よし、先にムーアに魔法を教えることにする」
「え!? リーウが魔力を制御できるまで待たなくていいんですか?」
「……リーウは魔力の制御にまだまだ時間がかかりそうだしな。 だがリーウにも魔法の使い方を聞かせるだけ聞かせておこう。 おいリーウ!」
「……え? あ、ティターン様。 いつの間に」
「これからムーアに魔法を教えるからお前も聞くだけ聞いておけ」
「……すみませんティターン様。 まだ僕が魔力の制御できなくて」
「気にするな。 俺はお前が普通だと思っている……ただムーアが早いだけだ」
「はい……」
……そう、これについては本当にムーアに才能があって魔力を感じることも制御することも早いだけで、リーウのように時間がかかるのが普通だと俺は思っていた。
「一応言っておくが、魔法の使い方を聞いてもお前はまだやろうとするなよ」
「分かりました」
「じゃあ2人共よく聞いておけよ」
「「はい」」
「先ず魔法というのは魔力を消費して発動するもの。 つまり簡単にいうと魔力を魔法に変えているんだ。 魔法は発動するものによって消費する魔力の量が違う。 強力な魔法は魔力を多く消費するし、簡単な魔法は少しの魔力で発動する。 これらの事を上手くするには魔力の制御が上手くできなくてはならない。 で、魔法の発動の仕方だが……これは発動したい魔法によって少し変わるのだが大まかには一緒だ。 発動したい魔法をイメージしながら魔力を放出して魔法に変える。 例えば右手の上に火の玉を出したいのなら、先ず右手に魔力を持っていき、その魔力が火の玉になるようにイメージして魔力を右手から放出する。 これで火の玉が右手の上にできていれば成功だ。 だが、魔法には人それぞれ適性がある。 その適性を分類分けしたのを俺は属性と呼んでいる。 例えば魔力が火に変わるのなら火属性の適性があるし、魔力が水になるなら水属性の適性があるという感じだ。 その属性なのだが……一杯ある。 俺も幾つあるのか今は分からない」
そうなのだ。
この数年間、俺は魔法の属性を調べようとしたのだが、その存在の持っている詳細な属性の調べ方なんて今の俺では分からないのだ。
俺自身の属性だって最初から知っている光や闇、血や龍といった4属性に加えて新たに水の属性に適性があるのが分かったくらいだ。
他の属性なんて時たまモンスターがてきとうに魔法を使っているのを見たのと俺が殺したあの角耳族の少女くらい。
「それで、魔法の適性の調べ方だが……今は手当たり次第、魔力が何に変わるか試してみるしかない」
「ティターン様でも分からないんですか?」
「分からない……がこれから魔法技術が進化していけば分かるかもしれない」
「そうなんですか。 難しいですね」
「とりあえず、ムーア。 お前は右手から魔力を放出してそれが火に変わるイメージだったり水に変わるイメージだったりを手当たり次第やってみろ。 俺が想像できるものだと火や水、風に土、光や闇だ」
「分かりました!」
元気よく返事をしたムーアは珍しく真剣な表情をして右手を前に向ける。
自分の適性に当たるまで時間がかかるだろう、と考えていた俺はムーアから目を離そうとして驚いた。
ムーアの右手の先から少量の水が出てきたのだ。
「む、ムーア! 出てる! 水出てるよ!」
それを見たリーウが驚いてそう叫んでいる。
ムーアには魔法の才能があると思ってはいたが、まさかこんなに早く適性を見つけ出すなんて思いもしなかった。
「え? ……あ、本当だ! 私、水を出してる! やったー!」
自分が水を出したことに気が付いて能天気にムーアが喜んでいると水は地面に落ちた。
「あ、落ちちゃった。 難しいなぁ。 ねぇティターン様、これって魔法ですよね?」
驚いて身体が固まっている俺にムーアはそう聞いてくる。
俺は気を取り直してムーアに向き直った。
「あぁ、間違いなく魔法だ。 ちゃんとイメージして集中している間は魔法を操れるが、集中が切れると操作できなくなるからな。 ……ムーアは水属性に適性があるのが早くも分かったが、他の適性があるかもしれないから試してみろ」
「はい!」
その後、ムーアには新たに土属性の適性があることが分かり、リーウはそのムーアのあまりの適性を見つける早さに唖然としていた。
もちろん俺も俺ほどではないにしろ魔法の才能を見せるムーアに驚いていた。
「土魔法! 次は水魔法! ……楽しいなぁ」
「……ムーアが楽しいなら良かった」
ムーアは楽しそうに土魔法と水魔法を交互に出して遊んでいる。
その近くでリーウはどこか諦めた表情でそれを見て呟いていた。
「次は……あ、あれ? おかしいな」
「ムーア!?」
突然、楽しそうに魔法を使っていたムーアが膝をついて倒れそうになる。
それをリーウが何とか倒れないように支えた。
「ティターン様! ムーアが!」
「……ちょっと待て」
俺はムーアに近付いてよく見る。
「ムーアはどうしたんですか!?」
「……大丈夫だ。 どうやら魔法を使い過ぎて身体の中の魔力を多く消費したんだろう。 時間が経てば回復する」
「……ごめんなさい。 ティターン様、リーウも」
「いいんだよ。 でも良かった」
リーウがホッとした顔でムーアを見つめている。
やはり自分の奥さんだから心配だったんだろう。
「最初は自分の魔力の量が上手く分からないだろうから、しょうがない。 ムーア、お前は最初から飛ばし過ぎだ。 2人共、今日はもう休め。 続きは明日からでいいだろう」
「はい……」
「ティターン様、ありがとうございました」
こうして騒がしくも兎族に初めての魔法を使う者、魔法使いが誕生した。
次の日からムーアはめきめきと魔法の腕を上げていき、リーウも無事に魔力の制御をマスターして風属性の適性があることが分かった。
これで自分も魔法が使えるとリーウは大喜びしているのが、印象的だった。
♢♢♢
リーウとムーアが魔法を使えるようになって、それからしばらくして木材で建てられた家がいくつか建ち並んだ頃、この村で初めてのことが起きようとしていた。
それはこの村の畑で初めて作物を収穫する、ということ。
初めて芽がでてから、とうとう野菜のような物が収穫できるまでに成長していたのだ。
俺と兎族たち全員は村の畑の前に集合して初めての収穫に胸を躍らせていた。
俺の隣に立っている若い兎族の男なんてずっと早く収穫したくてうずうずしている。
そういえば、この若い兎族の男は兎族の中で一番畑仕事を頑張っていたような気がする。
そう思いながらその若い兎族の男を見ていると、自分が見られていることに気が付いたその男は俺に話しかけてきた。
「ティターン様、畑での収穫楽しみですね! 早く収穫しましょうよ!」
「……お前は兎族の中で一番畑仕事をしていたな」
そう言われた若い兎族の男は一瞬驚いた表情をしたかと思えば恥ずかしそうにしている。
「……ティターン様、見てたんですか? 恥ずかしいなぁ」
俺はどうしてこの若い男が畑仕事を頑張っていたのか気になって聞いてみることにした。
「お前はどうして、あんなに畑仕事を頑張ってやっていたのだ?」
「え? ……簡単な理由ですよ。 ただ、俺は畑仕事が楽しかったんです」
「楽しかった? 畑仕事がか?」
「はい! 俺は土を弄る感覚や自分で作物を育てて成長をみるのが楽しくて楽しくてしょうがないんです!」
「楽しくて楽しくてしょうがない……か。 それなら確かに熱心に畑仕事をやっていたのも分かるな」
「……まぁそれだけじゃないですけど」
「まだ何かあるのか?」
「はい。 と言ってもこれは俺だけじゃなくて畑仕事をしていたみんなも言えることですけど」
「全員がか?」
「そうです。 俺たちは嬉しかったんです。 初めてティターン様に俺や俺たちは仕事を任されたんです。 それが嬉しくて嬉しくてたまらないんです」
「……」
「だって俺たちはみんなティターン様のことを大好きなんですから!」
そう言い切ったその若い兎族の男の顔はとても良い笑顔をしていた。
そして、俺に大好きなんて言った奴は2人目だった。
「……そうか。 お前もそう言うのか。 ……は、ははははははは!」
「ど、どうしたんですか?」
俺はまさかムーア以外に俺に大好きなんて言う奴は居ないと思っていたので驚き、そして愉快な気持ちになって笑い声をあげる。
「ははははははは……はぁ。 ……お前、名前は?」
「え?」
「だからお前の名前だ。 聞かせろ。 特別に覚えてやる」
こんな愉快な気持ちにさせる奴がこんなところに居るとはな。
俺はこいつの名前を聞いて覚えることにした。
「お、俺はドウです!」
「そうか! ドウ行くぞ! 収穫だ!」
「は、はい!」
慌ててついてくるドウを連れて俺は畑に一番乗りした。
その後、兎族たち全員と作物の収穫をしてから、村の中央で騒いだ。
その日は一日中兎族たちと収穫の喜びを分かち合い久しぶりに朝まで騒ぎ続けた。
こうして俺はドウという兎族の中で新しい名前を覚えることになった。
後にドウは畑仕事を頑張り試行錯誤して、これからの兎族の農業を引っ張って行くことになる。
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