第8話 ドラゴンヴァンパイアと兎族の神話の開始1

第8話 ドラゴンヴァンパイアと兎族の神話の開始1




 俺が兎族達を誰も居ない村に連れて帰ったら兎族達を各々がおそらく喜びの声をあげて騒ぐと再び俺に頭を下げる。

 その後兎族達はそれぞれ村の中のどこかに散っていった。

 ……なのにあの老人兎族だけはどこにも行かずに俺の所に留まっている。

 まさか、この老人兎族は俺にずっと付いて回る気か?


「おい。 お前は一体どういうつもりなんだ?」


 伝わらないと分かっていても、ついその老人兎族に声を掛けてしまうが、老人兎族はニコニコして俺を見るだけだ。

 ……はぁ、しょうがないこいつは好きにさせよう。

 俺はとりあえず、その老人兎族については放っておきこれからどうするかを考える。

 そこで気が付いたのだが、俺は友好的な相手に出会った時どうするのかをまったく考えていなかった。

 ……よくよく考えてみるとこれはとても難題なのではないだろうか?

 なぜならこの世界で言葉は一切通じないし、俺は特別に古代文明の生活や発展に詳しい訳でもない。

 これではどう友好的に接すればいいのかまったく分からないではないか!?


 ……とりあえず、兎族とのファーストコンタクトは獅子族とは違って上手くいった……いったよな?

 このニコニコ笑顔の老人兎族を見ると少しだけそこが不安になってくる。

 ま、まぁ兎族とのファーストコンタクトは上手くいったと仮定して俺はこいつらに何をすればいいのか今は分からない。

 だから、俺はしばらくこの兎族の村に滞在して兎族達の生活を観察する事にする。

 その兎族達の生活を観察して俺が必要だと思ったことを何とかして教えていこう。

 ……それに兎族達がもしかしたらまた獅子族……はもう来ないと思うが、それ以外の脅威に襲われるかもしれない。

 折角、この新しい大陸にまでやって来て発見した初めての友好的種族なのだ……何かに襲われて無くなってしまうのは勿体無い。

 だから……俺が滞在している間は少しだけ守ってやろう。



♢♢♢



 俺が兎族達の村に滞在し兎族達を観察し始めてから10日が経った。

 この10日間、俺はあの老人兎族と寝食を共にしていた……と、言っても食事は一緒に朝と夕に食べるだけ。

 それに俺は眠る必要がないから俺の隣で夜になると勝手に汚い毛皮を被りその老人兎族は眠る……しかも寝る時間が結構早い、それに起きる時間も早いのだが。

 それと兎族達が毎日貢ぎ物のように俺と老人兎族に木の実などを持ってくるので、俺はしかたなく老人兎族と同じ物を食べている。

 ……まぁ木の実自体は不味くはないのだが、俺は食べる必要がないのだ。

 それを伝えても言葉が通じないので伝わらない……はぁ。


 そして今日も始まり、隣で寝ていた老人兎族がゴソゴソと起きてくる。


「おはよう」


 とりあえず、俺は毎朝と夜に「おはよう」と「おやすみ」だけは声をかける事にしている……と言っても言葉じゃ通じないし伝わらないので意味はないと思うが、何となく続けていた。

 俺が声を掛けると毎回、老人兎族は少しポカンとした顔をすると頭を下げる。

 そのポカンとした顔が意外と面白くて俺は結構この老人兎族の事を気に入りだしていた。


 で、この10日間兎族達を観察した感想だが……ほっっっとうに生活がショボイ。

 見ているかぎり、兎族達の住居は木の枝と葉で出来てるし、兎族達の主食は森の恵み……つまり木の実とか木の実とか木の実とかだ。

 でも、たまに何かの弱そうなモンスターを狩ってくると意外にも上手く皮を石の道具でなめしているの見て驚いた。

 こいつら兎族達は意外にも手先が器用なのか石で石を削って道具を作れたりする……まぁ種類は少ないのだけどもそれはほんの少し評価できる。

 しかし、狩ってきた獲物の肉を生で食べようとするのはやめろ!! ……俺も食おうと思えば食えるかもしれないが生肉なんて気持ち悪くて食いたくない。

 驚いた事に、こいつら兎族は火をもっていないというか……知らないのだ。

 考えてみれば当然かもしれない……こいつら兎族達は木を切り倒して木材にして使ってる所なんて見ないし木で出来た道具すら持っていない。

 これは流石に教えた方が良いだろうと、思った俺は今日の昼間に木材と火を兎族達の与える事にした。


 俺は先ず兎族達を何とか声を掛けたり引っ張ってきたりして集めようとした……が、中々上手くいかない。

 そこで今まで何の役にも立ってなかった老人兎族が俺の行動をみて何をしたいのか察したのか、周囲に声を掛けて兎族達を集めてくれた。

 急に有能な行動を起こした老人兎族をみて俺は大変驚いて、内心こいつは食っちゃ寝するだけの老人じゃなかったのかと思っていた。

 そんなこんなで集まった兎族達を尻目に俺は村に近い木々の所まで歩いていく。

 俺は先ず木を切り倒すところを兎族達に見せようと思い、新しい龍魔法を発動する。

 これも俺が5年くらいで習得した魔法で、おそらく身体強化を中心とする龍魔法の活用法で身体の一部分を鋭く強化してどんな物でも綺麗に斬り裂けるようになるという一見地味な魔法 ……とりあえず名前は【龍斬】と名付けた。

 その龍斬を肘から先に発動して、木を一本俺は斬り……そして軽く蹴飛ばす。

 すると、バサバサっと木の枝葉が音を立てながら倒れていきドスンと地に横倒しになった。

 木が倒れた後、一瞬静寂に包まれたがすぐに後ろの兎族達が歓声だと思う声を上げる。

 俺はそれを手で制する……こんなことで驚いてもらっては困る。

 今度は人差し指を伸ばして龍斬を発動する……そして木の邪魔な枝葉を切り落とす。

 更に俺は枝葉を切り落とした木を大まかに四角く人差し指で加工する。

 それを兎族達は食い入るように見つめていた。

 俺はそれを確認すると次々と同じように木を切り倒して四角く加工していく。


 やがて、数十本四角く木を加工した俺は兎族達を手招きで呼び寄せる。

 すぐに俺の所にやってきた兎族達の目の前で俺は四角い木材を短くして、それぞれに渡す。

 何で渡されたのか? 何を渡されたのか分からない兎族達を見ながら俺も短くした木材を人差し指でどんどん加工する。

 すると、ただの木材が木の器に加工される。

 それを見た兎族達は驚きの声だと思われる声を上げ興奮しているようだ。

 俺は更に木材をどんどん加工していき……木のスプーン、フォーク、箸などの道具をどんどん作っていった。

 ここまで来ると兎族達もこの木材から道具が作り出せることに気が付いたのだろう……幾人かが尖った石を持ってきて木材を頑張って削っている姿が見える。

 ……何故かあの老人兎族は満足気な表情で深く何度も頷いていた。

 だから、お前はなんなんだよ!?

 ……しばらくの間、俺は集中して頑張っている兎族達を見守っていた。


 日が暮れ始めた頃、俺はそろそろいいだろうと、思い再び木材を幾つか持って兎族達を手招きして連れて行く。

 村の中心までやってきた俺はそこに持ってきた木材を適当に積み上げていく。

 兎族達は俺が何をするのか興味津々なようで皆俺の手元を食い入るように見ている。

 俺はその積み上げた木材に光魔法の応用で火をつけた。

 最初は小さかった火を見て不思議そうな顔をしていた兎族達だが、やがて火が大きく燃え上がると兎族達はとても驚いた様子だった。

 恐る恐る燃え上がる火に近付いていき火が暖かったり熱かったするのに気が付き、そして夜になっても明るいのを知り興奮したように火の周りで騒いだ。

 俺はそれを見て満足気な気分で見ていた……そして何故か隣で老人兎族も満足気な顔で深く頷いていた。

 ……もうお前はそんな感じなんだなと、俺は諦めた。

 結局、そのキャンプファイアーのような光景は日が昇るまで続く。

 兎族みんなが初めてのお祭り騒ぎを楽しんだ、と思う。

 ……俺はそれを見て何故だか少しだけ……たった少しだけだけど寂しさを感じていた。

 しかし、そのたった少しの寂しさもすぐに何処かへ消え去り俺はいつもの俺に戻る。


 それから俺はしばらくの間ずっとその火を燃やし続けることにした。

 そして兎族達に俺は木材を作ってやると共に木材の組み合わせ方などを何とか教える毎日を過ごす事になる。



♢♢♢



 あのキャンプファイアーの日から多分1年くらいが経ったと思う。

 俺は未だに兎族達の村であの老人兎族と寝食を共にしていた。

 あれから兎族達はどんどん木材加工の腕を伸ばしていき、今では村のどこでも木の道具が見て取れる。

 もちろん石の道具も現役で技術も上がってはいるが、木材の方が加工が楽なのか、木の道具の方が多い。

 そんなこんなで今までの1年間くらいを振り返っていると、隣で毛皮の中でゴソゴソと動いて起き上がる老人兎族がいた。

 ……もうこいつが横で勝手に寝食をするのも慣れてしまったな。

 とりあえず、俺はいつものように伝わらないであろう言葉を掛ける。


「おはよう」


 すると、老人兎族はいつもと違い俺をしっかりと見て口を開いた。


「おあよお」

「……え?」

「おあよお」

「……お、おはよう」


 俺はこの時、転生して初めて心底驚いた。

 ……なんとこの老人兎族は舌足らずだが、確かに「おはよう」と言ったのだ!

 どうせ伝わらないし意味もないと思ってやっていた事がまさかこんな事になるなんて!

 ……そこで俺はある考えを閃いた、というか何故今までの気が付かなかったのだ!?

 言葉が通じない、伝わらないならば――


 ――俺がこいつらに日本語を教えればいいじゃないか!


 本当になんで俺は今までのこんな事にも気が付かなかった!?

 ……いや、待て。

 数ある言語の中でも難しいと言われる日本語を特別に詳しいという訳ではないこの俺が、木材を加工して木の道具を作れるようになったばかりのこの原始的……兎族達に喋れるようになるまで日本語を教える事が出来るのか?

 

 どうする? どうするのだ?

 考えて考えて考え抜いて俺は結論を出した。

 俺はやはり日本語を兎族達に教える事にした。

 やはり言葉が通じるようになれば、今までの伝えられずに出来なかった数々の事ができるようになり、コミュニケーションがスムーズになる。

 ……それに俺はきちんと兎族達に火が暖かくて明るいことや、木を切り倒して加工すれば道具になる事を教えられたじゃないか!

 ……そしてこの老人兎族は俺に証明してくれた。

 老人兎族でも頑張れば舌足らずながら日本語が喋れることを!

 何だかこの老人兎族を称賛しているようで……何か嫌だが。

 

 よし、そうと決まったら早速兎族達に日本語を教えよう。

 ……でも流石に全員に一斉に教える訳にはいかない、というかそれでは上手くいかないだろう。

 ならば最初は若い男女一組と物覚えの良い子供の男女一組に教えることにしよう。

 そう考えた俺はすぐに村の中で多分暇そうな若い男女一組と子供の男女一組を俺の村の中の定位置に連れてきた。

 それから俺はもう必死でその日本語勉強会を開いて日本語をその4人に教え出す……ついでにあの老人兎族も日本語を勉強会に勝手に参加していた。

 だからお前はなんなんだよ!?

 ……まぁお前が兎族で1番最初に日本語を喋ったし、勉強会参加を許可することに。


 ――それからしばらくは兎族達の村の中に俺の日本語を喋る大きな声が響いていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る