第4話 ドラゴンヴァンパイアとモンスターと新魔法
第4話 ドラゴンヴァンパイアとモンスターと新魔法
3つ目の人間の村を通ってから約3ヶ月、俺は不眠不休でひたすら真っ直ぐ歩き続けていた。
あれから人間の新しい村を見つけてはいない……それと同じように人間以外の村も見つからない。
転生してからこの暇な時間で解ったことが幾つかある。
まず、俺は強靭な肉体のお陰なのか今まで眠くもならないし、歩くだけならあまり疲れない。
そして驚くことに転生してから俺はお腹が空いたと感じることがない……その代わり俺は喉が渇く。
最初は見つけた水場で水を飲んでみたが、喉の渇きは潤わない。
そこで俺は携帯している血を飲んでみることにした……すると喉の渇きは潤った。
この事から予想するに、どうやら俺はお腹は空かないが血液を定期的に飲まなければいけないらしい。
その所為で今、問題が1つある。
俺は最初、少量の血液しか携帯していなかった所為で数度の喉の渇きですべて飲んでしまったのである。
どこかで補給しようにも何故だか俺は人間の村を出てから血を流すような生物と遭遇しない。
……つまり今現在俺には血液のストックがなく、補給手段も見つからないのである。
こんな事なら人間の村で血液を捨てずにもっと持ち運んでいればよかった。
……幸いな事に俺が喉が渇く間の期間はそれなりに長く、一度の補給でそれなりに持つみたいだ。
なぜなら最初に血液を飲んだのが転生して間もないころ見つけた最初の人間の村でそれも少量だからだ。
それから喉が渇いたのが約5ヶ月後……だと思う……最初に飲んだのが少量だと考えて約半年は喉が渇かない筈。
……まぁ喉が渇いたからといって直ぐにでも血液を飲まなければいけないという事もないだろうし……なんとかなるだろう。
……そう楽観的に俺は考えていた。
♢♢♢
血液を飲まなければいけない問題を考えていた時から約4ヶ月の時が流れていた。
未だに血液補給が俺には出来ていない。
それは何故か? それは俺が未だに血を流す生物と出会えていないからだ。
こうなってくると流石にこの状況がおかしいのは俺でも気がつく。
しかし、原因がわからない。
俺自身が何かしら悪いのか? それとも周囲の環境のせいか? それとも他に原因が?
……だめだ。まったくわからない。
流石にこれはヤバイのではないか……と俺も考え始める。
そう考えていた俺の目の前にある光景が現れる。
「これは……山か……デカイなぁ」
俺の目前にそれなりに大きな緑に覆われた山が姿を現した。
「徒歩で山越えは面倒だぞ」
流石にこの山を徒歩で越えていくのは面倒だと考えた俺は空を飛んで山を越える事にする。
「とっとと飛んで越えてしまおう」
そう口に出した俺は巨大な翼を羽ばたかせて空へと飛び出した。
そのまま山よりも高い所まで飛んだ俺は山を越えようとする。
「……グエェ……」
山の頂を越えようとした頃、何か変な鳴き声が下の方から聞こえてきた。
「何だこの鳴き声は?」
そのまま山の頂より上に飛んでいると、バサバサと俺のではない何かが羽ばたく音が下から聞こえてくる。
「何だあれは? ……鳥か?」
音が聞こえてくる下の山の頂の方を見ると巨大な何かしらの存在が俺の方に向かって飛んでくる。
その存在をよく見ると全長6メートルはありそうな見た事もない灰色の鳥のような何かが鳴き声を鳴らしつつ飛んでいる。
「……まさか……モンスターか!?」
「グエェ!!」
見た事もない巨大な鳥のような生物なんて間違いなくモンスターだろう。
どうやら異世界初のモンスターとのエンカウントは巨大な鳥型生物らしい。
これは俺にとって幸運だ。見たかったモンスターを見れた上に血液も補給できる……まさに一石二鳥。
……ただ、1つ問題があるとしたら俺はモンスターの血液でも人間の血液と同じように飲んで喉の渇きが潤うのかどうかという事だろう。
まぁそれは今俺に向かって飛んできている鳥型モンスターで試してみるしかない。
「グエェェェェェ!!」
その鳥型モンスターは奇妙な鳴き声を鳴らしてからその巨大な鋭い嘴を俺に向けて突撃してきた。
「おっと」
俺はそのモンスターの突撃を危なげなく横に移動して回避する。
すると、鳥型モンスターは放物線を描いて再び俺に向かって突撃してきた。
「芸がないな!」
突撃してきた鳥型モンスターを避けると同時に軽く蹴る。
「グエェ……」
鳥型モンスターはまさか蹴られると思っていなかったのだろう。空中で姿勢を崩してなんとか落ちないように翼を一生懸命羽ばたかせている。
……完全に隙だらけだ。
「フッ!」
俺は即座に鳥型モンスターに近付くと右腕で奴の胴体をぶち抜いた。
「……グェ……ェ」
少し暴れた鳥型モンスターは直ぐに痙攣して動かなくなった。
右腕に巨大な鳥型モンスターの全体重が乗るがこのくらいの重さなら俺の腕力で問題ない。
俺は左手で鳥型モンスターの首を掴み右腕を胴体から引き抜く。
ぽっかりと空いた胴体の穴から鮮血が溢れ出し下に落ちそうなのを俺は血魔法を使って集める。
どんどん球体状に集まっていく赤い血液を見て俺はモンスターの血も人間と同じで赤いんだなって感想を頭の中で浮かべていた。
巨大な球体になった血液を見て血液が集まったのを確認すると俺は掴んでいた鳥型モンスターの首を離す。
血液の無くなった鳥型モンスターの死骸はそのまま重力に従い山に落ちていった。
「さて……あとはこれが飲めるかどうかだが」
俺はとりあえず、この血液の球体を舐めてみることにする。
「……うん、味は……問題ないかな」
……どうやらこのモンスターの血液でも問題なく俺は摂取できるらしい。
「!!!!!」
「なんだ?」
モンスターの血液に関して考えを進めていると下の山の方が騒がしくなる。
「何が起こっている?」
緑に覆われた山から灰色の塊が空に飛び出してくる。
「おいおい、マジかよ」
その灰色の塊をよく見ると先程殺した鳥型モンスターと同じモンスターが無数に集まっている姿だった。
集まった鳥型モンスターは30羽くらい居るのではないだろうか。
……しかも、時間が経つごとに山から同じような灰色の鳥型モンスターの塊が2つ、3つと空へと飛び出してくる。
「どんだけ居るんだよ!」
……そして最初の灰色のモンスターの塊が俺に向かって突撃してきた。
俺はすぐさま迎撃する為に姿勢を整え灰色の塊とぶつかる。
鳥型モンスター集団の突撃に呑み込まれた中で俺は両腕で1羽ずつ……計2羽を仕留めたところで集団から抜けてモンスターの塊がどこかに飛んでいく。
……それで終わりではなかった。
最初に突撃してきた鳥型モンスター集団とは別の鳥型モンスター集団がすぐに俺の背後から突撃してきたのである。
「ナニィ!?」
俺はすぐさま両腕の邪魔な鳥型モンスターの死骸を放り出すがこのままでは間に合わない。
「ちっ!」
即座に集めた血液を壁状に変形させて鳥型モンスターの突撃とぶつける。
しかし、俺の魔法技術が低いからだろう……完全に壁に変形させる頃には鳥型モンスターの集団は俺の身体を通り過ぎていた。
通り過ぎる間に俺は5、6回ほど鳥型モンスターに攻撃されていた。
幸いなことにあの鳥型モンスター達では俺に対した攻撃力はないのだろう……俺の身体に傷はない。
「くそっ」
怪我はないが頭にくる攻撃だ。
俺に突撃していった鳥型モンスター集団とは別の集団が既に突撃態勢に入っている。
「波状攻撃かよ」
俺は溜めている血液を使ってブラッドウェポンを発動、血液が巨大な大剣の形を作る。
その大剣を俺は握りしめ、残った血液を動かせるだけ動かして小槍を作る……数は今俺が同時に操れる限界数30本だ。
なんとか迎撃態勢を3回目の鳥型モンスター集団の突撃に間に合わせた。
「オラァァァァァ!!」
3回目の鳥型モンスター集団の突撃に合わせて思いっきり大剣を振るう。
それと同時に小槍を前に射出する。
「グエェェェェェ!!」
俺が振るった大剣の一撃は鳥型モンスターを同時に6羽斬り落としたが小槍の方は制御がまだ粗く30本飛ばして4羽しか仕留められなかった。
……1度に10羽仕留めたが、それでも数はまだまだ多い。
次の集団の突撃に備えてすぐに飛ばした小槍を呼び戻す。
呼び戻したころにはもう鳥型モンスター集団が突撃態勢に入っている。
何とか突撃に合わせて咄嗟に小槍を飛ばそうとするが上手く前に飛ばない。
仕方なく大剣だけは当てようと思いっきり振るう……がタイミングが少しずれて斬り落とせたのは4羽だけだった。
「……くそっ! ……何度も小槍30本を制御しながら奴らの突撃に合わせて射出、大剣を振るのは今の俺じゃキツイぞ! ……しょうがない」
すぐに俺は展開していた30本の小槍を集めて血液に戻す。
戻した血液でもう一本大剣を形作り、両方の手で一本ずつ大剣を握る。
「……大剣二刀流だ!」
今の俺では細かい制御をしながら大剣を振るうのは無理だと考えたので大剣をもう一本増やして両手で振るうことにした。
既に突撃態勢に入っている鳥型モンスター集団に合わせて二本の大剣を振るう。
「ラァァァァァァ!!」
ザクザクザクと次々に鳥型モンスターを斬り落としていき、集団の突撃を抜けた時には両方の大剣で塊の半分の15羽もの鳥型モンスターを斬り殺していた。
「しゃあ! 見たか!」
それから数度の鳥型モンスター集団の突撃とかち合い、俺は最後の1羽を斬り殺した。
幾つもの灰色の塊を山の上で斬り落とした所為で下の山の頂が大量の鳥型モンスターの死骸と鮮血で赤く染まっている。
「面倒だったな……」
結果的に息も切らせていないし身体に傷一つ付いていないが……とても面倒だった。
……というかあの鳥型モンスターは何だって俺をあんな集団で襲ってきたのだろうか?
とてもしつこい上に最後の数羽になろうとも逃げ出すことがなかった。
……まるで狂ったような行動だが、その攻撃は波状攻撃で上手く連携できている。
「まぁ……もういいか」
全部倒してしまったことだし、もう関係ない。
俺は先に進むことに決めて両手でそれぞれ握っている大剣をただの血液に戻す。
そして山の頂の上から移動したその時--。
――――グエェェェェェ!!
「……おいおい、流石に嘘だろ?」
俺は一瞬、幻聴でも聞こえたのか? と考えたくなったが思い直し嫌々後ろに振り返る。
するとそこには灰色の塊……鳥型モンスターの集団が幾つも山から飛び出てくる光景が広がっていた。
「しつこすぎるだろ……なんかさっきより多いし」
山から飛び出してきた鳥型モンスター集団の数は明らかに先程より数が多い。
「ああもう……そうだ! あれやるか」
俺はそこで今までの道中で考えていた魔法を思い出した。
それは光魔法の新しい攻撃方法だ。
今の俺は悲しいことだが技量不足で光魔法はライトボール……光の球を飛ばす事しか出来ない。
そこで俺は考えた……光の球しか出来ないなら光の球で出来ることをしよう! と。
それは大量の魔力を注ぎ込み、ライトボールをめちゃくちゃデカくして放つという物。
今までは考えるだけで試す機会が無くて忘れていたが、今こそやる時だろう!
「よっしゃぁ! やるぞぉ!」
俺は両手を空高く上げて魔力を流してライトボールを作る。
そしてそのまま巨大化させるイメージをして更に魔力を注ぎ込み続ける。
大量の魔力を注ぎ込まれたライトボールはどんどん大きくなっていき、まるで太陽がもう一つ出来たようだった。
「うおぉぉぉすげぇ! まるで元気を集める某少年漫画の主人公みたいだ!」
僅かに感じる熱を発する巨大なそれは最早ライトボールとは別の魔法と言える。
俺が僅かに熱を感じる程度なので済んでいるのだから中心温度はどれだけ高いのか。
よし! この魔法は【ライトフレア】と名付けよう!
鳥型モンスター集団を見ると、どいつもこいつも様子を見ているようで突撃してこない。
今がチャンスだろう。
ライトフレアは既に直径20メートルの大きさはありそうだ。
……もういいだろう! もう充分な大きさだ。
「うおぉぉぉいっけぇぇぇぇぇ! ライトフレアァァァァァァ!!」
俺は上空から山の頂を目指してライトフレアを叩き込んだ。
ライトフレアはゆっくりと山の頂に向かって落ちていく。
途中幾つかの鳥型モンスター集団に接触するが、接触した鳥型モンスター集団は一瞬で消し炭となり、跡形もない。
ゆっくりと落ちていくライトフレアは山を抉りながら落ちていき……そして一瞬の閃光の後、大爆発。
かなり上空に飛んでいた俺の所までかなりの衝撃が飛んできて俺を襲う。
飛んできた衝撃で目を閉じて少し姿勢を崩すが何とか持ち直す。
……そして目を開く。
すると俺の眼下には先程とはまったく違う光景が広がっていた。
そこに存在していた筈の巨大な山は跡形も無く消え去り、更にライトフレアは下の大地をも抉り取り巨大なクレーターがそこには出来ていた。
「……は……ははは……スゲェよ……ライトフレア……なんて衝撃だ」
しばらく俺はこの光景を呆然と見ていたが、気を取り直し最初の目的通り先に進むことにする。
「新しい魔法も試せたし結果的には良かったな……鳥型モンスターはしつこかったけど」
……もっと魔力を注ぎ込んでいたらあの距離じゃ俺も危なかったのでは? と考えると、あれくらいで止めといてよかったな……と俺は後で思った。
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