第3話 ドラゴンヴァンパイアと原始的な人間
第3話 ドラゴンヴァンパイアと原始的な人間
現在、森で人間の原始的な村を見つけて皆殺しにしてから、新しく2つの人間の村を俺は見つけていた。
とりあえず2つ目の村では、違う村だし違う反応をしてくれる事を期待して俺は最初の村と同じように近づいていく。
……結果は同じ。2つ目の人間の村も最初と同じ対応をしてきたので皆殺しにした。
もうこの時点で俺は人間の村には期待する事をやめていた。
なので、人間以外と出会えないかなーっと思いながら真っ直ぐ大地を進んでいく。
そして今、俺は3つ目の人間の村を発見する。どうやら俺は人間の村に余程縁があるようだ。
今回の村は美しい湖の横にできた村で住居は最初の村よりはマシな感じだ。
もう無視して上空を飛んで通り過ぎようかとも思ったが、今回は魔圧を2割程出して村に接触する事にした。
考えてみれば最初の村も2つ目の村でも人間になめられていたのではないか?
そう思った俺は魔圧を少し出して人間を威圧すれば相手の対応も変わるだろうと考えた。
そしてこれでダメならもう人間の村を見つけても無視する事にしよう。
そう結論を出した俺は魔圧を放出しながら村にゆっくりと歩き出した。
♢♢♢
俺はこの美しい水の村で一の戦士 ヌ・デアだ。 俺が扱う槍は数々の外敵を葬りこの村を守ってきた。
しかし、この日不条理な力によって村は壊滅した。
日がさす中、俺はいつも通り村に問題がないか確認をする為、村の中を歩き回っていた。
そんな時、村の入り口の方から見張りを任せていた目の良い戦士が慌てたように俺の所へやってくる。
その男の様子に俺は驚いた。その男の戦士は目が良い為、見張りをすることになっているのだが、どんな時も冷静な戦士としても有名な筈だったからだ。
事実、モンスターがこの村を襲ってきた時も俺はその男が冷静に戦っていたのを覚えている。
その冷静な戦士が大慌てで村一番の戦士である俺の所にやってくる……これは相当な事があったに違いない。
「ヌ・デア!! た、大変だ!!」
「どうしたんだ?」
「ば、化け物が……化け物が」
「落ち着け! いつものお前らしくない」
しばらくするとその男は少し冷静になれたのだろう。
ゆっくりと話し出す。
「村に今、化け物が近づいてきている」
「化け物? 一体どんな奴だ」
「見た目は半分くらいとても美しい女なんだ」
「半分くらい女?」
一体どんな奴だ? 半分くらい女って。
「そいつは背中に巨大な翼と尻尾が生えてんだよ!」
「女に巨大な翼と尻尾?」
本当なんだろうか?
「そいつを見た瞬間、俺は恐怖で全身の震えが止まらなくなって……」
「本当にそんな奴を見たのか?」
「信じられないのも分かるが信じてくれ! ほら、今でも足が震えてやがる」
確かにとんでもない事が起こってるのはこの男を見れば分かるが、想像できない。
「わかった。俺が先にそいつの所に行く。お前は村中の女子供を家に入れてから戦士を集めてきてくれ!」
「わ、わかった。でもいくらヌ・デアでも1人ではアイツには勝てない。俺たちが行くまで攻撃はしない方がいい」
「……では行ってくる」
俺は村の入り口に急いで向かう。向かっている最中、俺はこんな時に不謹慎だが自分が喜んでいるのがわかる。
今まで俺と対等に戦える戦士は村の中にはいなかった。
前のモンスターが村を襲撃した時だって俺に傷を付けられる奴は居らず、俺は無傷で勝利した。
今度の相手はとんでもない化け物……そいつが俺を楽しませてくれる程の奴なのを願う。
それにどんな相手だろうと俺の槍さばきとこの水晶の槍があれば負ける筈がない。
そんな事を考えて村の入り口に到着した。 村の入り口に着いた俺は即座に男が言っていた化け物を探す。
そいつは村の入り口の先に立っていた。 見た目は美しい白い髪の女……しかし、そいつには巨大な翼と尻尾、それに角が生えていて見るだけで俺の全身が急に震えだして止まらなくなる。
まさか? まさか俺が見るだけで恐怖を感じている?
こんな女のような奴に恐怖を感じているというのか!?
このヌ・デアが!?
……そんな訳……そんな訳ないッ!!
しかし、現に身体は震えるだけで足は前に進まない。
俺は村一番の戦士ヌ・デアだッ!! 動け……動けェェェェ!!
僅かに足が進み始める。
「うあああああああああああああああ!!」
そのまま俺は自慢の水晶の槍を化け物に向け歩き、次第に足は速くなっていく。
気が付けば俺は全力で化け物に向かって走って突撃していた。
その突撃する俺の姿に優れた槍さばきなどなく、ただ槍を突き出すだけ。
突き出された槍には目に映る理解不能な化け物を消し去りたいという小さな勇気と大きな恐怖が載っていた。
――そして水晶の槍はその化け物に到達する。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
水晶の槍が化け物に突き刺さる瞬間、俺は恐怖でとうとう目を閉じていた。
……だが、確かに槍が何かに当たった感覚はある。まるで硬い岩に槍をぶつけたような感覚だ。
俺は未だにおそらく何かの恐怖で震える身体を抑え、ゆっくりと目を開く。
最初は槍を持つ俺の手が目に入る。そのまま視線を槍の先へゆっくりと動かす。
槍の穂先は化け物の身体の中心に向かっている。
俺は目を見開いてよく見る。
「ああああぁ……あああああああああああああああ」
それを理解した瞬間、俺の中にあった小さな勇気は跡形もなく消え去り残った大きな恐怖が俺を押し潰そうと俺の全てを襲い出した。
俺は今まで肌身離さず持ち歩いていた愛用の槍を手放し後ずさる。
――化け物は槍の穂先を止めていたのだ……片手で握って。
化け物は握っていた槍を手放し、無造作に俺に近づくと片手で俺を払った。
それだけで、俺は横に吹き飛び何かに頭から激突する。
……そして俺は意識を失った。
♢♢♢
人間の村に近づいた俺はとりあえず、こっちからも向こうからも見える位置で立ち止まる。
これで人間達がどう対応をしてくるか様子を見ることにした。
先ず俺を村の見張りらしき人間の男が発見すると、その人間は全身を震わせる。そしてそのまま村の中に入っていった。
やはり魔圧は威圧として人間にも効くようだ。2割程の解放で人間の大の男が全身を震わせるくらいらしい……これで人間になめられるという事もないだろう。
しばらくすると、先程見張りをしていた男とは違う男が顔を引き締めて村の入り口に現れた。
その男は戦士なのだろう。驚く事に石槍以外の武器をその手に持っていた。その槍は穂先に透き通った塊を使っている。……この村の特産か何かか?
今まではどの人間も武器は石槍しか持っていなかったな。
その透き通った塊を使って槍を持つ戦士の男も、俺を発見すると見張りの男同様、全身を震わせて目を見開いている。
……さて、ここからこの人間はどう行動するのか?
俺はその人間を観察する。俺の予想では見張りの男と同じように何処かに逃げると考えていた。
しかし、俺の予想は裏切られる。
「へぇ……」
その人間の戦士は一歩足を前に踏み出したのである……槍を俺に向けて。
驚いた……てっきり震える程、恐怖を感じているなら逃げ出すと思ってたんだが……。
一歩一歩ゆっくりと近づいてくるその男……段々とその足取りは速くなっていき、とうとう俺に向かって突撃ともいえる速度に達する。
どうやらこの男には自身を突き動かす何かがあるようだ。
それが村を守る為か、それとも何かのプライドが刺激されたかは知らないが……無謀だな。
突撃してきた男が俺に到達する。
俺は奴が俺に向けている透き通った穂先を右手で握り、その突撃を止めた。
その人間の戦士は目を見開き、絶望した表情を浮かべ槍を手放し後ずさる。
無謀だったが、その意外な行動に免じてこの男は手で払う程度にしてやろう。
俺はその人間を手で払う。人間は横に飛んでいき生えていた木に激突して動かなくなった。
いつもなら敵対した時点で殺して終わりだが……まぁこの程度なら生き残るかもな……生き残って幸せかどうかは知らないがな。
♢♢♢
結局、あの湖が美しい村は残した。
あの後、大勢の戦士だと思われる男達が俺の前にやって来たが、全員が全身を震わせ俺に恐怖して動けないでいたので武器を持っている奴は全員俺が携帯していた血の球体から血の武器【ブラッドウェポン】を使って殺して、そしてそのまま俺はその村から歩き去った。
もうその村に興味はなかった……でも魔圧2割であのような反応をするのが分かったので収穫はあった。
しかし、俺はもう人間の村を見つけても無視する事に決めた……今度は人間以外の村、獣人やエルフなどの他種族村なら寄る事にする。
そう考えながら俺は道無き道を真っ直ぐ進む。
♢♢♢
「……デア……ヌ・デ……」
なんだ? 誰かが俺を呼んでいる気がする。
「ヌ・デア! 起きてヌ・デア!!」
わかった。わかったからそう五月蝿く騒ぐな……。
俺はゆっくりと目を開き視線を動かす。すると側で俺を呼んでいる声の正体が分かった。
俺を五月蝿く呼んでいたのは隣の家に住む幼馴染の女だった。
こいつとは幼い頃から隣に住みよく顔を合わせていて一緒に遊んだりしていた仲だ。
大人になった今でも家が隣同士なので朝と夜はよく顔を合わせる。
それに何かがあれば直ぐに俺の所に来ては頼ってくるのでそれなりに可愛い奴だ。
……その彼女が寝ている俺の側で何があったか知らないが、泣きながら俺の名を呼んでいる。
……応えねば。
「……何を泣いている? 泣くな」
「……ヌ・デア? ……本当にヌ・デアなの!?」
「あぁそうだ。何を驚いている?」
泣いている彼女の声に応えるとその彼女は驚いた表情で固まっている。
……そういえば何故俺は寝ているのだろう?
俺は身体を起こす。
「――っつ!?」
「だ、大丈夫!?」
身体を起こすとともに痛みが全身を走る。側にいた彼女が慌てて声を掛けてきた。
そしてそのまま彼女は俺に抱きついてくる。
「よがっだ〜ほんどうによがった〜」
「おいおい、どうしたんだそんなに泣いて? ……とりあえず、身体が痛いから離れてくれ」
「あ、ご、ごめん」
彼女は俺から離れて手を握ってくる。
「でも……本当に良かった。 ……死んじゃった男の人も沢山いて……ヌ・デアも目を覚まさないかもって……」
「死んじゃった人?」
一体、彼女は何を言っているんだ? 俺が目を覚まさない? そうだ! 何で俺は寝ていたんだ!? 思い出せ!
「あ……ああああああああああああああああああ!!」
「ヌ、ヌ・デア?」
「思い出した!! 化け物だ!! 化け物が俺を見て……それで……それで」
何故忘れていたんだ俺は!! 早く逃げなくては! みんな殺されてしまう!!
「ヌ・デア!!」
そばに居た彼女が急に俺を抱きしめる。
「大丈夫……大丈夫だから」
「え? ……」
「怖いのは居なくなったの。どっか行っちゃったの。だからもう大丈夫」
少しずつ俺の心が落ち着いてくる。
「あの化け物は居ないのか……」
「そう。あれはもう居ないの。だから大丈夫」
心が落ち着いて俺の中にあった恐怖も薄れていく。彼女のお陰だ。
「……ありがとう。もう大丈夫だ」
「……うん」
「……でも、もうしばらくこうさせてくれ」
「うん」
俺は彼女を強く抱きしめ返した。
村の広場には目を背けたくなるような壮絶な光景が広がっていた。
辺り一面、真っ赤に血で染まっていてその中に戦士だった男達の遺体が転がっている。
あまりの血の量に隣の美しい湖と比較してまるで村の広場に血の湖が出来たようだった。
大勢の戦士達が死んでしまったが、幸いな事に俺も含めて数名生き残った戦士がいる上に家に居た女子供には被害が全く無かった為、村の立て直しは何とか可能だろう。
……それにしてあの化け物は一体何だったのか?
俺には何もわからない。
ただ、1つ言えることはあの化け物は自然が起こす災害のような出来事で俺達にはどうする事も出来ない類のものだという事だろう。
だから俺達は伝え残す事に決めた……あの美しくも恐ろしい怪物を。
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