第2話 ドラゴンヴァンパイアのスペック

第2話 ドラゴンヴァンパイアのスペック




「うぅん……ハッ!?」


 どうやら俺は眠っていたようだ。

 ……なんで俺は眠っていたんだ? というか地面が硬い。

 どこで寝てるんだよ!

 とりあえず身体を起こして自分がどこで寝ていたのか確認する。……どうも俺は大きな岩の上に寝転がっていたらしい。そりゃ硬いわ。

 そこで眠っていた頭が冴えていきここまでの記憶を思い出した。


「ああ……そうかー転生したんだ。じゃあここは新しい世界? というか神様最後に何て事言ってんだよ!」


 人間の魂では合わないから魂が変質? 一体どういう事だよ……わからん。

 わからない事を考えてもしょうがないし、今はこの新しい身体で新しい世界を堪能しよう。

 そう考えた俺は今いる場所をちゃんと確認しようとして立ち上がる。


「見渡す限り……岩。どうやらここは岩場らしいな」


 見る限りではどこまでも岩が続いている。そして空からは燦々とした太陽が俺の身体を照らしている。まぁ……これはこれで好都合だな。今からこの身体の力を確認するのにはもってこいの場所だ。

 ……それにどうやら太陽というヴァンパイアの弱点は克服しているようだな。


「とりあえずこの岩でいいかな」


 手始めに近くに立っている岩に近づいて思いっきり右手の拳を振るう。

 すると、轟音をたてて岩が砕け散った。


「こりゃ凄い。次は尻尾だ」


白い尻尾をぶんぶんと動かしてから新しい岩に叩きつける。今度も岩は轟音をたてて砕け散る。


「ひゃー凄い凄い!」


 今岩に叩きつけた自分の鱗が生えた尻尾を抱き寄せ触りながら確認するが、傷一つ付いてない。


「今度は翼だ。空を飛ぶぞ〜」


 バサバサと翼を羽ばたかせる。最初はぎこちなかったものの段々と上手く動かせるようになっていき、そして俺は浮いた。


「うおぉー浮いてる! 俺、浮いてるよ!!」


 中に浮き始めた俺は少しずつ高度を上げていき、そのまま移動できるようになる。


「飛んでる飛んでる! よっしゃもっとスピードだすぜぇ」


 どんどんテンションが上がっていく俺はそのまま移動スピードを上げていき岩場を飛び回った。

 30分後、完全に飛ぶ事に慣れた俺は岩場がどこまで続いているのかを確認してからまだ実験したい事があるので元の場所に戻る。ちなみに岩場の先は森だった。


「よし、次は魔法を試すぞ! 」


 試す前から心がドキドキして止まらない。俺が使える魔法は設定通りなら光・龍・闇・血の4属性の筈だ。

 先ず王道ならやっぱり魔法を使うには魔力を感じるとこからだろう。

 俺は目を閉じ身体の中に意識を向ける。すると今まで感じたことのない物が身体の中心から発せられて外に出ているのを感じる事が出来た。

 随分と簡単にできたが、これが魔力だと思う。どうやら今のままだと魔力を外に垂れ流しているだけのようだ。

 俺はこの魔力を意識して身体の中に留めるようにする。

 ……すると魔力は外に出なくなる。上手くいったようだ。 次にその魔力を右手に持っていき光をイメージする。


「うおぉ、出た!」


 上手くできたようで、光の球体が右手のひらの上で浮いている。とりあえず、この魔法は【ライトボール】と名付けよう。

 俺はそのライトボールを見える位置にある岩に飛んでいくイメージをする。するとライトボールは凄まじいスピードで飛んでいき岩に穴を開けて空の彼方へ消えていった。


「凄いなこれ……まるでビームだ」



 それから俺は色々と魔法を試してみた。光魔法は今のところライトボールしか出来ない。

 龍魔法は使ってみると少し身体が軽くなった感じがした、どうやら身体能力を強化するらしい。

 次に闇魔法だが、光魔法と同じように球体を出す事くらいしか出来なかった。とりあえずこの黒い球体を【ダークボール】と名付ける。

 そして最期の血魔法だが……これは何もわからなかった。もしかしたら発動には血が必要なんだろうか?  それなら何処かに生き物でもいたら殺して試してみよう。一応自分を傷付けても出来そうだが、それは何となく嫌だ。


 これでとりあえず岩場で試してみたい事は終わり。次はどうしようか?

 色々考えてみた結果、俺は自分以外の生物を見る事にした。この世界に来てまだ何とも出会ってない。

 モンスターであれ人間であれ獣人らと、とりあえず出会ってみる。

 そして相手が友好的ならこちらも友好的に接して、もし相手が敵対的なら……容赦はしない。殺そう。

 そう……この俺に敵対的な存在なんて殺してしまおう。

 ちょうど血魔法の実験も出来そうだしそれがいい。ではさっそく生物を探そう。

 どうやらこの岩場には生物は居ないみたいだし、この先の森へ行こう。

 森ならば生物は豊富な筈だ。だって森に生物が居ない筈はないだろう。では行こう。

 俺は自身の巨大な翼を羽ばたかせ空へと飛び出そうとして一つ思いつく。


「この魔力を最初と同じように常に外へ放出していると、どうなるんだろうか?」


 気になった俺は魔力をわざと外へ放出しながら空へと飛び出した。行先は森だ。



♢♢♢



 森へとゆっくり飛んできた俺は森の入り口に降り立った。

 すると森の木々が軋むような音を立てて震えている。


「これは……なるほど。魔力を外に放出するとその強さによって威圧にもなるのか……ははっ! これは良い! 魔力の圧力、威圧……【魔圧】とでも名付けよう。 木々までもが俺に平伏すとはな……なんだか良い気分だが、今は止めといた方がいいだろう。これじゃあ何も寄ってこなくなってしまうしな」


 俺は今全力で放出していた魔力を意識して身体の中に留めるようにする。

 すると、軋むような音を立てて震えていた木々が止まる。


「よし、では何か生きている者を探そう。血を流す生きている生物をな!」


 俺は鬱蒼とした森の中へと足を進めていく。




♢♢♢



 30分程、森の中を歩いてどんどん進んでいたが生き物の気配を全く感じられなかった。

 この森は鬱陶しいくらい木々が生い茂っているから直ぐにでも生き物と遭遇するだろうと簡単に考え過ぎていただろうか?

 ……それともやはり森の入り口で全力で魔圧を掛けていたのがいけなかったのか?

 あれで近くの生き物が全て逃げて行ってしまったのかもしれない。……次からは必要な時以外は魔圧は止めておこう。


 そんな事を考えながら森を進んでいると前方の木々の間から僅かに光が漏れているのを発見する。


「なんだ? ……もしかして森がもう終わってるのか?」


 疑問に思いつつも俺はその光に近づいていく。やがて光が漏れている場所にたどり着いた俺は木々の影から覗き込んでみる。

 すると、俺の目には驚くべき光景が映った。どうやらそこは森が途切れている場所ではなく、森が切り開かれた場所だった。

 しかも、その場所には木の柵で周囲を囲まれた村のような物が存在している。


「これは……驚いたなぁ。この村は人間の村なのか? それとも獣人やエルフの村か? ……森だし定番だとエルフの村だよな……いや、モンスターの村って可能性も捨てきれないぞ」


 首を傾げながら俺は村を木々の間から観察する。村を囲む木でできた簡素な柵。

 村の中の住居だと思われる建造物が幾つか有って、それはお世辞にも家とは言い難い物で、木の枝と葉で組み立てられている。

 しばらく、木々の間から観察していると人影らしきものが住居から出てくる。


「あれは……人間か。ここは人間の村なのか」


 どうやらこの野性味あふれる村は人間の村だったらしい。

 出てきた人間はおそらく茶髪の女で身体に毛皮を1枚巻いた姿で裸足で歩いている。

 ……前世での人間の生活を思い出すと驚く程、原始的な生活だ。

 本当にあれが人間なのか疑いたくなる。しかし、見れば見るほど、あれは人間だ。

 耳は尖ってはいないし、獣のような耳や尻尾も持っていない。 正真正銘の人間。


「ふぅ……」


 少し前世とのあまりの違いに戸惑ってしまった。

 ……さて観察ももういいだろう。早速彼女らに接触してみようじゃないか。

 その結果、相手が友好的ならよしだし敵対的だとしても……まぁそれもよしだ。

 俺はニヤけそうになる表情を抑えて木々の間からゆっくりと身体を出した。


 ゆっくりと俺は足を人間の村に進める。その間にどうやら茶髪の女が俺の姿に気付いたらしい。

 一瞬ポカンとした顔をした後、悲鳴をあげて村の中を走り回る。

 その悲鳴を聞いたらしい村人達が住居などから続々と集まってきた。

 どの村人も身体に毛皮を1枚巻いた同じような姿をしている。

 というか、いきなり悲鳴をあげるとか酷くないか? まぁ今の俺の姿を見れば仕方ないか。


 俺が村の入り口らしき所に着く頃には女や子供達は皆住居に隠れ、村の入り口には男達が40人程集まっていた。

 その男達は皆、手に尖った石と木の棒を組み合わせた石槍を持っている。


「臨戦態勢か……というか石槍って……それで俺が何とか出来ると思っているのか?」


 村の入り口に着いた俺に向かって村の男達は石槍の穂先を向けて警戒している。

 とりあえず、俺は対話を試みてみる事にした。俺は笑顔を浮かべて挨拶をする。


「こんにちは」

「hababsbjakanasnksksnsnsjdufrb」

「ですよねー」


 日本語が通じる訳ないよねー……わかってましたよ。

 でも、もしかしたらと思って話しかけてみたがダメでした。

 さぁどうしようか?


「taunsbxilskansjsjsjssaeric」

「gajdoeqnqams!」

「yuaosjdbmxpsksks!」


 なんだか村の男達が興奮したように話し始める。なんだろうか?


「なんか嫌な予感が……」

「haaksjnsnsns!」


 男達は石槍の穂先を俺に押し当て始め、何かを口々に言っている。その男達の中には毛皮の腰当ての前の部分が少し膨らんでる者もいた。


「おいおいおい、言葉のわからない俺でも流石にこの状況はわかるぞ」


 つまりは攻撃されたくなければ大人しくしろ、という事だろう。その後を考えて不埒な妄想をしている奴もいると……。


「おい待て! 俺は男だぞ!」


 そんな事を言っても伝わるはずは無く男達は俺ににじり寄ってくる。

 そして石槍の穂先を押し当てている先頭の男が俺に触れようとした瞬間――


「もう無理」


 俺に触れようとした男の首を手刀で思いっきり切り裂いた。

 その首は宙を舞いくるくると村の真ん中に転がっていく。

 残された男の身体から血が噴き出し、その血は雨となって俺と周囲の男達を血で染める。

 村の男達は何が起きたのかわからないのだろう。首の無い男の身体を見て口を開けている。

 いや……村の男達には見えなかったのだろう……俺の手刀が速すぎて。


「もう……お前らは敵だ。容赦はしない」


 首の無い男の身体が大きく震えながら大地に倒れる。

 その瞬間には新しくもう2人の首が宙を舞っていた。

 そこでやっと気が付いたのだろう。男達が先程とは違い引きつった顔で石槍を俺に向けるがもう遅い。

 俺は石槍を避け男達の懐に近づき首を飛ばす。


「4、5、6…7、8、9、10! まだまだいくぞォ!!」


 俺はどんどん首を飛ばしていく。

 途中から数えるのも面倒になり見渡す限りの男達の首を飛ばした。



 気が付けば村の男達は皆、身体を残して血溜まりの中に倒れていた。


「くっくっく……ハッーハッハッハ!」


 俺は血溜まりの中で血塗れで酔っている。この圧倒的な力と血に。


「さて、残るは女と子供たちか……」


 今も住居の中で震えている奴らだが、もちろん生かす気はない。俺と村が敵対した時点で奴らに生き残る道は存在しないのだ。

 それに……血魔法の実験にはちょうどいい実験対象だ。


 俺は魔力を右手に集めて血魔法を使おうと意識する。すると俺の身体に着いた血や地面の血溜まりから血が右手に集まっていき……やがて巨大な血の球体となった。


「こりゃいい。 自由に血を操れるのか……そういえば、俺は半分ヴァンパイアなのだから血を味わう事も出来るはず……少しだけ飲んでみるか」


 そう思った俺は巨大な血の球体をひと舐めしてみる。


「うーん、飲めなくはない。飲めなくはないが……不味いな。これは血の質が悪いからなのか? それとも俺自身に問題が?」


 血は微妙だったが、とりあえず血魔法の続きを実験しよう。

 手始めに巨大な血の球体を別の形にしてみる。両刃の剣だったり、十字の槍にしたり、棘のついたハンマーにしたりと自由自在だった。

 次に巨大な血の球体を小分けにしてそれぞれシンプルな槍にしてみる。

 これは中々に操作が難しいが、なんとか練習がてらその30程に分けた槍で村に残った人間を串刺しにしていった。



♢♢♢



 全てが終わった後、村には破壊の跡しか残っていなかった。


「うわっこれを俺がやったのか」


 間違いなく人間の頃の俺では考えられない行動だろう。

 これが魂が変質した効果って事かな?  まぁ悪いことではないのだろう。

 人間のままの感覚では生きていけないだろうし、神様もいい仕事をしてくれる。


「さて、次は何と出会うのかな」


 俺は楽しそうに笑いながら、これからの出会いに思いを馳せる。

 とりあえず、どんどん血を集めて巨大になったこの球体は邪魔だから殆ど捨てようか。

 代わりに掌サイズの血の球体を持っていくことに決めて殆どの血を捨て俺は歩き出した。



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