幕間:not_found

 父と母の与太話に付き合わされ、いつもより五分少々、到着が遅れてしまった。

 時間はまだ少しある。そう思っても急いてしまう足に縺れそうになりながら、教室へ足を踏み入れた。


 ――心なしか、いつもより騒がしい?


 そう感じつつも、席に着こうとした時だ。

「――桜花! 志野が……!」

「っ!」

 焦りに焦った彼の簡潔な説明によって、おおよそよろしくない状況であることを察した私は、まだ整わない息を抱え、愛する友人を探さざる得なくなってしまった。


 それはいい。彼女の身が、心が、なによりも、誰よりも心配であることに変わりはないから。


 ――でも、だからこそ、私は彼が許せなかった。


「――時沢さん。以前にもお話しましたが、私は、真冬の幸せに繋がるなら何もしません。たとえ貴方の感情が今は真冬を傷つけたとしても、結果さえよければ……」

「桜花、」

「私は真冬の味方です。だからこそ、貴方と真冬の関係を守る為に利用されるのは、癪に障ります」

「……!」

「……お分りいただけたようで、良かったです。では、私はこれで」


 去り際、唇を噛み締めて、拳を握る彼が見えた。けれど私は、それを酷く冷ややかな目で見捨てることしか出来なかった。


 だって、彼よりも、一番辛い人が、いるのだから。


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