あの時と今と僕と貴方
お互い無言のまま、かなりの時間が経過した。
セイヤは突然「あっ」と呟き、小銭同士がぶつかるようなチャラチャラという音を鳴らした後、おそらく硬貨を投入した。
「……エイコさん、あんまり金も無いし、聞きたい事があれば、聞いてもらってもいいですよ」
「……うん」
セイヤの、振り絞ったかのような声を聞き、僕は正気を取り戻した。
血の気が引いていくのを感じ、それと同時にとてつもなく冷静な僕が、僕自身を責め立てはじめる。
僕は今、正しくない事の中に居る。
僕の言動に、違和感が満載だ。
前もって「質問攻めにする」と言っておいたのに、セイヤはわざわざ夜中に家を抜け出して、僕に電話をかけてきてくれたんだぞ。その行動の正体は、誠意だろ。
糞ガキだったセイヤが、誠意を見せてくれてる。それなのに僕ときたら、なんだ。なんで間接的に、セイヤを責めるような事を、言っているんだ。黙らせてしまっているんだ。
こんなの、最低じゃないか……最低だ、僕は。
「セイヤ君、ごめん、今聞いた事は、忘れていい。君のせいじゃない。僕はなんだかんだ、楽しくやってた。本当に」
「いや、別に……楽しかったんなら、良かった」
「うん……それで、聞きたい事っていうのは……あの、僕が小六だった時、リョーヘイ君を公園から、連れ去ったでしょ……あれって、君が仕組んだ事だけど、僕を狙って……仕組んだの……?」
「いいえ」
そうか。そうか。
そりゃそうか。そりゃそうだ。
しかし、セイヤ自身の口からその言葉が聞けて、とても安心している僕が居る。
あれは本当に他意無く、たまたま。たまたま僕が、リョーヘイ君を連れ去ってしまっただけ。
「そ……そうだよね、ごめんね、変な事言って」
「ですが、エイコさんの存在は以前から知っていましたよ。綺麗で有名でしたし。それにエイコさんは忘れてるかも知れませんけど、俺が小一か小二の時に、公園で何度か遊んでたんですよ。ですけどほら……地域の差別意識、あるじゃないですか。それで遊べなくなって」
「……そうなんだ」
「笑うかも知れませんが、俺はエイコさんがリョーヘイを連れてった事に、運命めいたものを感じてて……エイコさんがリョーヘイをあの場所まで連れて行くのをつけてって……そんで勝手に共通意識を持って、エイコさんと仲間だって得意げにいいふらしたりしてっ……そのせいでエイコさんの同級生に詰め寄られて秘密基地の場所教えたりして……最終的には俺の勝手な思い込みと感情で、エイコさんを刺したっ……あん時の俺は、本当に自己中だったっ……すいませんでしたっ」
セイヤの声が、かすれている。涙声になっているように、感じる。
演技かどうかは正直、わからない。しかし僕を助けてくれた事実がある。
きっと本当に、反省、しているのだろうなと、思う。
「いいよ。もう、過去の事だよ」
「……良くないから、質問攻めにするって言ったんじゃないんですか? 良くないんですよねっ?」
馬鹿では無いみたいだ。中々、鋭い事を言ってくる。
「……いいよ。話聴いて、いいって、思えた。それよりもさ」
僕は喉を「んんっ」と鳴らす。
「アンタ今、辛いでしょ?」
「……え?」
「……辛いでしょ? 嘘偽り無く答えて」
僕がそう言うと、セイヤはまた、黙り込んだ。
返事が無いので、僕は続けて話し出す。
「アンタの顔見たら、凄く追い込まれてるって思った。孤独なんでしょ? しんどいんでしょ?」
「辛いのも孤独なのもしんどいのも、自業自得ですから」
「いじめられてない? っていうか、いじめられてるでしょ? じゃなきゃ特殊警棒なんて持ってないよね」
「……慣れました」
そうか。そうか。
ボクガコイツヲタスケナキャ。
「これからは僕が居る。いじめられたら、直ぐに言って」
「……いいですよ。エイコさんに迷惑はかけられない」
「言えっつの。僕のせいでもあるんだから。セイヤを助けてみせる」
僕がそう言うとセイヤは突然「……すみません、切ります」と言い、ガチャリという音が受話器から聞こえてきた。
「……え?」
突然、どうして……?
どうして? どうして?
「せっ……セイヤ?」
声をかけてみても、聞こえてくるのは、プープーという、機械音だけだった。
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