アドバイスを受ける僕

 ショッピングモール内にある、喫煙出来ない喫茶店、いわゆるカフェという場所に、僕とカヨネェは来ている。

 僕はホットのカフェオレを。カヨネェはまだまだ寒いというのに、フラペチーノという、氷をミキサーにかけ、細かく砕いたものが入っている飲み物を注文し、席につく。

 相変わらず変な人。

「休憩取って大丈夫だったの?」

「副店長だじぇ? 休憩取る時間くらい、自由だー!」

 カヨネェは拳を小さく掲げ、ニッコニコの笑顔を作って、フラペチーノを勢い良く吸い上げた。

「さむーい!」

 カヨネェはすぐさま自身の腕をさすり、摩擦熱で温めた。

 相変わらず変な人。

「ふふっ。当たり前でしょ。なんでそんなの頼んだの」

「いやーふははー。飲みたかったんだよねー」

 カヨネェは自身の後頭部をポンポンと叩き、微笑んでみせてくれた。

 サエちゃんと居る時、冗談を言ったり馬鹿やったりするのはいつも僕で、サエちゃんが突っ込むという形が当たり前となっているのだが、カヨネェと居ると、僕は突っ込み役となっている。

 カヨネェは、笑ってほしい。楽しんで欲しいと思っているから、冗談を言ったり馬鹿やったりする。僕はそんなカヨネェの優しさに影響されて、パクっただけなのだ。

 しかし僕は、サエちゃんの顔色を伺いつつ、そうしていた。本当の笑顔を引き出してくれる本物には、程遠い。

 それに、休憩取る時間は自由とかなんとか言っているが、サービス業でそんな事が許される訳がない。僕が今日ここに来る事を察して、カヨネェは休憩の時間を調整していたに違いない。

 そういった、天女のような人なのだ、カヨネェは。

「それで、何があったんだい? マイシスター」

 カヨネェは首を少し傾けながら、この上ないほどの優しい笑顔で、僕を見つめた。

 ……どうして、彼氏が出来ないのかな……なんて事を思ってしまう。

「うん……実はね」


 僕は昨日あった事を、事細かにカヨネェへと伝えた。

 僕がその時、どう思っていたか。どうしてそんな行動を取ったのか。その全て。

 カヨネェは腕組をし「うんうん」と頷きながら、全てを聞いてくれた。そして僕の「カヨネェ、どう思う?」という台詞と共に腕組を解き、自身の後頭部をポンポンと叩く。

「んー……あんまり参考にならないかも知れないけど、私が高校生の時は、親友とチューとか、普通にしてたけどなぁ……ふざけておっぱい揉んだりしてたよ? 足触るのなんて、普通だと思うんだけどなー……」

「……参考にならねー。何その暴露。そういう話じゃないよ」

「ぐほっ! いや、分かってる分かってる! ただ思い出しただけ! サエちゃんの恋愛の話だよね! あ、違うか……?」

 この人は、基本的に、頭は、悪い。

 それも、かなり。

「んー……えっと、サエちゃんは別に、怒ってないとは、思うんだよなぁ……ショックだったとは思うけど……んー……襲ったのは、悪い。ね? エイコ悪かった。ね? 謝りにいこう。私も一緒に頭下げるからさ」

「うん……」

「だけど、エイコの気持ちも分かるよ。親友に彼氏が出来ると、喪失感みたいなのが、湧き上がるよね。なんか、取られちゃうみたいな。相手が学校の先生だっていうなら、なおさらなのかなー……社会的倫理やモラルに反した事をされると、イライラと喪失感とで、爆発しちゃうのも、なんとなぁく分かるよ」

「うん……」

「私の高校時代の親友もねー、彼氏が出来てから、全然遊んでくれなくなって寂しかったなー……って、関係ないか」

「関係無いけど、興味あるよ」

「え……? そう? じゃあ今度話すよ。それよりも」

 カヨネェは身を乗り出し、僕の頭に手を置いた。

「エイコが誰も救えない訳、無いじゃんか。そんな悲しい事、言わないで。ね?」

「……ん」

 僕がコクリと頷くと、カヨネェはニコッと微笑み、僕の頭を撫でる。

「お馬鹿なお姉ちゃんからの、抽象的なアドバイス。正しくないモノには、違和感があるよ。その違和感を無くすように生きていれば、正しく生きられる。私はそうして、生きてきたよ。その結果、こうして可愛い妹が出来ました」

 正しくないモノには、違和感……。

 僕が感じている違和感って、なんだろう……。

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