ごちゃごちゃ頭とカヨネェと僕
結局、サエちゃんの姿を見かける事無く駅へと到着してしまう。身構えてただけに、何故か落胆してしまった。
掃除当番か何かだったのかな……もしかして、僕と会いたくなくて遠回りして帰ってるのかな……なんて事をゴチャゴチャと考えながら、券売機に硬貨を入れて、一駅分の切符を買った。
そういえばこの場所は、セイヤに脇腹を刺された場所だな……セイヤ、大丈夫かな。同級生の頭から血が出る程の強いチカラで殴るなんて、普通じゃない。倒れている人間の頭を踏みつけるなんて、僕には出来ない。元々過激なヤツではあるのだが、悶々とした日々を、送っているのだろうな。
思考があっち行ったり、こっち行ったりと、散乱している。昨日のサエちゃんの悲しみの顔や絶叫が頭に浮かび、先程のセイヤの鋭い視線や行動や言動がチラつき、同級生の頭の怪我の具合も気がかりとなっている。
今日の夜あたり、僕の家にも学校から電話が来るかな……セイヤ、拘束されたりしないかな……サエちゃんともお話したいんだけどな……どうスケジュール立てて行動すればいいかな……なんて事をゴチャっと一気に考えてしまい、全然纏まらない。色々な問題が一気に起きて、脳の処理能力が追いついていないのが分かる。
あぁ……時が動いている。今まで思考停止して生きてきた実感が、凄く湧いている。
脳よ、もっと早く、動いてくれ。もっと深く、考えてくれ。今のままじゃあ、小六の僕のほうが、思考能力が上だぞ。
突然、キンコーンという音が鳴り、僕の目の前の改札が閉まってしまった。どうやら切符を、入れ忘れていたようだ。
「……ふはは」
ボケッと、してる。これが物思いにふけるというやつか。
僕は少し後ろに下がり、改めて切符を入れて、改札を通過した。
……成長どころか、退化しているのかも知れない。
電車に乗り、数分でカヨネェが働いているショッピングモールへと到着した。ここの中にある美容院でカヨネェは働いている。
去年の末に「エイコのお陰で指名本数大幅アップしたぜー!」と言っていたカヨネェは、今年の春に副店長になった。副店長と言っても業務自体はヒラと変わらないらしく「手当が付いてウハウハよ!」と可愛い顔で言っていた事を思い出す。
カヨネェって、思考が単純。凄くシンプルだ。
単純なのにあそこまで人が良いとなると、カヨネェという人物の本質的な部分が、良い人なんだろうなと、本気で思う。
カヨネェが働いている美容院へと近づくと、そこには受付に立ちながら、見たことの無い同僚らしき人と会話をしているカヨネェの姿が目に入ってきた。
背が高くスラッとしているカヨネェは、相変わらず文句の付けようの無いシルエットをしている。ツヤツヤなロングの黒髪が、カヨネェの美しさをより引き立てる。
同僚と話している事にほんの少し、本当にほんの少し、嫉妬心が湧き上がるが、この感情はサエちゃんに対しても感じていたものなので、少し慣れた。呼吸が浅くなる事も無く、足が震える事も無い。
「かーよねっ」
僕はトコトコとカヨネェに近づいて、声をかけた。
僕の声を受けたカヨネェは視線を僕へと向けて、途端に満面の笑みを浮かべ「えーいこーっ!」と、大きな声をあげ、両手を広げて僕に覆いかぶさるように、抱きついてきた。
……だから、カヨネェダイスキ。
「マイちゃんこの子だよー! 今まさに話してた子ー! 見て見てこの整った顔! そして髪型! 私が切ったんだよー! 超絶美少女じゃない? 凄くない? 東洋の神秘じゃない?」
カヨネェは僕の顔を両手で包み込むようにして掴み、マイちゃんと呼ばれた同僚の人に向ける。
「わぁ、本当ですね。うわー写真で見た印象よりちっちゃくてかわいいですぅ。顔小さいですねー」
「妹なんだよ! 血は繋がってないんだけどねーふははは!」
相変わらずカヨネェは、カヨネェだ。
この安心感、安定感、半端じゃない。
昨日の夜、カヨネェから離れようなんてクソな事考えてしまったけれど、離れるなんて、無理だな。居心地が、良すぎる。
「ほらほらエイコ、マイちゃんに挨拶して」
僕はペコリと頭を下げる。
「はじめまして、宮田栄子と申します」
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