クラスメイトと僕

 放課後、サエちゃんのクラスよりも先に僕のクラスのホームルームが終わり、僕はサエちゃんの教室の前へと立つ。しかし僕の足は直ぐにその場を離れるために、動き始めた。

 なんだろう……自分がとても、気持ちの悪いもののように思えて、仕方がない。

 今までもこうして、サエちゃんの帰りを待っていたのに、今僕がしている事は、まるでストーカーのよう。

 ストーカーは気持ち悪い。以前僕の事をストーキングする男児が居たのだが、ソイツの事を気持ち悪く感じていた事を思い出す。

 サエちゃんに、これ以上気持ち悪いって、思われたくない。

 僕は足早に玄関へと向かい、靴を履き替えて学校を後にした。


 それは、突然の出来事だった。


 田舎ゆえ、帰り道はどうしても人気ひとけの無い場所を通らなければいけない。その道を空を見上げながら歩いていると、後ろから声をかけられた。

「宮田ぁー」

 その声と同時に、僕の肩に何物かがポンと手を置いた。

 ゾワゾワと湧き上がる、嫌悪感。僕は肩に置かれた手を渾身のチカラを込めて払いのけようとする。

 しかし僕の手は空を切る。どうやら瞬時に身を引かれたよう。

「おぉっと。こえーなー宮田。暴力反対ー」

 クラスの男子は、三人居た。いつも僕に話しかけてくる男子三人組だ。

 全員がニヤニヤとした表情で、僕の事を見ている。とてもとても、気持ちが悪い。

 自分たちでは格好いいとでも思っているのか、全員が髪の毛を茶色に染めていて、耳にはピアスをあけている。

「……何?」

「お前って触れるといつもギャーギャー騒ぐけど、アレって演技なのな」

 先頭に立っている男がニヤニヤをより深めて、僕に近寄ってくる。僕はそれに合わせて一歩、後ずさる。

「演技じゃない」

「演技じゃん。今騒いでねぇじゃん」

「演技じゃない。今だって嫌悪感が半端じゃない」

「……まぁ、いいや。帰る友達居ないんだろ? 俺らと帰ろうぜ」

「嫌だ」

「なぁんでだよー? 寂しいんだろ? 友達になってやるよ」

「いらない」

 僕がそう言うと、男子は表情を変え、僕へと一気に詰め寄る。僕は少し焦り、逃げ出そうとするも、この年にもなると、男子の身体能力に女子は敵わない。男子は僕の肩を思い切り掴み、グイと引き寄せ、僕の左頬をバチンと、叩いた。

 僕の小さな体はその衝撃に耐えられずによろけ、近くにあった電信柱にその身を預けた。

 ……なんだと、言うのだ、本当に。

 僕は、何故今、こんな目に合っているのだ……。

「てめぇいい加減にしろよっ! 優しく接してりゃ図にのりやがって!」

「おいおいやめとけって! 顔叩くなよ!」

 顔、叩くなよ……って。

 顔以外なら、叩いてもいいって、思っているという事?

 ナニソレ。何その理論。

 叩いたらイケナイっていう理論には、どうしてならない?

「クソ……野郎どもが……」

 僕は小さく呟き、自分の家の方に向かって走り始めた。


 僕の足は、女子の中で誰よりも早い。

 誰よりも早いと、思っていたのだが。

「宮田ぁっ! 待てこらぁっ!」

 僕はあっという間に追いつかれ、腕を捕まれ、肩を組まれる。

 とてつもない嫌悪感が、僕を襲う。

 襲う。

「いやああああっ! いやだああっ! 離して離してっ!」

「うるせぇんだよー。ビッチの娘のくせに、何純情ぶってん」

 男の声は、そこで止まった。

 男の腕から、チカラが抜けていくのが分かり、ズルズルと、地面に倒れていった。

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