睨む僕

 朝起きて、携帯を見つめる。昨日の夜、カヨネェからのメールが届いた以外に、通知は無かった。

 僕は起き上がり、同居人と自分の朝食を作り、それを食べて、身支度をして、家を出る。そして学校とは反対側に向かって、歩きはじめた。

 たどり着いた場所は、サエちゃんの家の前。顔を上げて、サエちゃんの部屋へと視線を向ける。

 明るいので良く見えるのだが、サエちゃんの部屋のカーテンは開かれていた。

 僕はその場で少し、サエちゃんが出てくるのを待っていた。しかし、いつもの時間を十分以上過ぎてもサエちゃんが出てくる気配がしないので、僕は空を見上げながら、学校への道を歩き始めた。


 土下座をするほどの、覚悟だったんだけどな。

 土下座すら、させて貰えないらしい。

 そりゃ、怒るよな。幻滅するよな。

 僕が同じ立場でも、怒ってた。ケイジのために取ってあるファーストキスを奪われたら、平手で叩いて、ギャンギャンに泣き叫んでいただろう。

 一時の感情に身を任せると、後悔する……か。その通りだ。

 その通りだ。


 今日の太陽は、薄い光を放っているように感じる。白んでいるというか、淡いというか。冬がようやく開けたかのような、柔らかな日差しである。

 その影響か、空の色が薄い水色に見える。そしてそれは、とても高い位置のように感じた。

 雪はもう、振らないのだろうな。これからきっと、暖かくなっていく。

「サエちゃん、春だねぇ」

 僕は隣に居ない親友に、声をかける。

 居ないのだから、返事は無かった。


 学校へとたどり着き、自分の教室へと向かう。

 途中、サエちゃんの教室が目に入り、開かれている扉から中を覗いた。

 そこには、笑顔で一人の女子と会話をしている、サエちゃんの姿があった。

 冴えない感じの、眼鏡をかけた、ちょっとプクッとした、女子だった。

 僕の見た目とは、正反対のように、思えた。

「あぁ……はは」

 心に激情が湧き上がるのを感じる。

 吐き気を催し、足がブルブルと震える。

 視界が狭くなり、歪み、顔がどんどんと熱くなっていく。

 この感覚、感情に身を任せるとすると、それは破壊活動や暴力へと繋がる。昨日、サエちゃんに対して、やってしまった行為にも、繋がる。

 落ち着こう。

 落ち着こう。

「……笑顔、じゃんっ……笑えてるんじゃんんぅぅっ……よかったっ……よかったぁっ」

 僕は小声でそう呟き、クシャクシャになっているであろう顔を伏せ、自分の教室へと入り、机に突っ伏した。


「なぁ宮田ー」

 クラスの男子が、話しかけてきた。

「お前今日一人で登校してきただろ? なんかあったん?」

「黙れ」

 僕は思わず、声を出してしまった。

 とても冷たく、とても低い声が出ていた。

「……なぁーそう言うなって。明日も一人で」

「僕に構うな」

 僕は顔を上げ、男子の顔をギロリと睨む。

「……おぉっ。こえーこえー」

「なんだアイツ」

「調子ん乗ってんだよ」

 男子達は僕の悪口を言いながら、すごすごと立ち去っていった。

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