サガと僕

 サエちゃんの膝の上から、空を見上げる。

 木々の間から漏れ出てくる太陽の光が眩しくて、僕の目を半開きにさせた。

「木漏れ日が、眩しい」

「寒いけどね」

 僕はサエちゃんに温めて貰った手をその光にかざした。

 僕の手の縁がオレンジ色に光っているように見える。

「ううん、あったかぁい。好きなものに囲まれて、僕は幸せだなぁ」

 光を遮っていた手を下ろし、僕はサエちゃんの顔を膝の上から見つめた。

 僕の視線に気付いてか、サエちゃんは僕の目を見て、笑顔を深めた。

「私も」

「私も?」

「幸せ」

 サエちゃんは僕の頭を、再び撫でた。

 ニッコリと微笑みながら、優しいチカラで、撫でた。

「どうして?」

「……ん?」

「どうして、幸せ?」

 僕はサエちゃんの目を、真っ直ぐ見つめる。

 サエちゃんの僕の頭を撫でる手は、止まってしまった。

 サエちゃんの表情は、驚いたものになっている。

 マズイ……この質問は、サエちゃんを困らせてしまう類のモノ。取り消すなら、今しかない。

 そう思うし、僕の心の中に焦燥感が湧いているのも、感じている。

「え……どうしてって」

「僕は、サエちゃんと一緒に居れて、幸せだよ。サエちゃんは? どうして幸せ?」

 だけど、僕の言葉は止まらなかった。

 僕はサエちゃんの太ももの上に、自分の掌を乗せた。

 そしてその手で、サエちゃんが僕の頭にしたようにサエちゃんの太ももを、優しいチカラで、撫でた。

 間違っている……僕のしている事は、完全に、間違っている。サエちゃんはこんな事、絶対望んでいない。僕だってこんな事、したくない。

 何を、焦っているのだ、僕は……サエちゃんは……幸せだって、言ったのに……。

 何故、こんな事を、しているのだ、僕は……。

「ちょっ……ちょっとエイコちゃんっ」

 サエちゃんは僕の手首をギュッと掴んだ。そして少し強いチカラで、僕の手を引き剥がそうとする。

 サエちゃんの表情は、完全に、曇っていた。眉間のシワは、三本になっていた。

 僕は今、親友のサエちゃんに、拒否られている。

「こちょばいよ……エイコちゃん、どうしたの?」

「……どうしてサエちゃん、幸せなのかなぁって」

「……それと、私の足触るの、どう関係があるの?」

 関係は、無い。しかし理由は、衝動。

 小六の担任に取られたくないから、衝動で太ももを触った。

 だけどそんな事、言える訳が無い。だって衝動で太ももを触ったという事はつまり、僕は。

 親友を、引きつけるため。性を利用しようと、していたという事。


 ドス黒い感情が心に流れ込み、僕の心を真っ黒に染める。

 僕は、最低だ。


「スキンシップだよ」

「……ん、まぁ、うん……あのね、エイコちゃん」

 サエちゃんは困った表情で僕の目を見て、僕の手を離し、僕の頭を撫でた。

「私が幸せなのは、こうしてエイコちゃんと一緒に居られるからだけど、私、そういうのはちょっと、苦手……」

「触られるのが、嫌って事?」

「あっ……そうじゃなくてね? あのっ……手繋いだり、腕組んだりは、別にいいよ。だけど……その……」

「別にいいって?」

「……ん?」

「別にいいって、何?」

 サエちゃんの表情は、どんどんと。どんどんと。曇っていく。

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