考える僕

 学校で奇声を上げ、トイレへと駆け込むのは、これで数度目。サエちゃん以外の人間にちょっとでも触れられると、僕は我慢が出来なくなり、叫び声をあげて、トイレへと逃げ込む。そして便器に座りながら震えがおさまるのを、ただジッと待つ。

 今も、その最中。ホームルーム開始のチャイムが鳴っても僕の震えはおさまらないので、僕は動かない。個室の壁にある一点の汚れをただ見つめ、ただ無為な時を過ごしていた。


 一時限目の開始を告げるチャイムが鳴り響いても、僕は未だトイレの個室に座っている。しかし心は落ち着きを取り戻しつつあるので、僕は先程の男子とのやり取りを頭の中で振り返る。

 あそこまで分かりやすく拒絶をしているというのに、どうして皆、僕に構い続けるのだろうか。

 例えば僕がサエちゃんに、あのような態度で拒絶されたら、すぐさま心が折れてしまい、二度と話しかける事が出来なくなってしまうだろう。

 というか、死ぬかも知れない。サエちゃんの眉間にシワが一本刻まれただけで、半端では無い量の罪悪感が、僕を責め立てる。サエちゃんが気を良くするような言葉を必死で探し、サエちゃんの機嫌を取ろうとする。だから、サエちゃんが小学六年生の時の担任の先生と仲良くしている現状を、黙認するしか無い。注意なんて、出来る筈が無い。

 人と接するという事は、それだけ繊細な行為だと、僕は思っているのだが……何度も拒絶してるのに未だ話しかけてくる奴らの意図が、全くもって、意味不明である。カヨネェの「エイコを芸能人のように思ってる」という言葉だけでは、到底納得出来ない。僕と奴らの意識に差がありすぎる。

 いい加減、諦めて欲しい。僕はお前らに興味がないし、興味を持って欲しくない。

 僕が奴らに求めるものは、以前のように僕に対して無関心になる事だけ。そうしてくれただけで、僕はお礼を言えるし、頭も下げられる。

 救って欲しいだとか。話をきいて欲しいだとか。仲良くして欲しいだとか。一切思わない。そういったものを求めていた時期は確かにあったが、その時は無関心を貫き通していたじゃないか。それでいいのに、何故今、それが出来ない?

 さっきの男子なんて、随分と高い所から話してたと、思わされる。なんで「話聞くぞ」なんだ。僕の話が聞きたいのなら、せめて土下座をしながら「話を聞かせてくださいお願いします」だろ。それでも話なんてしたくは無いが、これが悪い気はしない最低限のやり取りだ。

「はぁーあぁ」

 僕はため息とも欠伸ともとれる息を吐きながら、便器から腰を上げる。

 愚痴を考えていたら多少心がスッキリしたので、個室の鍵を開けて、洗面所で手と顔を洗い、トイレを出る。

 そして授業が既に始まっている教室の扉を静かに開き、僕に向けられる沢山の視線を無視しながら、自分の席へと向かって歩いた。

 僕がオカシイという事は先生方には知れ渡っているので、注意なんてされない。授業は途切れる事無く、続けられていた。

 席に座り、教科書とノートと、音楽雑誌を机の上に広げ、先生の話を半分だけ聞き、なんとなくノートを取りながら、雑誌を見つめた。


 これが、今の僕の学校生活だ。

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