第15.5話 『MEMORY――ある日の決断』
「え、一年間の社会実習……ですか?」
私は鳴ちゃんと栞ちゃんを見る。
二人とも首を傾げていた。
私と同じく初めて聞いたみたい。
「ええ、突然のことで驚いたと思うけど、これはこの学校で毎年行われている大事な行事なの。三人のご両親にはすでに了承済みで、あとはあなた達の了解を得るだけなのだけど、大丈夫かしら?」
教壇に立つ十和子先生が、私達三人を順に見る。
「あの、十和子先生」
「はい、西園寺さん、どうぞ」
「そもそも社会実習とは何をするのでしょうか? 両親の了承はともかく、それが分からないからには答えをだすことが難しいと思いますが。なんせ一年間ですので……」
「栞の言う通りっすよ、先生。なんの実習なんすか?」
栞ちゃんと鳴ちゃんが、私が疑問に思っていたことを聞いてくれる。
十和子先生の表情から一瞬、笑みが消えた――ような気がした。
「そ、そうね。行事の内容も言わずに了解を得るなんておかしいわよね。先生ったらどうかしてたわ。……行事の内容なのだけど、それは――……」
◇
中庭の芝生に座ってパンにかじりついたところで、鳴ちゃんと栞ちゃんがやってきた。
「遅かったね、モグモグ……何してたの?」
「ん? ああ、そこで十和子先生に会ってさ、えーと、何だっけな……」
「要点だけを抽出すれば、“あなたたちがやりたくないって言えば私が上にちゃんと伝えるから、もう一度3人で話し合って決めなさい”と言われたのですよ」
「そうそう、そういうこと。……なんだ、まほろ、また特大カレーパン1個かよ。そればっかだな」
イクラ丼を袋から取り出した鳴ちゃんが言う。
ちなみに栞ちゃんは
「だってこれおいしいよ。そしてこのボリュームを昼休み内に食べたときの達成感が最高なのだっ。はぁ、今日も1日がんばったなーっていう満足感?」
「1日のがんばりがそこに集約されるのかよっ。……で、実際、まほろはどうなんだよ? やる気あんのか?」
「わたくしと鳴さんはすでにやってもいいとの結論を出しています。ただ、まほろさんがNOと言えばその答えを尊重しようと思っています。[ゾンビがわたくし達に危害を加えることは絶対にない。寧ろフレンドリーである]。そして、[島にある物全てが所有物だと思ってもらって構わない。つまり法に縛られることはない]という条件をもってしても、無理強いの出来ることではないと思いますから――」
鳴ちゃんと栞ちゃんはいつだって優しい。
だから何かを決めるってなると、最後に私の答えを求める。
そして私の決断に二人は笑顔で頷くんだ――。
いつからだろう。
それが私達にとっての普通であり、日常になっていた。
なので私は間違ってはいけない。
二人に後悔させるような決断をしちゃいけない。
私達3人が笑顔でいられる答えを出さなきゃいけないんだ――。
だから私は言った。
「今からチョー楽しみだよっ、ゾンビさん達との共同生活! やる気だったら
鳴ちゃんと栞ちゃんの瞳が見開く。
そして次に満面の笑みを浮かべて、同時に言った。
「「そうこなくっちゃっ」」
◆第16話 『ゾンビさん達の確執』に続く。
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