第15話 『キャプテンとして』
「どうしたのですか、まほろさん? ため息なんて吐いちゃって」
部屋に行くと栞ちゃんが、『ゾンビ』の曲を聴きながら台所でジャガイモの皮むきをしていた。
「いや実はさー……」
と私は、さっき出くわした状況について栞ちゃんに話す。
「それはもしかしたら、彼らのブラックユーモアかもしれませんね」
「ブラックユーモア?」
「ええ、つまり……“俺達はいつだってお前たちを殺すことができるんだぜ”というメッセージですよ」
え? ――ええええええええッ!?
と本気で驚く私に栞ちゃんは「ふふ、冗談ですよ。彼らは絶対に私達を襲うことはありませんよ。だってお友達なのですから」と言うと、今度は玉ねぎの皮をむき始めた。
「もう、止めてよー。栞ちゃんが言うと本当っぽく聞こえるからさー。……あ、ところで私に手伝えることある? キャプテンなんだし何でも言ってよっ。台所に立つのは初めてだけどね」
私は胸を張って言う。
栞ちゃんは、なんとも形容できない複雑な表情を浮かべていた。
◇
「「「いただきまーすっ」」」
三人同時にカレーにパクつく。
「お、おいしーっ!」
「うんめーっ!」
「そうですか。そう言ってもらえると作った甲斐があったというものです」
栞ちゃんの作った
屋外で食べていることも、おいしさアップに貢献しているのかもしれないね。
「外で食べるカレーは三割増しでおいしくなる説も、これで正しいことが証明されたな。ま、栞の作ったカレーは屋内でもおいしいと思うけどな。あー、うめー、モグモグ、お替りーっ!」
「鳴ちゃん、はやっ!」
「ふふ、鳴さんは食いしん坊さんですね。……でもちょっとはりきって作り過ぎたかもしれませんね。どなたかカレーを食べるゾンビはいないかしら」
「冗談よせよ、栞。ゾンビがカレーを食べるとかさ、モグモグ。……しっかし一年かぁ。長い社会実習だよな。あたい達、うまくやっていけると思うか?
「……一年は確かに長いですね」
一年――。
ゾンビとの生活を共にするという社会実習としては、栞ちゃんの言った通り、多分長いのかもしれない。
だからなのかな――?
二人はその現実を改めて直視して不安を抱いたような、そんな感じだった。
それを見た瞬間、私はその場で立っていた。
無意識に無自覚に――。
でも明確な目的を持って。
「うまくやっていけるさっ。だって私がキャプテンなんだからっ。それにこの島にある物はなんだって使っていいんだよ? ルール無用でやりたい放題。そう、私達が法律なんだ。楽しく過ごさなきゃ損だよ! エンジョイ・オブ・ゾンビだぜ、ワッハッハッハッハッ」
「まほろ……ぷっ、エンジョイ・オブ・ゾンビってなんだよ、意味わかんねーっ。でも――そうだな、楽しくやろーぜ」
「そうですね。こんな貴重な体験ができるのですから、楽しまなきゃ損ですよね。それに何かあったら頼れるキャプテンがいますから」
二人の視線を受け止め、そして私は夜空を見上げる。
大空に広がる満天の星。
その全てが、私達がこれから描き出すストーリーを応援しているような気がした。
鳴ちゃん、栞ちゃん。
ゾンビさん達と楽しく過ごしていい思い出を作ろーね。
◆――ボイスレコーダー②――に続く。
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