第14話 『シュールレアリスムってやつ?』
「そうですね、これくらいの量で十分でしょう」
ブルーシートに並べられた野菜を見て栞ちゃんが頷く。
初めての野菜収穫体験だったけど、けっこう楽しかったな。
スズちゃんとの距離も縮まった気がするし、おいしいカレーも食べれるし、いいこと尽くしだねっ!
「じゃあ、戻るとすっか。……残してきたゾンビ達が心配だな。いや、何かやらかしてんじゃないかっていう心配な」
「それは大丈夫だよ。だってしっかり者のイトウさんがいるからさ。イトウさんさえいれば大丈夫っ」
「その言い方だと、ヌクミズやナカヤマの立場がなくなるな。ところでさっきも言ったけどさ、いくらイトウがしっかりしてるっていっても、所詮、ゾン――あ、いや、なんでもねー」
鳴ちゃんが、ばつが悪そうに顔を背けた。
多分、私ではなくスズちゃんから。
私はスズちゃんを見る。
きょとんとした顔をしているだけで、鳴ちゃんの態度に何も思うところがなさそうだった。
「……さあ、収穫した野菜を段ボールに入れましょう。玉ねぎとジャガイモはあとで新聞で個包装しますが、今はいいのでそのまま入れてください」
栞ちゃんの指示で動く私達。
もちろんスズちゃんも。
そして箱詰めを終えた野菜を荷台に乗っけたあと、トラックで帰路へと就いた。
ちなみに、帰りは私が荷台に乗ろうかと提案したんだ。
なんかスズちゃんがかわいそうかなって思ったから。
でもスズちゃん的には荷台の上は楽しいみたいで、そこがいいんだってさ。
ふーん。そんなに楽しいなら今度乗ってみようかな。
◇
ショッピングモールに着いたのは午後の5時ちょっと過ぎだった。
着くなり、私達は分担した役割のために動き出す。
栞ちゃんはそのままカレーの準備。
鳴ちゃんは収穫した野菜の適切な保管。のちにカレーの準備手伝い。
そして私はと言えば、スズちゃんを送るついでにゾンビさん達の様子見。のちにカレーの準備手伝いである。
皆、2階でいい子にしているかな……。
イトウさんがいるから――と胸を張って言ったものの、やっぱり心配になってきた私は速足で階段を上る。
そのとき――。
「ガアアアアアアアッ!!」
とんでもない叫び声が聞こえた。
まるで凶暴な獣が何かに襲い掛かるような、そんな――。
何、今の!? え――もしかしてゾンビさんの声、なの?
「グオオオオオォォォアアァァッ!!!」
まただ、また聞こえた!
一体、何が起きているというのっ!?
ゾンビさん同士のケンカ?
やだよ、そんなのっ。皆、仲良くしなきゃ駄目だよッ!!
私は息苦しさを我慢して、ひたすら叫び声の元へ走る。
見えてきたのは『Jソーン電機』という名前の電機店。
そこから叫び声が聞こえてきている。
まずは止めないと――ッ
電機店の前に着いた私は、あらん限りの声で叫んだ。
「お願いっ、ケンカは止めてッ!!」
ゾンビさん達が一斉に私を見る。
ケンカなんてしていない。
むしろ仲良く座ってテレビを見ていたようで――。
そのテレビに映し出されたゾンビが、人に襲い掛かりながら叫ぶ。
「グワアアオオオォォォォッ!!」
紛らわしいよっ、君たちっ!!
◆第15話 『キャプテンとして』に続く。
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