第13話 『スズちゃんと二人で』


 実は言うと、あまり期待はしていなかった。

 だって、じゃがいもも玉ねぎも産地は限定されているんだよ? 

 この島に両方の畑があってしかも食べれる状態にあるなんて、やっぱり期待できなくて――。


 だから鳴ちゃんが、


「どでっけー、畑があるじゃんっ!」


 と窓の向こうに見える畑を指さしたときは、まるでそこが、じゃがいもとたまねぎの畑に確定したかのように私も喜んだのだった。


 そしてその喜びは……2倍になっちゃったっ。


「こっちにはキャベツ畑あるぞーっ! ほら見ろ、この瑞々しいキャベツをっ」


 鳴ちゃんが畑の奥のほうで、満面の笑みを浮かべてキャベツを掲げている。


「じゃがいもと玉ねぎのほかにキャベツもあるとは、嬉しい誤算ですね。では早速収穫を始めましょう。但し取り過ぎないように注意してくださいね。キャベツとジャガイモは一か月で食べきれる分、そして玉ねぎは1週間で食べきれる分だけでお願いします」


「ん? なんだよ、たっぷり収穫して保存しておけばいいじゃんか」


 私も抱いた疑問を鳴ちゃんが聞いてくれた。

 

 だって、ここまで一時間くらい掛かったもんね。

 また来ることを考えたら、できるだけ多く収穫したくもなるよね。

 でも栞ちゃんの次の言葉を聞いて、すぐに納得しちゃった。


「キャベツは冷蔵保存の場合、賞味期限は2週間、長くて1か月です。そしてジャガイモは、冷暗所で適切な保管状態にある場合一ヵ月。たまねぎは新玉ねぎの場合、キャベツ同様に冷蔵保存した状態で一週間です。なので今言った以上に収穫してもおいしく食べれる保証がないのですよ」


「ふーん。……しっかしやけに詳しいな、栞。元農家の子か?」


「違いますよ。収穫の前にインターネットで知識を仕入れてきただけですよ。キャベツもなんとなく見たのですが、まさか役立つとは思いませんでした」


 そういえばパソコンも部屋にあったっけ?

 家電コーナーから持ってきた物なのだけど、いつの間に調べていたんだろ? 

 そういう、準備に抜かりのないところは栞ちゃんらしいなぁ。



 ◇



 快晴の中、収穫は始まった。

 鳴ちゃんがキャベツ、そして栞ちゃんが玉ねぎのほうへ行く。

 残された私は当然ジャガイモ担当なわけで、同じく残されたスズちゃんと一緒に収穫することになった。


「よし、一緒にジャガイモの収穫をしよー、スズちゃんっ」


「うぅ、うん」


「えーと、まずは…………」


「?」


「あれ、なんだっけ? なんかとても大事なことを栞ちゃんに言われたのだけど、忘れちゃったっ! ……うーん、なんだっけ? 思い出せないっ。ガーン」


 完全な度忘れ。

 バカな私でごめんなさい、スズちゃん。

 ちょっと栞ちゃんに聞いてくるので待っててね。


「はやぁ、くキがぁ、きぃろくかれはじめたやぁつだよぉ」

 

 すると、その場で立った私の耳に聞こえてくるスズちゃんの声。

 

 そうだ、それっ、『葉や茎が黄色く枯れ始めたもの。それを収穫する』だっ!


「あ、ありがとーっ、スズちゃんっ。スズちゃんのおかげでキャプテンとしての威厳が保たれたよ。ホント、ありがとっ」


 私はスズちゃんの手をギュッと握る。

 ――と、スズちゃんと視線が交わった。


「……は、はぁずかしぃ」


 頬を赤らめたスズちゃんが目を逸らした。


 スズちゃん――なんか、グッときたよっ。





 ◆第14話 『シュールレアリスムってやつ?』に続く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る