第12話 『いざ、収穫の地へ出発!』


「広範囲に移動するだろうから、車は必須だな」


 鳴ちゃんが、缶詰に入っていたたこ焼きをぱくつきながら言う。

 鳴ちゃんは私同様、栞ちゃんの提案にびっくりしたものの、おいしいカレーの誘惑に勝てなくて賛同したのだった。

 

 ところで、このたこ焼きけっこうおいしいね。

 缶詰だと思って甘くみてたよ、ムシャムシャ。


「車はモール所有のトラックを使いましょう。鍵はさきほど事務所から拝借してきました。ところで、まほろさん。そのゾンビは……」


 と、栞ちゃんが私の横に並ぶゾンビさんを見て言った。


「あ、このゾンビさんは収穫のお手伝いを希望されたスズちゃんです。わー、パチパチパチ」


 私に紹介されたスズちゃんは、


「スズですぅ。よろおぉしくおねがあぁいしますぅ」


 と言うと、おずおずとした感じで頭を下げた。


 ミサトスズ――。

 多分私達と同じ同年代の、おさげの似合う女の子。

 ずっとお話したくて声を掛けたのだけど、野菜の収穫の話をしたら彼女もやりたいと言ってくれたんだ。

 がんばろうね、スズちゃん!


「おう、よろしくな、スズ」


「よろしくお願いしますね、スズさん」


 メンバーも揃ってあとは車に乗って畑を探すだけ。

 だけって言ってもそんなに簡単じゃなくて、問題が一つあるんだよね。

 それは、“トラックなんて誰が運転するんだってこと”。


「ねえ、トラックって誰が運転するの? もしかしてゾンビさんに頼むとか?」


「いえ、それは危険でしょう。なのでが運転します」


「し、栞がかぁ? 免許うんぬんは置いといて、車なんか運転できんのかよ?」


「大丈夫ですよ。だって[アクセルで進む]。[ブレーキで止まる]だけじゃないですか。ではトラックのほうへ移動しましょう」


 私は鳴ちゃんと顔を合わせたのち、栞ちゃんに聞いてみた。


「栞ちゃん。あ、あのさ、一応聞くけどトラックって運転したことあるの?」


 意気揚々とした栞ちゃんが、例の女神の笑顔を浮かべて口を開いた。 


「『デコトラ首都高暴走バトル』ならゲームセンターで三回ほど。だから大丈夫ですよ」


 いや、ゾンビさんと同じく危険だと思うけどっ!?



 ◇



 車は三人乗りの二トントラックだった。

 運転席に栞ちゃん、助手席に鳴ちゃん、真ん中に私。そして荷台にスズちゃんが乗っていた。


「さあ、皆さん乗りましたね。では出発しますよ」


 栞ちゃんがシートベルトをしたあと、ハンドルを握る。


「本当に大丈夫なのかよ、栞っ。……止めるなら今の内だぞ。いや止めたほうがいい! なあ、まほろもそう思うだろっ? 荷台に乗ってるスズだって絶対落ちるぞ!」


 青ざめた顔の鳴ちゃんがアシストグリップを掴んで、奮えた声を出す。


「うーん、私も最初は危険かなと思ったけど、30分の走行練習もしたし、おいしいカレーも食べたいし、ずっとゆっくり走っていれば大丈夫なんじゃないかな? スズちゃんもちゃんと摑まるって言ってたし」


「たった30分だっ! 大体、まほろはおいしいカレーが食べたいだけだろっ。命の危険よりおいしいカレーなのかよっ」


「命の危険っておおげさだなぁ……じゃあ、鳴ちゃんはおいしいカレーを食べたくないの? 新鮮なじゃがいもと玉ねぎを入れてグツグツ煮込んだ具だくさんカレー」


 グルオオオオオォォ。


 たこ焼きをたくさん食べたのに、鳴ちゃんのお腹が盛大に鳴る。


「出発、進行っ」


「ですね」

 

 私が車内に声を響かせると、栞ちゃんはゆっくりとアクセルを踏んだ。





 ◆第13話 『スズちゃんと二人で』に続く。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る