第9話 『3人の部屋』
「まほろさん、これをどうぞ」
栞ちゃんがどこからか、ショッピングモールのパンフレットを持ってきてくれる。
ホント、気がきくなぁ、栞ちゃんは。
「ありがとう。えーと、フロア見取り図で工具コーナー……工具コーナー……工具コーナー……あったっ、二階に上ってすぐ左だよ」
私はパンフレットにある工具コーナーをイトウさんに見せてみる。
イトウさんは、一瞬たじろぐような素振りを見せたあと、パンフレットを覗き込んだ。
「にかあぁい、ひだありぃ、こおぉぐこおなあぁ?」
「うんっ、そうだよ。そこの階段上って二階、左、工具コーナー、そこでスコップをゲット。……大丈夫、かな?」
イトウさんは、少し考えるような素振りを見せる。
そして言った。
「かあぃだんのぼぉって、にかあぁい、ひだぁりぃ、こおぉぐこおなあぁ、すこっぷげえぇと、かだぁんでぇあなをほぉる。うめぇる??」
「完璧だよ、イトウさんっ! ケガしたゾンビさんを埋めるところまでちゃんと分かってるみたいで良かったよっ。じゃあ、お願いね、イトウさん。ほかの元気なゾンビさんと一緒に宜しく頼みます」
◇
「イトウさんは意外と頼れる存在かもしれませんね。積極性が足りないだけなのかもしれません」
イトウさん達が二階へ行ったあと、栞ちゃんが言う。
「私もそう思ったよ。しっかりしてるよね、イトウさん」
「所詮ゾンビだろ。……んで? あたい達はこれからどうすんだ?」
「それは……」
鳴ちゃんの問いに私は答えようとする。
でも、なんとなく勿体ぶってみたくて、鳴ちゃんと栞ちゃんの言葉を待ってみた。
「それは……なんでしょうか?」
「それはなんだよ? 早く言えって」
うむ、では答えてしんぜよう。
「それは、私達のお部屋を探すことでーすっ。ほら、モールに住むって言ってもモール全体が生活の場ってわけじゃないよね? 寝起きする私達だけの部屋って当然必要だと思うんだ。まずはそれを探さなくちゃだよ」
「それはそうですね。正しく最初にすべきことだと思います。では早速探しましょうか」
「最低、三人で寝起きできるスペースな。あとは綺麗で陽の当たる南側。あーそれと、どうせだったらトイレと風呂と冷蔵庫に洗面台もあれば尚よしだな。そんでもってエアコン完備でマッサージ機もあったら文句なしだ」
「鳴ちゃん、要件増えてるよ。でも今言ったのが全部あれば本当にいいよねっ。よし探しにいこーっ」
そして三人で住む部屋を探す私達だったのだけど、意外に早くいい部屋に巡り合うことができたのだった。
二階にある『従業員休憩室』がそれだった。
「お風呂はないですが、あとは鳴さんが言った要件通りじゃないでしょうか。うん、とてもいいですね」
栞ちゃんが嬉しそうに部屋の中を見渡す。
私も嬉しいよー、ここで三人の共同生活が始まると思うとさっ。
で、鳴ちゃんと言えば――。
「あー、最高だわー。ヒーター機能とふくらはぎのローラー機能が半端ねー。あー」
密かに絶対ないと思っていたマッサージ機で、気持ちよくなっていた。
しかもどうやら高級な感じっぽいっ!?
◆第10話 『インテリアに凝ろうっ』に続く。
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