第7話 『鳴ちゃん、キレる』


 ヌクミズさんは駄目だ。

 ナカヤマさんもほかのゾンビさんと遊んでいて、使い物になりそうにない。

 こうなったら当然、全体をまとめ上げるキャプテンが動くべきだよね。


 私は息を吸う。

 そして声を張り上げた。


「みなさーんっ。カートで遊んでいるとケガをするかもなんで、ただちにやめてくださーい! お願いしまーすっ、それと一旦、私のところへ戻ってきてくださーい! お願いしまーす!」


 そのとき、またゾンビさんが三人乗ってるカートがやってくる。


「「「うううううぅぅいええええぇぇぇ」」」


 そして通り過ぎていった。

 止まる気も集まる気もないみたいだ。

 ほかのゾンビさん達もそんな感じで、さきと全く変わってない。

 

 どうしよっ!? と慌てる私の右半身が熱い。

 見ると、鳴ちゃんの体から炎のエフェクトが出ていた。


 鳴ちゃんは無言で店の中を進んでいくと、カートで遊んでいるゾンビさんの髪の毛をむんずと掴む。


 そしてカートから引きずりだすと、


「どおおおらあああああぁぁぁッ!!」


 どこで拾ったのだろうか、手に持っていた黄金のバットで、そのゾンビさんのお腹にフルスイングした。


 ゴキメキバキィッ!


「ぐえええぇぇぇ」


 お腹から不気味な音を出して呻くゾンビさんが、床に倒れる。

 鳴ちゃんは次に倒れたゾンビさんの足を掴むと、ブンブンと振り回す。

 そして上に向かって投げた。


 蛍光灯が割れて、その破片と一緒に投げられたゾンビさんが商品陳列棚の上に落ちる。

 その陳列棚にのぼった鳴ちゃんは、ピクリとも動かないゾンビさんの顎を掴んで掲げると言った。


「おらっ、てめーら全員こうなりてーのかっ!? なりたくなかったらキャプテンの言うことを聞け―っ 聞かなかったら片っ端からボコっていくぞっ!!」


 その光景を見ていたほかのゾンビさん達が一斉に沈黙。

 そして十秒後には、全員私のところに集まった。


 鳴ちゃん、こわつ!!



 ◇



「生徒指導の先生みたいでしたよ、鳴さん。少々やりすぎなような気はしましたが、あのゾンビさんは大丈夫なのでしょうか」


 栞ちゃんの視線の先には、鳴ちゃんにボコられたゾンビさんが横たわっている。

 ごめんね、私の声が小さかったせいで。


「多分、大丈夫だろ。あとでバーコードヌクミズたちと一緒に埋めとけばいいよ。よし、こっからはキャプテンに任せるぜ」


 鳴ちゃんが私の肩をポンと叩く。


「え? あ、うん。一応、ゾンビさん達の人数をかぞえるね。1、2、3…………20、21、22……あれ? 一人足りないような」


「ん? そうなのか? 誰だ?」


「はて、誰でしょうね」


 3人は暫しの沈黙。

 そしてややあって、


「「ワタナベさんっ」」


 私と栞ちゃんが顔を合わせて声を出す。

 そしてその視線は鳴ちゃんへと向けられた。


「やべ、めんどくせーからゴミ置き場に放り込んだままだった。ちょっと連れてくるわ」


 鳴ちゃん、扱いが雑っ。


 



 ◆第8話 『ゾンビさん達のやるべきこと』に続く。

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