第5話 『ヌクミズさんの番』
急に暗かった店内が明るくなった。
なぜだろう、と考える間もなくその笑い声は聞こえてきた。
「ぶあっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっ」
誰だろうと目を向けたら、ヌクミズさんがお腹を抱えて笑っていた。
どうしたのかな? ヌクミズさん。
私が頭上にクエスチョンマークを浮かべていると、栞ちゃんが理由を教えてくれた。
「ナカヤマさんの手が折れたから笑っているのですよ。ほら、ヌクミズさんはナカヤマさんのことをライバル視してますからね」
「なるほどね。って、笑っていいところじゃないじゃんっ。ちょっとヌクミズさん――あれ?」
少し叱ってやろうと思ったのだけど、そこにヌクミズさんはいなかった。
「ヌクミズさんでしたら、こっちにいますよ。何かするみたいですが……」
見ると、今度はヌクミズさんが自動ドアの前に立っている。
ナカヤマさんの悲劇を見たあと、同じことをするとは思えないけど、うーん、何をする気なんだろ?
屈伸を始めるヌクミズさん。
そして屈伸が終わると、大きく深呼吸。
からの~怪しげな構え。
中国拳法の構えをへんてこにした感じ? で、そこから何をするのかと見ていると、
「ほあああぁぁちゃああああぁぁぁっ」
と奇声を上げながら自動ドアを蹴りつけた。
ゴキッ。
変な音がなる。
ヌクミズさんが、足首からさきが変な方向にねじ曲がっている右足を
そしてこっちに見せてくれた。
「おぇちゃった」
いやいやいやいやっ!
「ちょっと何やってるのっ、ヌクミズさん! まさかナカヤマさんとほぼ同じことを繰り返すとは思わなかったよっ!?」
「ぶへっひぃっひぃっひぃっひぃっひぃっ」
今度はナカヤマさんが、ヌクミズさんの醜態を見て笑っている。
いや、あなたも笑う資格ないですから。
「ふふふ、先が思いやられますね。リーダー役がこれですから。ところでどうしましょう? ここは諦めてほかの入り口を探しましょうか」
ナカヤマさんとヌクミズさんの茶番劇に一笑いした栞ちゃんが、別の入り口を探そうと提案する。
「そうだね、どこかしらのドアが開いているかもしれないしね。例えば裏口なんか――」
ダァンッ!!
そのとき、自動ドアから大きな音が響いた。
え? 何!?
私は見る。自動ドアを。
自動ドアの内側に、白目を剥いて舌をダラリと垂らした誰かがへばりついていた。
「ひいぃっ――……あれ?」
なんかどこかで見た顔。
と思ったらその顔が動いて、してやったりの笑みを浮かべる。
鳴ちゃんだった。
◆第6話 『キャプテン襲名』に続く。
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