【禍の角】昼下がりの猥談

クファンジャル_CF

昼下がりの猥談

「そういえばお父さんの交尾行動って見たことある?」

ある昼下がりの午後、恒星光に照らされた直径200kmの骸骨球体が、真空の宇宙空間。何もない星系で浮かんでいる。

肋骨を球体に整形したみたいなデザインの自由軌道要塞―――すなわち、超大型の宇宙戦艦だと思えばよろしい。ちなみにこのサイズでありながら亜光速戦闘が可能な生命体である。

その一角、中心部に近いあたりの日当たりのいいスペースに、4人の機械生命体―――40メートル近くあるが、彼女らの人格を尊重し"人"で数える―――が陣取ってくつろいでいた。

人間なら椅子やクッションに相当する大きなキューブにもたれかかったり抱き着いたりしている。

先の発言は、その高度機械生命体たちのうちの1人、未来のものであった。

彼女らの名前を今のうちに紹介しておこう。

白くて輪っかを背負っていて6本腕なのが"未来"

黒くて背中から翼のようなものが生えているのが"刹那"

赤くて背中からクレーンみたいなのが生えていて脇に大剣を立てかけているのが"輪廻"

灰色で布のエプロンのような外部装甲を纏い、脇に巨大な工具の複合体を置いているのが"朝霧"

さて、会話に戻る。

「うーん?吾輩は見たことはないのう」

「私もないな。そういえば」

「ですねえ。不思議と言えば不思議」

「人類って性欲がないのかしら?」

「いや幾らなんでもあるじゃろ。生命構造はほとんど商業種族(※1)と変わらんのだから」

「その割に父さんが刹那の作る飯美味そうに喰ってるところをあんまり見たことがないぞ。食材も調理法も商業種族のものなのにな」

「うっ……」

20メートルほどの立方体の上にだらーん、とのっている輪廻に言われて刹那はたじろぐ。

「そういえば、パパの種族は胎生だって聞いたことありますよ」

「へぇ~胎生なんだ。お父さんの体だけ見ても分からないわね」

「そりゃあ父上は雄体じゃからなあ。商業種族は卵生じゃから、きっと交尾も似ていないじゃろうて」

「ということは、商業種族の体を見ても性欲が湧き起こらないのかしら」

「だと思いますよ。まああの外見的差異からすると、湧き起こる方が凄いけど」

「でも自然界じゃあ、同族がいない時は異種の動物相手に交尾行動するの結構いるからなあ」

「試してみるかの?」

「待て待て、試す前にまず本人に意志を聞いてこいよ。嫌がるかもしれねえだろ」

「確かにそうだの。じゃあ行ってくるぞい」

「まあほどほどになー」


数時間後。

「あれ?刹那~?お~い???」

刹那がサイバネティクス連結体―――遠隔操作できる人間サイズの分身機械―――を、彼女らが父と呼ぶ人物の元へ送り込んでしばらくたつ。

その間、刹那の本体である40m近い機械生命体はピクリとも動かない。

いや。

ビクンビクン

「げっ」

なんか痙攣してる。

「げふっ」

あ、起きた。

「……凄く怒られたぞ吾輩」

「あーやっぱり。で、どうだった?」

「怒られて、でもせっかく我慢してたのにどうしてくれるんだ!ってとびかかられて……後は思い出したくないぞ吾輩……」

「……ちょっと待て、お前のサイバネティクス連結体って完全機械じゃねーの?」

「うむ。ロボットだぞ」

「それでどうやってやった……いやそれ以前に、ロボットでも欲情できるんだな人類って」

「千年近く我慢してりゃそれくらい行くんじゃないかなあ……」

「というか、どうやってお父さんの生殖器官を刺激したの?」

「うむ。手でやるのじゃが、どうにもうまくいかず……最後になんか白い液体をぶっかけられたのじゃが」

「精液だ!!すごい、地球人類の精液なんて貴重なサンプルじゃないですか!!ください!!」

ちなみにこの世界では、銀河諸種族連合の勢力圏内で活動している生きた地球発祥人類は一人しかいない(※2)

「えー。欲しけりゃ自分で取りに行くのじゃ」

「そうします!!」

2人目―――朝霧が父のもとに突撃した。


数分後。

「駄目でした……」

「はええなおい!?」

「機械で行けるなら人体の方がもっといいだろう、と思いまして」

「人体……つーても父さんのサンプルしかねーだろ?」

「はい。なのでパパの肉体構造をモデルにしてサイバネティクス連結体を改造したんですが、『僕はホモのケはない』って怒られまして……」

「となると、刹那は女性として認識されてたのね」

「たぶん」

「じゃあきっと、人間からかけ離れてる姿だったのがかえってよかったのかもね」

「かなあ」

「順番から行くと次は輪廻ですよ」

「え、オレもか!?」

「全員行かないと駄目でしょここは!?」

「しょーがねえ……腹をくくるか」

3人目であった。


数十分後。

「うぐぅ」

「どうでした!?」

「支持脚を掴むな苦しい!?」

「あ、ごめんなさい」

「大丈夫?」

「まぁ大したことはないが」

「で、成果はどうだったのじゃ?」

「あー。ダメダメ」

「輪廻はどうやったの?」

「父さんの遺伝子から逆算して女性の構造を推測したんで、それをサイバネティクス連結体に被せたんだよ。改造するのも面倒くせえからとりあえず映像だな。

そしたらよ。

『中途半端に似すぎてて怖いわ!?子供が夜中に遭遇したら泣くぞ!!』だとよ」

「あー……不気味の谷かー。人類にもあったんだ。やっぱり」

「となると、やっぱり人類から離れたデザインにするのが一番かもね」

「未来、どうする気だ?」

「私にいい考えがあるの」

ラスト、4人目。未来選手入りました。


「……ふう、成功よ」

「おっ、そうか。で、どうやったんだ?」

「うん。サイバネティクス連結体にね、人類の女性の構造を組み込んだのは一緒。でもそれだけじゃなくて、適度にデフォルメ化するために、もふ蝙蝠のデザインを全体へ取り入れてみたの」

ちなみにもふ蝙蝠(※地球語翻訳済み)とは商業種族の主星に生息する、コウモリに似た飛行生物である。コウモリと違い白い羽毛が生えており、鼻先や耳の中だけが黒い。

「ほう。見せてくれ。―――おお、考えたなぁ」

転送された映像を見て輪廻は感嘆。

かわいい。というよりは凛々しい。

すらりとした長身。

華奢な肩。

足先は4方向に鉤爪が伸びているが、くるぶしから太ももまでのくびれはなまめかしい。

腋からはもふもふな羽毛が沢山生え、触り心地よさそう。

頭からは大きな耳が伸び、長い髪の毛が。人間ならボブカットと呼ぶだろう。

それとは別に顔を羽毛が覆っている。眉毛の代わりに黒い羽毛が切れ長の瞳の上にきていた。

頬袋のおかげで左右に膨らんだ口は柔らかそう。

肘から先はうろこに覆われており、指先は細く、長い。

あと、尻尾。

ぬるりとした灰色のそれは、先端か柔らかそうで触手を思わせる。

乳房はない―――凹凸の少ないボディはむしろ、その美しさを際立たせている。

「これ、大抵の種族の美的感覚に合致しますねえ」

「うむ。流石未来じゃなあ」

褒めたたえる一同であった。

「褒められてもなんだか微妙な気分になるわね……」

そんな昼下がりの午後。


なお、この日一人の男がケモナーに目覚めたという。

ちゃんちゃん。



※1:擬人化したカワウソのような姿をした、1m弱の知的生命体。

※2:なんでそんなことになってるかは別途連載中の超絶隣人ツノガーZ 参照。

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