第19話 慶事で迎えた新時代
西暦195年の秋。ナムジとヤガミが結婚式を挙げる。
2人の年齢は18歳と15歳。ヤガミ自身は少々気早に過ぎると感じていたが、本人達の意向は
朝鮮半島の民族衣装なのだろうが、袴の腰紐を乳房の下で結び、胸の膨らみを強調する
「御洒落な袴ねえ」
披露宴に先立ち、ヤガミの花嫁姿を眺めるオオヤツ妃。
「そうか、絹布を
御多分に洩れず、彼女の生活圏も黒木集落の内に限られた。『海の向こうは
道中に味わった興奮が、遅れ馳せながら、彼女の知的好奇心を刺激したようである。遠路の苦労が老体に鞭打ったのは事実だが、解き放たれた知識欲は彼女を精神的に若返らせもしていた。
それに、結婚式に臨む息子夫婦を目にするや、嬉しさに長旅の疲れも吹き飛ぼうと言うものだ。奇禍に遭ったアマツとカツヒを偲ぶに連れ、新天地で新たな人生を歩み始めた三男の晴れ姿に胸を撫で下ろす。
当の息子は、緊張なのか照れなのか、仏頂面を崩さない。これでは新婦が余りに可哀想だ。白く着飾った瑞々しい姿を見るに付け、朴念仁の尻を叩かねば――との思いを強くする。
「こんなに綺麗な御嫁さんだもの。大切にしなさいよ」
暇を持て余し、棒立ち状態の息子に激励の喝を入れる。
「分かっているよ、母さん」
「御義母様。これからも宜しく御願いします」
嫁の叩頭に「何よ、改まったりして」と慌てる義母。右手をひらりと
「それに、私の方こそ頭を下げなくちゃ。出雲で世話になるんですもの」
オオヤツ妃は42歳。短い余生を息子夫婦と過ごし、異郷に骨を埋める積りであった。親類縁者や旧知の友人にも今生の別れを告げ、住み慣れた邸宅を
宮崎平野はスサノオが流れ着いた昔日とは様変わり。今や立派な穀倉地帯だ。林業と造船業で栄える
黒木郷と
特に領土の名称変更は、『昇日に向かいし地』なる地名は
「でもね、安心して。私はヤガミ姫の実家で御厄介になるから、貴女達は夜の営みに励むのよ」
経験者らしい戯言に、初心な2人は赤面して黙り込む。
「初めて貴女と会ってから、もう1年が経つのね。何だか慌ただしくって、アっと言う間だったわ」
「そうだね、母さん。でも、こうして一緒に暮らせるんだし、通い道を拓いた苦労の甲斐が有ったよ」
道程を定める試行錯誤の過程に
「本当にねえ。2人とも有り難うよ」
日向在住時より彼らの奮闘振りは聞き及んでおり、両人の絆を頼もしく感じてもいる。息子の太い二の腕に手を添えると、押しも押されもせぬ
今夜の祝宴は、豊穣祭の意味合いも兼ねており、集落内の重鎮を全て招待している。漂着民が
片隅では、スクナが
「可愛い赤ちゃんね。私が抱いても構わないかしら?」
両手を差し出す仕草で意思は伝わる。老爺は抱き上げた稚児を手渡した。為すが
その機微を察知したオオヤツ妃は、両眼を大きく開けたり、口をパクパクさせる。彼女が幼児語で優しく話し掛ける内に、笑窪を浮かべた口元から嬌声が上がり始める。一抹の不安を感じていたであろう老爺も白眉の下で目を細めた。傍目には初孫を
彼らの意思疎通には言葉の壁が立ち塞がる。それでも、共に顔を寄せ、トヨタマの上機嫌な表情を覗き込んでいれば、気持ちは通じ合える。野心や功名心の枯れる老境に達した者の対人関係は素朴だ。
着座した参列者の数が三々五々に増えると、自然発生的に酒宴が始まる。スクナを始めとする漂着民の御蔭で、出雲の宴会では
今も酒壺の中では米糀と酵母の共演が続いている。祝事で飲む度に蒸煮米を継ぎ足すばかりか、酒壺の数も随分と増えていた。腐敗し易い夏の盛りは涼気の溜る山裾の日陰に安置する。今後は発酵反応を止める火当て処理を施す予定だ。賞味期限が延びれば、交易品の一つに加えられる。
酔いが回って興奮し始める一堂。お調子者が立ち上がり、広間の中央に進み出る。
婚礼衣装に包まれた新郎新婦が愉快な出し物に笑い声を上げる。酒宴の賑やかさに圧倒されるオオヤツ妃であったが、息子夫婦の
出演者の踏み足に合わせて上半身を揺らしていると、隣のスクナが軽く小突いて来た。振り向けば、トヨタマを指差し、自分が抱擁役を交代しようと身振りする。次なる仕草は、オオヤツ妃を指差し、口元で箸を動かす真似事。食事を摂れと言いたいらしい。
――この
好意に甘えた彼女が不慣れな箸を動かし始める。日向では未だ手掴みが当たり前。出雲で驚いた利器の一つが箸である。熱々の料理を愉しめるのだから、寒い土地では余計に重宝するのだろう。
第二の発見が味噌。調味料は食生活を豊かにする。塩と
第三の発見は食材の貯蔵方法だろうか。
その結果、季節外れの食材が食卓に並ぶ事も珍しくない。また、雪室で低温熟成した魚介類や獣肉の
雪室の効用は食材加工に止まらない。最大長所は不安定な自然の恵みを平準化させる点にある。食糧備蓄に憂いが無いからこそ、人々は寒くて長い冬を平穏に過ごせるのだった。
息子の傍で過ごすのだから、どんなに不便な生活であろうとも、満足すべし。そう自分に言い聞かせ、最果ての地に移って来た。ところが、出雲の方が寧ろ文化的に洗練されている。都落ちしたとの感傷は
披露宴を機に親密さを深めるオオヤツ妃とスクナの2人。彼らの年齢差は僅か4歳。共に老いる分には丁度釣り合う。男は故国を失い、女は息子達を喪った。辛酸を嘗めた過去を背負い、慰め合う相手を欲してもいた。
後日談として記すと、地縁血縁の
――男手一つでの女児養育は難儀の一言に尽きる。老爺には後妻が必要だろう。
そう周囲には漏らしたが、後指を差されぬ為の方便に過ぎない。長い未亡人生活に倦んだ彼女は、年甲斐も無く、第二の新婚生活に高揚感を抱いていたのだ。とは言え、燃え上がったのは感情面だけで、肉体的には純潔そのものであった。
一方の新婚夫婦は連夜の如く睦声を夜闇に漏らしていた。交易先を開拓しようにも、冬の間は瀬戸内へと抜ける林道が積雪に閉ざされ、身動きが取れない。若い2人は夜肌の愉悦を貪り同衾の営みに明け暮れた。汗と嬌声に
「気分が優れない」と新妻が体調不良を訴え始めた時、ナムジは酷く動揺した。医術を心得ない者には対処しようが無く、直ぐにスクナ宅の戸を叩く。ところが、往診に同行したオオヤツ妃は、嫁を見るや「ナムジ!!」と破顔し、愉快そうに笑い出した。
「病気じゃないわ。赤ちゃんが出来たのよ」
片言の
「ヤガミの吐気は続くでしょう。でも、その内に落ち着くから、
姑は床に伏せる嫁の手を握って励ました。
「
不安気に尋ねる新妻。懐妊の吉報は嬉しいものの、目下の問題は目眩と吐気。余り長くは続かないで欲しい。
「まぁ、三ヶ月って処かしら」
平然と答える歴戦の経験者。片や初産に臨む者は床の中で微妙な表情を浮かべた。二つ三つ年上の娘が妊娠した光景を思い浮かべる。確かに「お腹を触らせて」と頼んだ記憶が有るから、懐妊から随分と経った頃だったのだろう。
――誰もが幸せそうな顔を自分に見せていたから、出産の時以外にも苦しむなんて想像もしなかったわ。
冷静に考えると、スクナが色々と薬膳を調合してくれるので、ヤガミは可成り恵まれた境遇で
世界四大文明の地に共通する点は、四季の変化が乏しく、降雨量も少ない事。ところが、雨季にだけは突如として大河が氾濫するので、防災の観点から太陽暦が発達した。但し、洪水の運ぶ上流域の肥沃な土壌が農耕文化を育んだ面を忘れてはならないだろう。
さて、対照的に日本では、初春と梅雨時の長雨、秋の台風と言う風に、河川の氾濫が予測可能だ。直視できない太陽の運行を几帳面に観察しようとは思わない
しかしながら、社会生活を営む上で、大雑把な時間の区切りは欠かせない。人々の採用した尺度は月の満ち欠けを計る簡便な太陰暦。但し、1年の区分は田植え期を基準としている。
話を若夫婦の居宅に戻そう。オオヤツ妃は、目蓋を閉じた嫁の表情に諦観の色を見て取ると、今度は息子の方に向き直った。
「実家に羽毛の布団を借り、重ね着した方が良いわね」
その後も、「熱い汁物を食わせろ」だの「湯を使って髪を洗え」だの、妊婦の身体を冷やすな――との趣旨で
「もう其処まで春が来ている
南国育ちの彼女は両腕を交差させ、初めて経験する山陰気候に身震いした。
地表が
時を同じくして、妊婦の容態も安定期に入った。安心したナムジは、新妻の面倒を母親とスクナに託すと、自らは瀬戸内を目指して出発する。何人もの出雲人を従え、残雪の居座る
端緒は
甲板には、出雲集落の特産品――鉄製品、
瀬戸内沿岸を渡り歩き、貯米
また、人々は大自然の
久しぶりに母親と話してみて、ナムジは経済発展を遂げた薔薇色の未来図を改めて実感していた。気宇壮大な構想を披露する来訪者に、各地の民は「神の降臨か」と圧倒され、下にも置かない歓迎振りを示す。
「ようこそお越し下さいました。何の取得も無い貧しい村ですが・・・・・・」
「
貧村側で準備する物は高床倉庫のみ。他の集落から運び込んだ預託物を、盗まれぬよう見張っているだけで、一定の籾米を裾分けして貰えると言う。元手が無くても始められる
反面、聴衆は物々交換が社会の基本原則だと信じ込んでいる。だから、突飛な仕組みを中々理解できず、胡散臭いと警戒する。競り市の様に質問が相次いでいたのに、一転して口数が減り始めると、それは交渉が漂流しつつある予兆だ。
だが、ナムジの方でも何度も似た問答を重ね、
「私も疲れました。明日もう一度、詳しく話し合いましょう」
提案内容を
――参加資格を問わぬなら、誰もが先を争って立候補するだろう。
往々にして村長の思考は在らぬ方向に
――儲け話の選に漏れる村が出るかも知れない。歓心を買っておかねば・・・・・・。
ナムジが既婚者だと承知の上で、自分の娘を一晩の
「明日の段取りが有りますから」
同席者に目配せした村長は、全員を急き立てる様にして、屋外に姿を消す。入れ替わりに現れた娘が、甲斐々々しくナムジの足を洗い、寝床の準備をする。
「ありがとう。君も
ところが、娘は立ち上がる素振りを一向に見せない。それどころか、モゾモゾと
「ちょっと、何をするのっ!?」
「私を抱いて下さいませ」
「抱いてって、俺は見ず知らずの男だぞ」
「いいえ、既に存じ上げてます」
「そ、そんな事を言ってるんじゃなくて――」
「貴方の子種を頂戴しない事には、両親に叱られます」
退屈な一人旅の末に観覧する蠱惑的な見世物。若人の身体は性欲の捌け口を求めて荒れ狂う。妻の監視の目が届かぬ地に御膳立てされた密室だ。如何に清廉な理性の持ち主であろうとも、甘誘には抗い続けられまい。斯くなる経緯により、大国主は恋愛の神様として全国各地で祀られ始める。
勿論、瀬戸内を
夏が過ぎ、頭を垂れる稲穂が黄色く染まる頃だった。ヤガミが元気な男児を出産する。乳を求める泣き声は威勢良く、昼間は蝉噪と張り合い、夜長には
無事な生誕に安堵したナムジは、婚前の記憶に
実際の懐妊時期は異なるのだろうが、「狭い空間に籠って抱き合った夜に身籠った」とヤガミ自身が吹聴した結果である。十月十日の妊娠期間が周知されておらず、月経の動静を知らぬ男に真偽を判別する
慶事とは重なるもので、程無くして尾道宿場も完成し、出雲人が交代で詰め始める。冬期の孤立を免れない出雲集落。交易網の主催者が不在となっては、第三者に実権を横取りされ兼ねないからだ。そんな先駆者達の苦労が報われ、九州の東半分、山陰と瀬戸内各地を結ぶ人々の往来は太くなる一方だ。
ナムジの構築した広域経済圏の目玉の一つは貯米に協力する村落の
それだけではない。瀬戸内の津々浦々を豊かにした実績が人口に膾炙する内に、大国主は大黒様と呼び親しまれるようになる。〝物種〟を詰めた大きな袋を背負う姿は、殖産興業や医療普及に尽力した彼を象徴した人物像である。
此処で一つ指摘しておくべきだろう。彼の始めた貯米
手元に潤沢な銅銭を持たない出雲勢は引換証を準備できなかった。窮余の策として、貯米者と穀物庫を紐付け、単純な倉庫貸しに徹する。家賃が定額なので、荷主は貯米量を厚くする程に採算が良くなる。安定収入を見込める稲場運営者にとっても異存は無い。
後世、
キマタの誕生した西暦196年は、九州北部の情勢が大きく動いた年でもあった。邪馬台城と香春集落が和睦を結び、ミカヅチ出奔から足掛け9年に及んだ分裂状態に終止符が打たれる。
この間、邪馬台城の貯米は機能を停止した。平尾台は
オモイカネも手を
ところが、人智を
小さな取り付け騒ぎが散発し、「預米は大丈夫か?」との疑心暗鬼が周辺住民の心を跋扈する。中核が信用不安を起こせば、経済圏全体が
一方の香春集落は、
両集落が連携を深める情勢下、城側の起死回生は全く以て望めない。賢明なオモイカネなら百も承知だ。袋小路の構図から目を逸らし続ける愚を悟り、遂に白旗を揚げる。死を覚悟して敵地に赴いた領袖を、ミカヅチは寛大に遇した。
「貴殿に邪心が無かった事は、不肖、このミカヅチも理解している」
粉骨砕身の努力を惜しまず、同じ卑弥呼を奉じた仲だ。意見を異にし、不幸にして
「綻びを修復したからには、二人三脚で再興しようではないか!」
恩情の溢れる言葉が意固地に凝り固まった心を
半面、ミカヅチの性格は、武人らしく、竹を割ったよう。戦争が終われば、敵も味方もない。同僚だった男の健闘を讃え、枯れ細った背を優しく撫でる。
「だが、卑弥呼は2人も要りませぬ」
「
城側の女神が還俗し、香春側の女神が入城するに至り、皆が九州北部の再統一を実感した。ホノギも、三勢力
香春集落から邪馬台城への鉱石供給が再開されれば、運搬用途に馬を貸す日向集落の懐も潤う。加えて、城の顔色を伺う
実際、一つの経済圏として纏まった西日本の各集落は平和で豊かな時代を10年以上も謳歌する。
世代交代の準備は一朝一夕に済まされない。だから、後任と見定めた人材には腰を据えて英才教育を施す事が望ましい。ところが、オモイカネに残された時間は短かった。分裂時代に精魂を磨り減らし、義心の弛みを多々感じ始めてもいた。
「ミカヅチ殿。実は迷うておる事が有りましてな。相談に乗って頂きたい」
「何を藪から棒に?」
「
「人選に介入しても構わぬのか?」
「貴方は実質的な統率者だ。気力の衰えた儂ではなく、貴方の意見を尊重した方が良い結果を招くでしょう」
事実、統一を果たしたミカヅチの気力は
「承知した。具体的には?」
智臣は「
1人は年端も行かぬ少年。好奇心が強く、向上心に優れる。反骨精神に富み、叱責を恐れずに進言する度胸が頼もしい。秘めた可能性を感じるも、前任者の薫陶を十分に受けられない。果たして、才覚を開花できるだろうか。
もう1人は
「もし若い方を選んだなら、
言い淀んだ口端に浮かぶ苦渋の痕跡にミカヅチが片眉を上げる。続く言葉を待つも、一向に逡巡の解ける気配が無い。聞き流す事も出来ず「手に余るなら?」と、その先を促した。
「
短くも物騒な回答。理由を
選択を任された者としては居心地の悪い限りだが、要は自分自身で見定めれば済む話だ。詮索する事を諦め、「その積りで日頃から接するとしよう」と請け負った。多少の情が湧いた者とて
後事を託して安心したのだろう。翌年の田植えを待たずして、敗残の功労者は息を引き取る。異例な事ながら、武臣が智臣の後任人事を定める顛末となった。
世代交代に備える者が
その立居振舞いから冷淡だと誤解され易いホノギであるが、彼も人の親。いや、
――
――どちらを跡取りとする?
知れた事。長男を跡取りに据えねば、火種を抱え込むも同然。
――それでは、次男を何処に遣る?
同盟の
息子達の
「ホオリは未だ16歳ですよ。見知らぬ土地で暮らすには早過ぎます!」
常日頃から夫婦間の決定は上意下達で為され、今回も通告に近い雰囲気で提案された。ところが、何事にも唯々諾々と従うハナサクが異議を唱える。愛する息子の処遇となれば、良妻の鏡と誉れ高い彼女も見過ごせなかったらしい。頑迷な態度に手を焼くホノギ。
「ナムジだって16歳の時に旅立った。ホオリに出来ない
「それはそうですけれど・・・・・・」
「ナムジ夫婦を頼れるのだから、心配には及ばぬと思うぞ」
「でも・・・・・・」
頑迷な態度に手を焼くホノギ。
「可愛い子には旅をさせよ、と言うだろう?」
「仲が良いのに・・・・・・、二人一緒じゃ駄目ですか?」
「だからこそ、引き剥がすんだ。双子の
説得に努める流れから一転して、今度はホノギは意図して厳しく突き放す展開。交渉の緩急に聡い者としては腕の見せ所だろう。
「2人が逞しく育つ為なんだよ。親としては心を鬼にしなければ・・・・・・」
反論が途絶えたのを良い事に、
「それに、な。
消沈する妻を慰め、手練手管を駆使して懐柔する。
「会いたいとは思いますけれど・・・・・・」
感情に訴える作戦が功を奏したようだ。
「それに勘違いするなよ。
――旅立たせると言ったり、会いたいと言ったり。
涙に濡れた顔を上げるも、得心が行った感じではない。
「出雲に腰を据えた後も、時々は
「本当に?」
毎年、晴天の続く夏になると、出雲の交易品を山積みした隊商が日向に現れる。集落長の息子であるホオリは早晩、その商隊長を務めるだろう、と説明する
「その内に、商いの品ではなく、嫁を連れて来るかもな」
ガハハと哄笑するホノギ。場の雰囲気を変えんと気遣ったのだろうが、彼にしては珍しい反応だ。
従順な妻として結婚生活を送る彼女に〝徹底抗戦〟の気構えは無い。奮い立たせた抵抗心も風前の
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