10 12月25日 助っ人登場!?

「ど、どうゆう事でするーっ!? 設定を間違ってしまったのですかのーっ!?」


 直仁様からの通信を聞いたマリーは大層慌ててしまいました。先程までは問題なく効果を発揮していた「指向性弱骨振動波送信機」でしたが、寝ている子供や他の人物に影響を与えているのでは意味がありません。


(……いや……落ち着け、マリー。どうやらトイレに目を覚ました様だ……)


 夜中にトイレで目覚めるなど子供にはよくある事でが、しかし何とも間の悪い事ではあります。僅かずつ3人の子供達を門の方へとおびき出してはいますが、いつ興味を失って部屋へと戻っていくか知れたものではないのです。


「……何か……何か良い方法はないですかのー……」


 子供達の足止めする方法を必死で思案するマリーですが、そう簡単に浮かぶものではありません。その時、門の方を見据えて立ち尽くすマリーの背後から人影が近づいてきました。


「あら? マリー……ちゃん?」


 その声に振り返ったマリーは、思いがけない人物を目にしたのでした。


「ゆ……雪白ちゃんっ!? それに由加里ちゃんっ!?」


 そこには何故かサンタ服に身を包んだ雪白ゆきしろ由加里ゆかりが立っていました。


「こんな所で何してるのー? それにマリーちゃんもサンタ服なんだー? 可愛いね! とっても似合ってるよ!」


 驚いているマリーに、由加里がにこやかにそう声を掛けました。


 やや小柄ながら、身に付けているサンタ服の上からでもその見事なスタイルが解る女性は「柾屋まさや 雪白ゆきしろ」。そしてその隣に立つほっそりとしたスレンダーな女性が「水瀬みなせ 由加里ゆかり」。二人は以前、ある事件でマリーと面識を持った女性達でした。雪白はランクこそ低い物の、ある “異能力” においては非常に高い力を持つ “異能者” であり、由加里は雪白の親友なのでした。


「マリーちゃんも……コスプレパーティ?」


 そして彼女達の趣味はコスプレです。この言葉から解る通り、彼女達はコスプレパーティの帰りにここを通ったと推察出来ました。


「ゆ……雪白ちゃんっ! 丁度良かったでするーっ! 力を貸してくれませぬかのーっ!?」


 ズズイと詰め寄って彼女の手を取るマリーに、雪白はやや気圧された様に後退りました。


「ち……近い……近いよ、マリーちゃん……何? 何があったの?」


 そしてグイグイと詰め寄って来るマリーに、雪白はやや苦手意識がある様でした。


「あの……ね? 今ここで直…… “直人なおとちゃん” が仕事してるんだけど困った事が起こっちゃって……」


「直人」とは直仁様の偽名です。以前直仁様が雪白と仕事を一緒にした際、女装しているのが「渡会 直仁」だと知られたくなかった彼が咄嗟に告げた名前なのでした。


「えっ!? 直人ちゃん、ここで仕事してるんだ!? クリスマスなのに頑張ってるのねー!」


 そして雪白は「直人ちゃん」に何故か親近感を持っている様でした。形は違えど「コスプレ」と「女装」にどこか近しい物を感じているのかもしれません。そして「女装癖のある直人」に、雪白はシンパシーを感じている様でした。勿論、それは大きな誤解なのですが……。


「うん……雪白ちゃんもプレゼント配達の任務は知っていますかの? それを此処で直人ちゃんが取り組んでるんだけど、ちょっと問題が起こっちゃって……」


 そこでマリーは簡単に状況を雪白達へ説明しました。


「うーん……つまりあそこにいる3人の興味をどこかに惹きつければいいって事なの?」


 由加里が考えを巡らしている表情でそう呟きました。由加里には「直人ちゃん」との面識はありませんが、どうにかしてやりたいと考えている雪白のオーラがビシビシと彼女に向かって放たれているのです。


「……ねぇ、ユッキー? あんたの能力で、あそこの川から何か人目を引く様な物を作り出せない?」


 施設とは道路を挟んで細い川が流れています。その川の水を利用して、雪白が何かを作り出しその注意を引くと言うのが由加里の考えでした。


「別に……出来ない事は無いけど、今の恰好じゃーあんまり大きな物は造り出せないよ?」


 彼女の能力は「断層」を作り出すと言う物です。それが大気でも液体だろうと個体であっても、複数の層を持つ「壁」を雪白は作り出す事が出来るのです。しかし彼女の趣味からなのか、その形状は「壁」に留まらずあらゆる形に形成が可能なのでした。


「そんなに大きくなくても良いよー。いい? 形は……」


 そうして由加里の腹案が示されました。雪白が「断層」で作り出したサンタクロースを数個造り、それをエサに3人を外へとおびき出すと言う物でした。確かにこの時期、こんな夜中にその様な物が見えれば興味の惹かれない訳はありません。


「タイミングが大事だからね。ユッキーは距離を措いて造り出した『サンタさん』を配置して。マリーちゃんは何とかこのまま道路まで子供達をおびき出して、そのまま『カクヨムン』を捕まえさせて」


 彼女達は車内に身を隠し、由加里の指示通り雪白は水で造り出したサンタの断層を配置させ、マリーはカクヨムンを巧みに操り何とか道路まで子供達3人をおびき出しました。


「……このカクヨムンって、一体誰のなんだろう?」


 門を出た所で動きを止めたカクヨムンを抱き上げて、裕也君がポツリと呟きました。


「……今よ!」


 マリーのもつコントローラーのモニターを見ていた由加里が声を上げました。それと同時にマリーが操作すると、裕也君の抱き上げていたカクヨムンがある方向にライトを当てました。そこには雪白が作り上げた断層のサンタが光の中に浮かび上がりました。大きさとしては1mにも満たない物でありましたが、暗闇の中でライトアップされたそれは見事に遠近感を奪い、あたかもそこにサンタ姿の人物が立っている様に見えたのです。


「……裕也っ! あれっ!」


「……あれって……サンタさん?」


 義達君と真尋ちゃんがその影に気付き声を上げます。


「マリーちゃん、ライト消して! ユッキーはライトが消えたらサンタさんを元に戻して!」


 マリーと雪白は由加里の指示通り、ライトを消しその直後雪白はそのサンタを解除して元の水に戻しました。


「マリーちゃん、ライトアップ!」


 再び由加里の指示が飛び、マリーがカクヨムンのライトを点灯させました。先程までそこにあったサンタの影は消え失せ、小さな水たまりだけが残されていました。


「……あれ? サンタさん、消えちゃったぞ?」


 その場に近づいて辺りを探る3人の子供達を確認し、由加里がまたまた指示を出しました。


「マリーちゃん、ライト再点灯よ!」


 その声にマリーがカクヨムンのライトを点けると、少年たちの僅か前方にまたもやサンタの影が浮かび上がったのでした。


「あっ! あんな所にっ!」


「あんな一瞬でっ!? どうやって!?」


 子供達にはきっと、サンタの影が瞬間移動した様に映った事でしょう。勝手の解って来たマリーがライトを瞬間消灯し、それに併せて雪白が能力を解除しました。そしてライトが再点灯した時にはその影が消え失せているのです。


「……あれー? サンタさん、消えちゃった?」


「……もうどこにも見当たらないね……あれって……本物だったのかな?」


「……もう戻りましょう? 寒いし、施設から出てるのがバレたら私達怒られちゃうよ?」


 真尋ちゃんの言葉に、他の2人が身をすくめました。折檻にも怯えたのでしょうが、真冬の深夜に寝間着姿ではさぞかし寒い事でしょう。


「そ……そうだな……それよりこのカクヨムン……どうしよう?」


 手の中のカクヨムンを見つめて、裕也君が困った様に2人へ意見を求めました。


「そんなの、ここに置いておけば良いのよ。私達が勝手に持ち上げたりしちゃって、きっと持ち主の人も困ってるわ」


 真尋ちゃんの意見に、裕也君は素直に従いその場にカクヨムンを置きました。マリーの操作するカクヨムンはその場からすぐに駆け出し、暗闇へと姿を消しました。

 それを見送った3人は、それぞれ自分の腕をさすりながら小走りに施設へと戻って行きます。しかし時間は十分すぎる程稼ぐ事が出来、直仁様ならば間違いなく任務を完遂した事でしょう。


「ありがとーでするーっ! 雪白ちゃんっ! 由加里ちゃんーっ!」


 そう声を上げて雪白に抱き付いたマリーに、雪白はやや持て余し気味な様です。


「べ……別にこんなの何でもないよー。それよりマリーと直人ちゃんの役に立てて良かったー」


 マリーに抱き付かれたまま後退った雪白を見て、由加里が助け船を出しました。


「さぁ、ユッキー。あたし達はそろそろ帰ろっか? マリーちゃん達はまだ仕事中みたいだしね」


「うん、そうだね。直人ちゃんにも会いたかったけど、仕事中なら仕方ないよねー……マリーちゃん、直人ちゃんに宜しく言っておいてねー」


「勿論でするーっ! ほんっとーにありがとうーっ!」


 再び抱き付きそうな勢いのマリーを警戒したのか、雪白は由加里と共にそそくさとその場を後にして行きました。

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