3 12月23日 勝負方法
完全に直仁様を置いてけぼりにしてクロー魔とマリー、二人の少女が明晩行う予定の「プレゼント配達対決」について盛り上がっています。
「……でもそれだと直仁が圧倒的に不利ではないかのー?」
クロー魔の説明を受けて、マリーはそこで感じた疑問を口にしました。そもそも直仁様は男性用サンタクロース衣装を着た所で能力を発動させる事が出来ません。それに例え女性用サンタクロース衣装を身に付けたとしても、それでは仮装となってしまいやはり本来の効果には程遠いのです。そしてマリーの口にした懸念は正しくその事を指しているのでした。
「
確かに1人で回るクロー魔と比べれば人数で有利なのは間違いありません。しかし実際に忍び込むのは直仁様1人となる為、そう言ったスキルを持たないマリーは完全な助手となる訳です。それでも何かと助かるのですが。
「その代わりー……スグは第1と第8、9、10施設をお願いね。あたしは第2から第7を受け持つから」
「なっ!? ちょ、クロー魔っ!? 第1は無いだろうっ!?」
ただクロー魔が最後に出した提案に、直仁様が血相を変えて問い質しました。確かに今回直仁様が身に付ける
毎年政府が “異能者” 達にコッソリとプレゼントの配達を依頼している “孤児院” は、所謂普通の “孤児院” ではありません。
そこは正式名称を「特殊児童特別保護施設」と言い、全国から扶養者の無くしてしまった幼い子供達を引き取る施設と言う意味では、従来ある “孤児院” となんら違いはありません。ただし無制限に引き取っている訳でも無いのです。この施設に迎え入れられる子供達には事前にある検査が行われ、「適性」のある子供のみを引き取っているのでした。
その「適性」とは、勿論 “異能力” が発現する確率の高い子供なのです。
全国から集められた子供達は「適性検査」を受ける事となり、政府が基準を定めた身体的・潜在的能力に高い適性を持つ者のみ、その結果を踏まえて20カ所の保護施設へと振り分けられます。内10カ所の施設はこの首都近郊に存在しており、単純に「第1施設」が最も能力値が高く、数値が増える毎にその能力も低くなります。
結果的に今現在では “異能力” の発現に法則性は観測されていません。あくまでも過去の事例を鑑みた基準でしかないのですが、従順な “異能者” を少しでも多く手元に揃えたい各国はこぞって孤児を対象に研究を続けており、それはこの国においても例外ではないのです。
「なーにー? スグー? 文句あるのー?」
自分の提案に待ったをかけられて、クロー魔は半眼になって直仁様を睨み付けています。こういう態度を取る時のクロー魔には何を言っても効果が無いのですが、それを解っている直仁様でも抗議を取り下げる事はしませんでした。
「俺の状況を解ってんだろ!? ならせめて第5施設より下にしてくれよ! 他は兎も角、第1は厳しすぎんだろ!?」
元々直仁様に割り当てられていたのは第6から第10施設でした。直仁様の状態を考えれば、人手不足でも無ければ依頼など来ないのです。そしてクロー魔が請け負ったのが第1から第5施設。これは彼女の能力から考えれば頷ける割り当てです。
「……スグー……各施設の距離も考えれば、これでも随分とこっちの方が不利なんだけどねー?
互いの施設は密集して設立されている訳ではありません。この国内において保護施設は全国に広く配置されており、その内今回直仁様達が受け持つ施設も首都近郊に居を構えているとは言え、その配置は大きく間隔を取った物となっているのです。
確かに直仁様がクロー魔に言われた施設は、その中でも比較的距離の近い施設であり、逆にクロー魔の受け持つ施設は首都圏を大きく取り囲むように存在していて、全部回るともなれば非常に時間を要する事が伺えました。
「……それは……分かってるけどさ……」
彼女の言わんとしている事は、直仁様にもすぐに解る話でした。
勿論、ただ単にその施設を巡るだけならば圧倒的に直仁様達が有利なのですが、この勝負はそれだけに留まりません。中に居る子供達に気付かれてはいけないのです。
「ちょっと勘が鋭いってだけで “異能者” でもない只の子供よ? そんな
確かにクロー魔の言い分はもっともです。そして提示された条件も決して間違った物ではありません。公平に見てもクロー魔の方が若干不利では無いでしょうか。
ああ……しかし……ああ、しかし……。クロー魔の笑顔に悪意を感じるのはボックだけなのでしょうか? 何がどうと論理的に説明できないのですが、彼女の笑みにはどうにも邪悪な物が見え隠れしているのです……。
それでも納得できないでいる直仁様に、クロー魔は更なる追い打ちをかけてきました。
「スーグー? あんたも OB として、後輩に格好良い処を見せればいいのよー。……まー姿を見られちゃダメなんだけどねー」
この言葉に直仁様は更に不貞腐れた顔となりましたが、そこに疑問を持ったマリーが声を挟みました。
「……OB……? 直仁はその施設の出身なのですかの?」
この事はマリーにとって初耳でしたね。直仁様が躊躇しているのは、何も情報として第1施設が厄介だと知っているからだけではありませんでした。
「……ああ……俺は物心ついた時から施設を転々としてきたんだ。最終的に落ち着いたのが現在の第1施設なんだよ」
直仁様は実体験としてその内情を知っていたのです。そしてだからこそ、クロー魔の提案に諸手を上げて賛成する事が出来ないでいたのでした。
「……あ……あの……直仁……ごめんなさいなのですー……」
そんな事よりもマリーは違う部分に恐縮してしまった様です。直仁様の話を冷静に聞けば、彼が天涯孤独の身であり幼少の頃より施設で暮らして来た事がすぐに解る話でした。
「……うん? ……ああ、何を気にしているのか大体解るけど、マリーが気にする事は無いよ」
「そーよー、マリー。この世界に居る “異能者” なんて、多かれ少なかれ不幸な事を背負ってるもんよー。勿論全員じゃないだろうけどねー」
直仁様の言葉にクロー魔も相槌を打ちます。直仁様に負けず劣らず、クロー魔も随分と大変な人生を歩んできたのですが、本人が話さないのであればここで話す事も無いでしょう。
「……それよりも、クロー魔。条件はまー……了承した。それで? 勝った賞品は何なんだ?」
どのみちクロー魔が折れる事はありません。先程も言った通り、既にこの条件は随分とクロー魔が譲歩しているのです。これ以上直仁様にハンディキャップを与えれば、勝負を始める前に勝敗が決しかねません。
「んっふっふー……それはねー……」
そこでクロー魔はチラリとマリーの方へと視線を向けました。
「スグッ! 明後日の Xmas 、丸1日あたしに付き合う事っ! よっ!」
ズビシッと直仁様に人差指を突き刺し、クロー魔が高らかに宣言しました。呆気にとられていた直仁様とマリーでしたが、いち早く回復したのはマリーの方でした。
「ちょっ……クッ……クロー魔っ!? な……何言い出すのよっ!?」
顔を真っ赤にして、マリーがクロー魔に猛抗議を始めました。彼女が聞いている範囲で、この勝負が直仁様に不利だと言う事は解っているだけに、勝った者への報酬が直仁様とのデートだと聞き知れば黙っている訳にはいかないでしょう。
「す……直仁は勝負の景品じゃーありませぬからーっ!」
詰め寄るマリーに、それでもクロー魔の浮かべている笑顔が曇る事はありませんでした。
「んーっふっふー……マリー? 直仁が勝ったらー……マリーが Xmas にスグと二人でデート出来るんだよー?」
ピタッと。マリーの動きが、クロー魔のこの言葉で正しくピタリと止まりました。
ああ……小悪魔の囁きに、マリーも虜となってしまうのですね……。
ギギギッと、まるでブリキのおもちゃが動く様な動きで直仁様の方へと顔を向けたマリーの目には、キラキラと輝いた光が宿っていました。
「直仁―っ! この勝負、ぜーったい勝とうねっ!」
これには直仁様も、大きく溜息を吐くよりありませんでした。
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