第56話『方針決定』
パンツコレクションという名のパンツ姿お披露目会は大盛況だった。途中から、沙耶先輩はパンコレと略していたけど。沙耶先輩、会長さん、梢さんしかいなかったし褒めてくれたから良かったものの、こういったことは今後はやりたくないな。この何とも言えない気持ちを絶対にあのトレンチコートの人にぶつけようと思った。
パンツコレクションが終わったときには正午過ぎになっていた。
「もう正午過ぎだけど、琴実ちゃんが朝ご飯を食べてから2時間くらいしか経っていないから、もうちょっと後でいいかな」
「すみません……」
「ううん、気にしないで。お姉ちゃんと京華もそれでいいよね」
「私はかまわないわよ」
「京華ちゃんと一緒にお菓子食べていたからね」
そういえば、パンツコレクションをやっているときに、会長さんと梢さんはお菓子を食べていたっけ。
「それに、そろそろ職員会議を終えた東雲先生や恵先生から連絡が来るんじゃないかと思って」
「確か、職員会議は午前11時くらいからでしたもんね」
だとしたら、1時間以上もやっているのか。校内だけでなく、校外でも盗撮事件が起こったから、学校としてだけでなく警察にもっていう可能性はありそうだ。
――プルルッ。
誰かのスマートフォンが鳴っている。私のスマートフォン……じゃないか。
「私のスマートフォンか。東雲先生からだよ」
沙耶先輩はスピーカーホンにして通話に出る。
「朝倉です」
『東雲だ。遅くなってしまってすまない。ついさっき、職員会議が終わったところだよ』
「お疲れ様です」
『そっちに何か変わったことは?』
「いえ、特に何もありませんよ。まあ、強いて言えば、こっちは私と琴実ちゃんでパン……んんっ!」
「それで、職員会議をした結果はどうだったんですか?」
慌てて沙耶先輩の口元を押さえた。まったく、先生達にパンツコレクションのことを話さないでほしいよ。
「余計なことを言わないでください」
「……う、うん」
沙耶先輩に釘は刺しておいたけど、いずれはばれちゃうんだろうな。
『……話して大丈夫か?』
「ええ、大丈夫ですよ」
『そうか、分かった』
職員会議でどんな結論が出たのか。それによって、一個人としても、風紀委員のメンバーとしても今後の行動が変わってくる。
『結論としては、朝倉、折笠の盗撮事件について被害届を出す方針になった』
被害届、か。
何だか大事になっちゃってしまった感じだけど、盗撮事件が連続して発生し、私に関しては校外で起きてしまったんだ。犯人を追求することと、今後も同様の被害が出ないようにすることを考えれば、警察に被害届を提出する流れになるのは自然か。
「被害届ですか」
『ああ。朝倉が盗撮されただけで終われば、盗撮したのは掛布だと分かっているし、ここまでのことはしないんだが……学校の外で今度は折笠が盗撮された。朝倉の時点から集団的な犯行であり、それがダブル・ブレッドだと考えて間違いないだろう。1年半前とは違ってOGにもいるかもしれないと思ってね』
「その可能性はありそうですね」
1年半前からダブル・ブレッドの名前が出始めた。当時、2年生と3年生の生徒なら今はもう卒業して大学生だったり、専門学生だったり、就職して働いていたりする。もし、そんな人達が未だにダブル・ブレッドのメンバーだったら、学校だけでは対応できないと考えたのかも。
そういえば、梢さんも白布女学院のOGだったよね。それで、今は大学2年生。ダブル・ブレッドの話が出た当時は在学中の3年生か。
「ふふっ、琴実ちゃん。私はダブル・ブレッドのメンバーじゃないから安心してね」
「それは分かっていますよ」
「私の友達や知り合いにダブル・ブレッドのメンバーはいないなぁ。まあ、私が知らないだけかもしれないけど」
梢さんの言うように、彼女の友人や知り合いにダブル・ブレッドのメンバーがいるかもしれない。でも、ここで梢さんがそんな人達にダブル・ブレッドのことを訊いたら変に刺激してしまう可能性もある。
『その声は……朝倉のお姉さんか。君に協力してもらって、OGの中にダブル・ブレッドのメンバーがいるかどうか確かめるのも一つの手だが、一昨日、風紀委員が掛布のことを捕まえたし、彼女はブランとも連絡が取れなくなったと言っていた。このことがダブル・ブレッド全体に伝わっているだろうから、仮にいたとしても違うと嘘をつかれるだけだろう』
「そうですね」
『掛布にもOGにメンバーがいるどうか訊いてみたけど、入学して間もないからかその点は分からないらしい。まあ、そういうことは後で警察が必要と判断すればやってくれると思うから』
被害届が受理されて、その点について調査をすべきだと判断されれば、警察という捜査のプロがしてくれるか。
『被害届を提出するためにも、朝倉と折笠には再度話を聞かせてほしい。朝倉の方は盗撮したのは掛布という生徒であると分かっているし、折笠の方は折笠自身が盗撮されたと言っているだけだ。受理されてもまともに捜査してくれるかどうかは分からない』
「そんな……琴実ちゃんは嘘を付いていません!」
珍しく、沙耶先輩が声を荒げる。
沙耶先輩の方は金曜日に掛布さんが盗撮したと分かったし、私の方は……誰かにレンズを向けられたところを見つけ、私に気付かれたことを知って逃げたんだ。だから、受理されても、まともに捜査してくれるかどうか分からないと東雲先生は言ったんだと思う。
『私や恵も折笠を信じているし、学校としても彼女の言うことを信じた上で、被害届を提出しようという方針になったんだ。まずは情報を整理するためにも、この後、朝倉の家で話を聞かせてほしいんだ』
「そうですか。私はかまいませんが、琴実ちゃんは?」
「私も大丈夫ですよ」
『じゃあ、これから恵と一緒に車で朝倉の家に向かう。それで色々と話を聞いた後に、折笠を家まで送るよ。そうしたら、折笠の御両親にも今回のことについて話すことにしよう。折笠はもうこのことを御両親には?』
「……ごめんなさい。まだ話していませんでした」
あのときは眠かったからまだ仕方ないとして……朝ご飯の後にパンツコレクションなんてするべきじゃなかったんだ。すぐに連絡しないと。
「琴実ちゃんの御両親には私から伝えましたよ」
「えっ? そうだったんですか? 沙耶先輩……」
「うん。あれ、言わなかったっけ?」
「聞いてませんよ。先生達や千晴先輩、ひより先輩に伝えたとは言っていましたが」
「……そうだったかもしれない。お母さんに電話でね。私が側についているので安心してくださいって言ったら私に任せるって言われたよ」
「それならそうと言ってくださいよ……」
まあ、お母さんに連絡してくれたことは有り難いけど。
『つまり、朝倉の方から、折笠の御両親には伝えてあるんだな』
「ええ。概要だけですけど。今日は私が一緒にいるつもりですし、先生方にも連絡した旨を伝えたら、今日は私に任せると」
『なるほど。分かった。じゃあ、今から恵と一緒にそっちへ向かうから』
そう言って、東雲先生の方から通話を切った。
「警察沙汰になるのね、沙耶」
「……そうだね。京華には生徒会長として協力してもらうかもしれない。そのときはよろしく頼むよ」
「分かってる」
「ありがとう」
掛布さん以外の生徒が、今回の事件に関わっているかもしれないから、会長さんにも協力してもらう場面があるかも。
この2件が繋がっていて、今日のこともダブル・ブレッドが企てたことだとしたら、学校側が動き出すことくらいは想定していると思う。警察が動き出しても、リーダーであるブランを特定するのは難しそうだ。
「そういえば、琴実ちゃん」
「何でしょう?」
「どうしてさっき……パンツコレクションのことを話そうとしたら、私の口を塞いだりしたの?」
「恥ずかしいからに決まっているじゃないですか!」
「ははっ、そうか。そうだ、今日の恵先生のパンツはどんなパンツかなぁ……」
何を想像……ううん、妄想しているのか沙耶先輩はニヤニヤしている。あぁ、これから来るから秋川先生のパンツを堪能しようとしているんだ。
「今日は桃色って感じがするな! あわよくば、東雲先生のパンツも……」
「まったく、こんな状況なのに。少しは真面目になってくださいよ」
「琴実ちゃんの言うことも分かるけれど、常に気を張っていたら、気疲れしちゃっていざというときに本領発揮できなくなるからね。時々、パンツのことを考えて気持ちをリラックスしないと」
「そ、そうなんですか」
仮に警察が捜査することになったら、真っ先に一連の事件の首謀者として疑われそうだな、沙耶先輩は。でも、さすがに警察相手にパンツのことを熱く語ることはない……とは限らないな。
東雲先生と秋川先生が来るのを、私達は静かに待つのであった。
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