第57話『桃尻に桃布を』

 東雲先生からの電話があってからおよそ30分。

 車でやってきた東雲先生と秋川先生がマンションの前に到着したので、梢さんが迎えに行くことになった。


「梢ちゃんがマンションの外に出たところで、ダブル・ブレッドのメンバーが襲ってこなければいいけど」

「……東雲先生がいるから大丈夫じゃない?」

「そうね。東雲先生なら、5人くらいは一度に倒せそうだもんね」


 東雲先生、確かにさっぱりしていて、運動とかもできそうだけど……5人を一度に倒せそうに思われるなんて。そう思わせる出来事が今までにあったのかな。ただ、東雲先生がいれば安心するのは確かだ。


「琴実ちゃんは運がいいね。東雲先生が担任だなんて」

「そうですね。さっぱりしていますし。でも、色々と気に掛けてくれますし」


 入学して半月ほどしか経っていないけれど、クラスの中で東雲先生に最もお世話になっているのは私なんじゃないかな。

 10分も経たないうちに、梢さんが東雲先生と秋川先生を連れて戻ってきた。


「ただいま~」

「お邪魔します。へえ……学生の姉妹2人が住んでいるのに私達の家よりも広いな」

「真衣子さん、そういうことは心の中で呟いてください。でも、綺麗で広いお家ですよね。将来はこういうところに一緒に住みたいですね。あっ、お邪魔します!」


 普段と変わりない様子の東雲先生と秋川先生の姿を見ると安心するなぁ。


「東雲先生、秋川先生、こんにちは」

「ああ。朝倉と折笠、その後は大丈夫か?」

「ええ、こちらは大丈夫ですよ。それよりも、姉が迎えに行ったときに何かあったりしませんでしたか?」

「いや、特にはなかったな。まあ、マンションの前に盗撮犯がいるかもしれないと思うと、どいつもこいつもそういう人間に見えて仕方ないよ。ほら、スマホで簡単に撮影できるし、歩きながらスマホを弄る奴も多いから」


 歩きながらスマートフォンを弄るのは危険だから本当はいけないけど。ただ、スマートフォンで写真撮影できる以上、路上でスマートフォンを持っている人が全員、盗撮しているかもしれないと思っちゃうよね。


「まあ、むしろそういう奴がいた方がさっさと捕まえて、ここでみっちりと話を聞けて好都合なんだけどな」

「まるで刑事さんみたいですね、東雲先生……」


 ただ、東雲先生ならやりかねない。

 梢さんの提案で、6人でお昼ご飯を食べることに。ミートソースのパスタなら6人分作れるとのこと。

 梢さんと会長さんがお昼ご飯を作っている間、私と沙耶先輩は東雲先生と秋川先生に今朝のことについて話した。


「なるほど。じゃあ、正確にはそこのバルコニーで、外の新鮮な空気を吸っていた折笠に対して、デジカメのレンズを向けているのが見えたのか。折笠を盗撮したと思われる人物はベージュのトレンチコートを着ていて、帽子も被っておりサングラスをしていた」

「はい。そうです」

「そして、盗撮されているかもしれないと思った折笠が注意をしたら、その人物はすぐに逃げていったのか」

「ええ」


 だからこそ、私のことを盗撮したと思っている。まあ、他の人にレンズを向けていて、私が声を挙げたから逃げた可能性もあるけど。


「なるほど。限りなく怪しいな」

「そうですね。これで、沙耶ちゃんのときのように、盗撮された折笠さんの写真があれば、被害届も確実に受理されそうですが……」

「まあな。ただ、風紀委員として一緒に活動している朝倉が盗撮され、それからも日も浅い。朝倉を盗撮したのはダブル・ブレッドのメンバーである掛布で、ブランというリーダーから指示されたこと。それらの情報を伝えれば受理されるかもしれない」

「捜査とまでいかなくても、警備とかはしてもらえるようにお願いしたいですよね」

「ああ。現状はその方向で警察に伝えることにしよう」

「分かりました」


 警備をしてくれるだけでも私にとってはとても心強い。それに、警察官が学校にいればダブル・ブレッドに対する抑止力になるかもしれないし。


「じゃあ、ひとまずこの話も終わりにしよう。ミートソースのいい匂いもしてきたし。お腹空いたなぁ」

「ふふっ」

「……その前に。東雲先生、恵先生……1つ、お願いがあるのですが」

「どうした、朝倉。真剣な表情をして」


 沙耶先輩、さっきよりも真剣な表情だけど……こういうときって意外と、


「お昼ご飯の前に、前菜として先生方が穿いているパンツを堪能させてくれませんか」


 やっぱり。そんなことだろうと思ったよ。私達を盗撮した犯人よりも、先生達のパンツを堪能したがる沙耶先輩をまずはどうにかした方がいいと思う。


「失礼ですよ、沙耶先輩」

「だって、大人の女性のパンツって私達とは違うかもしれないし、それに恵先生のパンツが桃色だっていう私の予想を――」

「えっ、なんで分かっちゃうの?」


 そう言う秋川先生の顔は真っ赤になっていく。沙耶先輩、パンツのことになると超人的な能力を発揮するな。


「さすがは朝倉だ。今、恵が穿いている桃色のパンツは私が選んだんだ。恵の桃尻には桃色の下着で包むのがいいと思って」

「それは詩的で素敵なお考えですね。さすがは国語教師です。まあ……私の予想は完全な勘ですけど」


 それでも当てるのは凄い。それを褒めることは絶対にしないけど。


「もう、真衣子さんったら。その……生徒にお尻のことを言わないでください。恥ずかしいですって……」

「綺麗で可愛らしいから、私は大好きなんだよ。恵の尻が……」

「真衣子さん……」


 あぁ、これは完全に2人の世界ができちゃっているよ。きっかけがお尻だけど。2人とも、互いの顔を見つめ合っているし。


「こほんっ!」


 2人を我に返ってもらうために、私は強く咳払いをする。


「……おっと、話が脱線したな。恵の方は彼女に任せるが、私はダメだ。ズボンを脱ぐなんて面倒だからな」


 パンツを見せない理由がしょぼすぎる。


「……それなら、私が脱がせることも履かせることもしましょうか?」

「あいにく、そういったことは恵にしかしてもらわないと決めている。……今までそんなことは一度もしてもらったことはないが」


 逆にしてもらっていたら、それってどんな状況なのか気になるよ。


「やっぱり、東雲先生のガードは堅かったか」

「どうすれば私のパンツを堪能できるのかよく考えるんだな」

「……卒業するまでには一度堪能したいですね」


 ということは、入学してから今まで、沙耶先輩は東雲先生のパンツを堪能することはできていないんだ。


「私はスカートだし、堪能してもいいから落ち込まないで」

「それではテーブルの下から失礼しますっ!」

「……あっ、沙耶ちゃんの温かな吐息が足元にかかってくすぐったい……」

「おおっ、これは見事な……ピンク! お似合いですよ!」


 素晴らしい景色だ! と沙耶先輩の声がテーブルの下から聞こえてくる。

 何だか、人によっては盗撮よりも沙耶先輩の行いの方が酷いって考える人もいそう。変態罪っていう罪はないけど、わいせつ罪に触れちゃうかも。


「まったく、沙耶ったら。秋川先生のパンツでお腹がいっぱいになって、お昼ご飯を残しちゃダメだからね」

「大丈夫だよ、京華! パンツは別腹だから!」

「……何もツッコミを入れる気にならないわ」


 やれやれ、と会長さんは呆れている様子だけど、すぐに笑顔に変わった。こういったことはこれまでにも何度もあったと見た。


「お昼ご飯もできたから、そろそろパンツを堪能するのを止めなさい。折笠さん、沙耶を先生のパンツから引き離して」

「は、はい!」

「秋川先生ごめんなさい、沙耶がまた……」

「いいのよ。慣れてきたから……」

「……慣れさせちゃってごめんなさい」


 会長さんと秋川先生がそんな話をしている間に、私は沙耶先輩のことを秋川先生から引き離す。


「ほら、沙耶先輩! 終わりですよ!」

「……もうちょっと堪能したかったのにな」


 沙耶先輩は私に振り返ると、ちょっと不満そうな表情をしてそう呟いた。何だろう、パンツを堪能するのは変態行為なのに、もうちょっと堪能したいと思われる秋川先生のことが羨ましく思える。

 その後、私達は梢さんと会長さんが作ったミートソースパスタを食べるのであった。

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