第55話『パンツコレクション』

 東雲先生と秋川先生から、沙耶先輩の家にいるように指示を受けた。職員会議が終わり次第連絡をくれることになっているけど。


「……あっ、私……まだ食事の途中でしたね」

「そうだね。琴実ちゃんのまずすべきことは、残りの朝食を完食することだね」

「はい。では、改めて……いただきます」


 野菜スープを一口飲むけど、すっかりと冷めていた。それでも、変わらず美味しいのでこのまま全部食べちゃおう。


「それにしても、ここで何もしないっていうのも嫌な気分になっていくなぁ」

「でも、安全のことを考えたら、大人しくしていることが一番だと想うよ、沙耶」

「まあね……」


 盗撮された私と沙耶先輩は安全第一。何かするなら、その役目は私達以外の方がいいと思う。


「こうなったら、琴実ちゃんのパンツコレクションをするしかないかなぁ」

「ぶっ! ……けほっ、けほっ」


 何を言い出すかと思ったら、


「私の……パンツコレクションですって?」

「うん。私が持っているパンツの中で、琴実ちゃんにはどんなパンツが似合うのか、実際に穿いてみて、私と京華で判定するの」


 沙耶先輩、こんな状況なのにパンツの話題になると嬉しそうな笑顔を浮かべるんだから。可愛いけど。

 ていうか、パンツコレクションって言われたから、野菜スープを吹き出しちゃったよ。汚れてしまったテーブルを布巾で拭いた。


「大丈夫? 琴実ちゃん」

「咳き込んでしまって、ちょっとだけ喉が痛いですよ」

「ははっ、ごめんね」

「それにしても、パンツコレクションって……あぁ、もしかして何とかガールズコレクションみたいなヤツですか。よくモデルさんが歩いている映像は見ますね」


 パンツコレクションなんて言うから、私の穿いているパンツを集めるんだと思ったけど、それなら私の家でやった方がいいよね。やらせないけれど。


「そうそう。そういうやつ。琴実ちゃんには立ってもらうだけでいいよ」

「パンツ姿で歩きたくないですよ……」

「あっ、でも、歩くことで新たな魅力が発見できるかもしれないな……」

「絶対に歩きません。というか、パンツコレクションも絶対にやりません!」


 まったく、こんな状況なのに何を考えているんだか。パンツコレクションなんてことやるよりも、今後のことを考えた方がいいと思うんだけどな。


「えぇ、パンツコレクションやろうよ。せっかくの日曜日なんだよ。ダブル・ブレッドのせいで外に行けなくなって、実質自宅謹慎みたいな感じになっちゃったし」

「子供みたいに甘えてもだめですよ」


 沙耶先輩や私のことを盗撮する人がいるから外に出られない。だから、家の中で何かしたい気持ちは分かるけど、パンツコレクション以外にもできることはたくさんある気がする。

 沙耶先輩に付き合っていると、パンツコレクションをせざるを得ない状況になりそうな気がするので、朝食を食べることに集中する。


「……パンツコレクションで琴実ちゃんがパンツを穿いてくれたら、その脱ぎたてのパンツを堪能できるから一石二鳥だったのに……」

「それも目的の一つだったのね、沙耶」

「もちろん!」


 胸を張って言わないでほしいなぁ。もう、沙耶先輩のせいで朝食を食べることに集中できないよ。


「外を出られなくても、私のパンツを堪能できなくても……楽しく過ごせる方法はたくさんあるじゃないですか。昨日みたいにトランプをするとか。テレビだってありますから何か観るとか」

「まあ、確かにそれも楽しいけど、パンツを堪能することと比べたら雲泥の差だよね」

「本当に、沙耶先輩ってパンツが大好きなんですね」

「もちろん!」


 だから、胸を張って言わないでほしいなぁ。虚しくなるから。

 パンツコレクションなんて思いつかなければ、トランプをしたり、テレビを観たりすることで時間潰しができそうだけど、思いついてしまった以上はどうしてもそれがやりたいようで。


「琴実ちゃん、考えてみてごらん。今日、このときを逃したら、二度とパンツコレクションができなくなるかもしれないんだよ?」


 あっ、説得をし始めた。別にパンツコレクションはいつでもできると思うけど。


「京華からもお願い」

「えっ? 私からも?」

「京華なら頼りになるって信じているんだ」

「さ、沙耶……」


 会長さん、沙耶先輩に両肩を掴まれて真剣な表情で見つめられているから、顔が赤くなっているよ。


「せ、先輩のお願いを聞いてあげてもいいんじゃないかな」

「ほら、白布女学院の生徒会長の京華もそう言っているんだよ」

「……ここで上下関係を使うんですか」


 正直、みっともない。

 会長さん、さっきの沙耶先輩の真剣な眼差しに心を動かされていそうで、今から説得するのは難しそう。

 先輩後輩の上下関係を使うんだったら、私にだって頼りになる人が近くにいる。


「梢さん。2人に何とか言って――」

「琴実ちゃんのパンツ姿、私も見たいなぁ」

「ううっ……」


 この家にいる人達、ある意味、私達を盗撮してきた人よりもタチが悪いんじゃ? 東雲先生でも秋川先生でもいいから、早く電話を掛けてきてくれないかな。


「でも、沙耶のわがままばっかり聞いて言っていたら、それは折笠さんにも失礼じゃない?」

「それもそうだね。琴実ちゃん、遠慮なくわがまま言ってくれていいよ」

「……じゃあ、パンツコレクションはなしということで」

「そ、そう来たか……!」


 沙耶先輩、ダメージを受けているな。ダブル・ブレッドの方もこれだけ単純で、簡単に倒せそうならいいけれど。


「まあ、折笠さんならそう言うと思っていたわ」

「会長さんも目を覚ましてくださいね」

「そうね。まあ、碌に外にも出られずに先生からの連絡を待たなきゃいけないなら、楽しいことをしたいという沙耶の気持ちも分かるの」

「なるほど。それに……日曜日ですもんね」


 楽しいことをすれば時間も早く過ぎていくし。


「パンツのことで限定をするなら、折笠さんよりも沙耶のパンツ姿の方が興味あるけどね」

「京華は私のパンツ姿なんて昔から何度も見てるじゃん」

「私に見せていないパンツだってあるんじゃないの?」

「まあ、それはあるけど……」


 確かに、沙耶先輩のパンツ姿は興味あるかも。もしかして、先輩も似たような気持ちを抱いて、パンツコレクションをしようなんて言ったのかな。


「沙耶ちゃんのパンツ姿も見たい!」

「お、お姉ちゃんまで……」


 自分までパンツを穿く状況になりそうだからなのか、沙耶先輩はちょっと恥ずかしそうな表情を見せ始める。沙耶先輩、私の気持ちを分かってくれたかな。


「じゃあ、沙耶と折笠さん2人でパンツコレクションすることにしましょうか」

「それいいね、京華ちゃん!」


 あれ、何だか流れでパンツコレクションをやることになっちゃったけど。結局、一番得しているのは会長さんと梢さんなんじゃないかな。


「琴実ちゃんの相棒だから、ここは私もパンツ姿を見せますか」

「こういうのって、結局は言い出しっぺがやるハメになるんですよ。それで、私が巻き込まれちゃったんですよね」

「琴実ちゃん、口元は笑っているのに目つきが恐いよ」

「誰のせいですかねぇ?」

「今の折笠さんを盗撮犯に見せたら、素直に罪を認めてくれそうね」


 本当にこの怒り……私達を盗撮した人にぶつけたいくらいだよ。それか、後で沙耶先輩に何かしらの形で仕返ししようかな。

 朝食を食べ終わった後、私と沙耶先輩のパンツコレクションが行なわれ、結果、大盛況になったのであった。

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