第50話『今昔バス-後編-』

 会長さんの体を洗い終わった後、沙耶先輩が髪と体を洗い、そして最後に私が髪と体を洗うことに。


「折笠さん、髪を洗いたいな」

「いいんですか?」

「うん」

「じゃあ、お願いします」


 昨日は沙耶先輩に洗ってもらったけど、今日は会長さんか。何だかこうして何かをしてもらっていると、2人の妹になった気分。

 私は会長さんに髪を洗ってもらうことに。


「折笠さん、こんな感じで洗っていくけれどどうかな」

「気持ちいいですよ」


 沙耶先輩のように優しく洗ってくれるから、気持ち良くて思わず寝ちゃいそう。


「ふふっ、良かった。それにしても、折笠さんの髪って綺麗だよね」

「京華もそう思った?」

「うん。何だか、折笠さんみたいな髪だったら、色々と言われることはなかったのかなって」


 アルバムを見ているときに言っていたっけ。金髪のことでクラスメイトに虐められたって。そんなところを沙耶先輩が助けてくれたことも。


「どうだっただろうね。琴実ちゃんにも言ったけど、髪っていうのはその人に合うように生えるって聞いたことがあるよ。実際に京華の金髪は似合っているし……髪型ならまだしも、色は金色以外考えられないなぁ」


 私も髪型はともかく、髪の色が金色以外の会長さんは想像できないかなぁ。普段はおさげの髪型だから黒髪は似合うかもしれないけど、きっと金髪が一番似合っているって思うんだろう。


「ふふっ、昔から言っていること変わらないわね」

「そうだっけ?」

「あのときだって、私が髪を黒く染めようとしていたことを話したら、沙耶ったら凄く怒っちゃってさ。金髪が凄く似合っているし、可愛いから染める必要なんてないって言ってくれたんだよ?」

「あったね。生まれながらに持った金髪を口実に虐めるなんて意味分からなかったよ。私が一発言って、いじめがなくなったから良かったけど」

「そうね。あのときはありがとね」


 こういう沙耶先輩の一面を知っているから、風紀委員になっても大丈夫だと思ったわけだ。今の話を聞いて先輩が風紀委員になって良かったなと初めて思えた。


「折笠さん、泡を落とすから目を瞑ってね」

「はい」


 目を瞑り、会長さんにシャワーでシャンプーの泡を落としてもらう。


「このくらいでいいかな」


 会長さんはタオルで私の髪を優しく拭いてくれる。


「はい、終わり!」

「ありがとうございます」

「次は体だけど……どうする? 前も洗っちゃう? 優しくするけれど」

「さすがに全部洗ってもらうのはアレなので、背中を流してもらえますか?」

「分かったわ」


 沙耶先輩に比べれば全然危険じゃないけど、小さい子じゃないんだから髪も体も全て会長さんに洗ってもらうのはさすがに甘えすぎだろう。

 ボディータオルで体を洗い始める。でも、何だか集中できないな。


「どうしたの? 琴実ちゃん、視線がちらついているけど」

「そうよ。私達は何もしないから気にしないでいいのよ」

「じっと見られると恥ずかしいんですよ!」


 沙耶先輩は湯船に浸かりながら私のことを横から見ているし、会長さんは鏡越しで私の前面をじっと見ている。そのことに段々と緊張してしまい、顔も赤くなってしまう。


「折笠さんの背中ってとても綺麗よね」

「そうだね」

「肌も綺麗だし、スベスベだから……キスしたくならない?」

「私も昨日そう思った。してないけど」

「ねえ、2人でキスしちゃおっか? 折笠さん、ババ抜きでたくさん負けたから罰ゲームで。あのときは可哀想だから免除になった罰ゲームを復活してさ。梢ちゃんも私の体にキスしたことあったじゃない」

「あったあった。今は未成年だからいいけれど、20歳になってお酒を呑み始めたらお姉ちゃん怖そうだよね……」

「話は戻るけど、キスする? 今だったらすぐに羽交い締めにできるし」

「やってみる?」

「やらせませんよ! 全部聞こえてますって! 本当にやるんだったら、2人の両目に泡をぶっかけますよ」


 会長さんならキスをしたいと思っても止めてくれると思ったのに。小さな声で話でもここはお風呂だから声は響くし、そもそも2人のすぐ近くに私がいるんだから全部聞こえているって。


「ごめんごめん。折笠さんの背中にキスしたいと思ったのは本当だけど、実際にやったりはしないから」

「本当ですか? 羽交い締めにできるって聞いた瞬間、背中に悪寒が走りましたよ」

「そうだったんだ。本当にごめんね。お詫びに背中は丁寧に流すから」

「……お願いします」


 というか、やらないなら言わないでほしい。

 会長さんにボディータオルを渡して、背中を流してもらう。優しくすると言ったからか、髪を洗ってもらったとき以上に優しいような。


「どうかしら?」

「気持ちいいですよ」

「沙耶とどっちが上手い?」

「どちらも上手ですから、比べる必要はないんじゃないですか?」


 2人とも気持ちいいし。


「……折笠さんの言う通りかもね」


 鏡越しで会長さんのことを見ると、会長さんは私と目が合って嬉しそうに笑った。


「そろそろ泡を流そうか」

「お願いします」


 シャワーでボディーソープの泡を落としてもらう。その時の会長さんの手つきもとても優しく思える。

 私も体を洗い終わったので、3人一緒に湯船に浸かることに。果たして、この湯船に入ることができるのか。


「何だか、ようやく本題に突入した感じだけど。本当に入れるかな」

「さっきも言ったでしょ。何事もチャレンジだって。じゃあ、私から入るね」


 会長さんは沙耶先輩と並ぶようにして湯船の中に。


「京華と2人でちょうどいい感じがするよ。琴実ちゃん、入れるかな」

「大丈夫よ。お互いにちょっと端に寄れば」


 会長さんが言うように、2人は湯船に端に寄る。それでも2人が肩まで沈んでいるので両脚を入れることはできそうだけど、私も肩まで沈むことができるかどうかは微妙な感じだ。


「琴実ちゃん、入ってみようか」

「はい」


 私は湯船の中に入ってみる。沙耶先輩と会長さんの間に立つことはできたけど、ここから肩まで沈むことができるかどうか。


「……あっ」


 肩まで浸かろうとすると、お尻が2人の足や腕に触れてしまい、これだと浸かることができない。


「やっぱり、高校生3人で入るのは無理みたいですね」

「じゃあ、私が湯船から出るよ。京華が髪を洗い始めてからずっと入っているから」

「ちょっと待って。3人で入れる方法を考えてみる」


 どうやら、会長さんはどうしても湯船に3人で入りたいみたい。昔は梢さんと3人で入っていたみたいだし、その時のような時間を過ごしたいのかな。


「沙耶、私と一緒に両側から折笠さんのことを抱きしめてみようか」

「どうしてそうなるんだ……」

「何だかできそうな気がしたから」

「京華がこんなことを言っているけど、琴実ちゃんはどうかな?」

「とりあえずチャレンジしてみましょうか」


 それだと3人で湯船に浸かるというイメージから遠ざかりそうだけど。

 会長さんの指示で、湯船の両端に沙耶先輩と会長さんが立ち、そんな中で私は湯船の真ん中で肩まで浸かる。

 沙耶先輩と会長さんは膝立ちの状態となり、両側から私のことを抱きしめてきた。ちょうど顔の辺りに2人の柔らかい胸の感触が。


「……何なの、これ。私と京華、お腹のあたりまでしか浸かれていないし」

「いいじゃない、これはこれで」


 女の子に両側から抱きしめられながら入ることなんて、もう二度とないんじゃないかな。旅先の大浴場とかならともかく、誰かの家のお風呂では。


「琴実ちゃん、どうかな」

「結構温かいです。あと、ボディーソープの甘い匂いに包まれている気がします」

「私は意外と好きよ、この距離感」

「距離感というか、琴実ちゃんとべったりとくっついているからね」

「でも、私も今のこの感じ、割と好きかもです。何だか、沙耶先輩と会長さんの子供になった気分で」

「えっ! 沙耶との、子供……」


 そう言うと、会長さんは顔を赤くして恥ずかしそうにしている。今の私の言葉から何を想像しているんだか。


「折笠さん、ちなみにどっちがお母さんなの?」

「会長さんに決まってます」

「そっか。私がお母さんなんだ……」


 よしよし、と会長さんは嬉しそうな表情を浮かべながら、私の頭を優しく撫でてくれる。さっそく私のお母さんになった気分でいるのか。


「京華がお母さんなのは納得だけど、私は? 私もお母さん?」

「沙耶先輩はお父さんに決まっているじゃないですか。スケベ親父です」

「……そう言われそうだって思っていたよ」


 沙耶先輩は声に出して笑う。普段からパンツのことになると変態的な行動をするから、さすがにスケベと言われる自覚はあったみたい。


「沙耶がお父さんで、私がお母さん……ふふっ、それも悪くないかもね。お父さん、今夜……ひさしぶりに作ってみる?」

「お父さんは子供を作るよりも、娘のパンツを堪能したいよ」

「あらあら、今日も変態さんね、あなた」


 沙耶先輩も会長さんもノリがいいなぁ。私が何となく思ったことを言っただけなのに。ただ、沙耶先輩の奥さんという例えにかなり喜んでいる会長さんの様子が気になってしまうけど。

 その後、沙耶先輩と会長さんに抱かれながら湯船に浸かるという不思議な時間が続いたのであった。

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