第49話『今昔バス-前編-』

 沙耶先輩と梢さんが作ってくれたチキンカレーはとても美味しかった。

 ただ、先輩と梢さんがたくさん作っていたので全部は食べられなかった。なので、明日の朝食でも食べることになった。

 沙耶先輩が私に「にゃん」と言い続けさせたいのか、なかなか夕食を終わらせてくれず、食べ終わったのは午後8時半過ぎだった。


「ごちそうさまでした。ふぅ、ようやく普通に喋っていいんですね」

「お疲れ様、折笠さん」


 夕ご飯までババ抜きをして遊んだけど、その全ての試合で負けてしまったので、様々な罰ゲームをやっている。先輩達の分のご飯をよそうとか、梢さんのマッサージをするとか。

 この後も会長さんの背中を流すなどの罰ゲームが待っている。会長さんのアドバイスもあって、前よりは強くなったと思うけど、3人が強すぎる。一度も最下位を抜け出せなかった。


「京華ちゃん、琴実ちゃん。お風呂はもう入れるから、先に入っちゃっていいよ。私、見たい番組があるから、11時くらいまでは入らないと思う」


 土曜日の夜だと、人気のドラマとかバラエティ番組もたくさんやっているもんね。昨日の放課後から沙耶先輩とずっと一緒にいるから、随分と時間が経っているように思えるけど、まだ土曜日なんだよね。不思議な気分。


「分かったよ、梢ちゃん。じゃあ、琴実ちゃん。一緒に入ろっか」

「そうですね。お背中を流さなければいけませんし」

「何だかごめんね。いい罰ゲームが思いつかなくて」

「そんな、気にしないでください」


 いい罰ゲームなんて思いつかれたらそれこそ怖いし。それに、背中を流すのは昨日も沙耶先輩にしたので、私にとっては罰ゲームにならない。


「お皿洗いが終わったら、沙耶も一緒に入ろうよ」

「いいけれど、高校生3人が入れる広さではないような……」


 そんなことを言いながら、沙耶先輩は夕食後の後片付けをしている。元々は私がババ抜きで負けた罰ゲームの一つだったけど、あまりにも罰ゲームばかりで可哀想という理由で相棒の沙耶先輩が皿洗いをすることになった。


「折笠さん、沙耶も一緒でいい?」

「はい、昨日も一緒に入りましたから」

「……そうなんだ」


 笑顔で会長さんはそう言うけど、その声はどこか元気がなかった。


「洗い終わったよ」

「お疲れ様、沙耶」

「ありがとうございます。私の代わりにやっていただいて」

「普段からやっているから別に気にしてないよ」


 沙耶先輩、料理もするし、ちゃんと後片付けもするし。イメージと違って結構家事ができるんだなぁ。


「それにしても、3人で入れるのかなぁ。きつい気がするけど」

「昔は沙耶と梢ちゃんとおばさんと私の4人で入れたじゃない」

「あれは小さい頃の話じゃないか。しかも、入ったのは実家のお風呂で、ここのお風呂よりも広いし。それに、母さんも細身だし……」


 今の姿は知らないけど、沙耶先輩が小さい頃のお母様の写真がアルバムに貼ってあったな。確かにスラリとした体型をしていた。


「何事もチャレンジしてみるのが大事だと思うよ」

「今の京華の言葉、風紀委員になるよう私に誘ってきたときにも言ってきたよね」

「そうだったっけ?」

「……まあいいや。3人で入れるかもしれないし、前に姉さんと私で入ったことがあるから、誰かが髪と体を洗っている間は2人が湯船に浸かればいいし」

「そうそう。だから、3人で一緒に入ろうよ」


 さすがは生徒会長というべきか、幼なじみというべきか。会長さん、上手く沙耶先輩を説得したよ。


「お姉ちゃん、京華や琴実ちゃんと3人でお風呂に入ってくるから」

「うん、ごゆっくり~」


 笑顔で手を振ると、梢さんはソファーに座ってテレビを見始めた。さすがに4人で入ろう、という流れにはならなかったか。

 私達は下着や寝間着など必要な物をもって、浴室横にある脱衣所に行く。


「よいしょっと」


 さすがに自分の家で私と会長さんしかいないからか、沙耶先輩は何の躊躇いもなく服を脱いでいく。


「……成長したわね」


 沙耶先輩がブラを外したところで、会長さんがそんなことを言う。


「京華ほどじゃないよ。それに、胸の大きさなんて昔からあまり気にしてなかったと思うけど」

「そうだったっけ? 小学校の高学年くらいに、私と梢さんは胸が大きいのに、どうして自分は大きくならないんだろうって言っていたけど」

「そうだったんですか?」

「うん。それも切実な表情をして。アルバムで見たと思うけど、沙耶のお母さんもスタイルがいいから、ぺったんこの自分の胸を見て悩んでいたわ。中学に入学してからは急に成長したから、それ以降は全然言われなくなったよ」


 パンツのことばかり言っているから、胸なんて特に気にしていないと思ってた。もしかしたら、それは今のように大きくなってからかもしれないけど。


「やっぱり、折笠さんってスタイルがいいのね」

「会長さんや先輩に比べたら全然ですよ。……ひゃあっ」


 会長さんは私の胸につんと指を押してきた。どうして、私の周りにいる女の子は私の胸をつんとしてくる人ばかりなんだろう。


「柔らかさも感度も抜群なのね、ふふっ。……きゃっ」

「お返しです」


 会長さんの胸を指でつんと押してみる。沙耶先輩よりも柔らかい。


「まったく、京華と琴実ちゃんで胸の確かめ合いかい?」

「まあね。じゃあ、沙耶も」

「……もう」


 会長さん、沙耶先輩の胸も指でつんって押したよ。


「じゃあ、そろそろ入ろうか」


 私達は3人で浴室へと入る。

 思っていたよりは広いけど、さっき沙耶先輩が言ったように、3人で入るにはきつい気がする。目測だけど、湯船は私の家と同じくらいの大きさだと思う。昨日、先輩と2人で入ってちょうどいい感じだったから、3人で一緒に入ったらかなり狭く感じてしまうと思う。


「じゃあ、まずは私が洗っていい? 琴実ちゃんの罰ゲームもあるし」

「うん、いいよ。琴実ちゃんは?」

「それでかまいませんよ」

「ありがとう。最初に髪を洗っちゃうから、その後に私の背中を流してくれるかしら、折笠さん」

「分かりました」


 私は沙耶先輩と一緒に湯船に浸かる。昨日も一緒にお風呂に入ったから、今日も先輩と一緒に入るだろうとは思っていた。ただ、まさか、私達が湯船に浸かっている横で会長さんが髪を洗っているなんて。


「水泳の授業とかで水着に着替えるから、そのときに京華の体を見たことがあるけど……こうしてじっと見るのは久しぶりだ」

「……じっと見られると照れちゃうわね」

「さっきは人の胸を見て成長したとか言っていたくせに」

「だって、あれは……素直にそう思ったから」

「そっか。じゃあ、私も素直に思ったことを言うよ。……より綺麗になったね」


 沙耶先輩は爽やかな笑みで会長さんのことをじっと見ながらそう言った。綺麗ではなく、より綺麗と言ったところに、沙耶先輩が会長さんのことをよく知っているということを伺わせる。

 沙耶先輩の言うとおり、会長さんの体はとても綺麗だ。肌は白く透き通っているし、スタイルも抜群。男女問わず憧れられそう。


「じっと見ながらそう言われると、かなり照れちゃうな」


 言葉通り、会長さんは頬を紅潮させながら笑顔を見せている。何だか、2人の間にいい雰囲気ができていて羨ましいな。ただ、会長さんは恥ずかしいからか、さっきよりも強く両手で髪を洗う。


「えっと、シャワーは……」

「私が泡を落としますよ」

「ありがとう、折笠さん。じゃあ、お願いしようかな」

「はい」


 私は湯船から出て、シャワーで会長さんの髪に付いたシャンプーの泡を流していく。会長さんの髪、本当に綺麗な金色だ。


「今日は滑らなかったね」

「うん? 昨日は何かあったの?」

「まあ、ちょっとね。いい思い出だよね」

「……恥ずかしいので私はあまり思い出したくないです」

「ふふっ、そういうことってあるわよね」


 それからは会長さんは沙耶先輩の言う『思い出』について詳しく訊くことはなかった。優しくていい人だ。こういう人が生徒会長で良かったなと思う。


「このくらいでいいでしょうか」

「うん、ありがとう」


 タオルで会長さんの髪を拭き、その流れでボディータオルを使って会長さんの背中を流すことに。


「気持ちいいですか?」

「うん。でも、こうしていると懐かしいなぁ。昔は、沙耶や梢ちゃんと3人でお風呂に入ると背中の流し合いをしたよね」

「そうだね。まあ、あれも幼かったからできたことだったよね」

「ふふっ、そうね。折笠さん、後であなたの背中を流させて」

「はい、お言葉に甘えて」

「うんうん。何だか妹がいるとこんな感じなのかなって思うよ。私、一人っ子だから。まあ、沙耶と梢ちゃんが近所に住んでいたから、あんまり一人っ子って感じがしないんだけれどね」


 そういえば、小学生くらいまではお互いの家でよく泊まっていたと沙耶先輩が言っていたっけ。


「私も一人っ子なんです」

「へえ、そうなの! 私と同じかぁ」

「ええ。ですから、お姉ちゃんがいるとこんな感じなのかなって思っています」

「ふふっ、私も同じようなことを思った。今日、可愛い妹ができた感じがするな」

「私も綺麗なお姉さんができた感じです」


 会長さんならパンツのことで心配しなくていいから、お姉さんになってほしいかも。


「何だか私のときとは反応が違う気がするなぁ、琴実ちゃん」

「沙耶先輩には……先輩としかなれない相棒っていう関係がありますから」

「あっ、なるほどね」

「良かったわね、沙耶」

「……自慢の相棒だよ、琴実ちゃんは」


 沙耶先輩は嬉しそうな表情をして私のことを見ている。さっき、梢さんも相棒になってくれたと沙耶先輩がとても喜んでいたって言っていたっけ。段々とこっちまで嬉しい気持ちになってくるのであった。

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