第46話『おねえちゃん』
午後3時過ぎ。
私は沙耶先輩と一緒に彼女の家があるマンションへと到着する。何だか、結構立派なマンションな気がするけれど。10階以上はありそう。
「ここで、沙耶先輩とお姉さんが2人で住んでいるんですか?」
「うん、そうだよ。401号室」
「へえ、そうなんですか」
パンツの語呂合わせで802号室かと思ったけど、さすがにそこまでは拘っていなかったか。
マンションに入るには家の鍵か、インターホンで連絡して住人によって開けてもらうようになっているんだ。
「さすがに、琴実ちゃんも周りを警戒するようになっちゃったか」
「はい。ダブル・ブレッドのメンバーが入ってこないかどうか心配で」
「まあ、既にマンションの中にいるかもしれないけれど、家の玄関にも鍵は掛けられるし大丈夫だよ」
「そうですか」
沙耶先輩の言うとおり、家の中は大丈夫だよね。そこさえ大丈夫なら、沙耶先輩のお家でのお泊まり中は安心して過ごせそう。
マンションの中に入り、私達は沙耶先輩の家である401号室へと向かう。マンションの中も綺麗だし、家賃がとても高そうだ。
「さあ、琴実ちゃん。着いたよ」
「緊張しますね」
「そうかな? 昨日、琴実ちゃんの家に行ったときはそこまで緊張しなかったけど」
「先輩はこれまで何度も来ているじゃないですか」
それに、私の方は今日が初めてなんだし。
沙耶先輩は鍵を解錠し、玄関を開ける。
「ただいま~」
「お邪魔します」
ついに、沙耶先輩のお宅に入ることに。まさか、先輩に一目惚れしてから1週間ほどで先輩の家へ行けるとは思わなかったよ。
家の中も綺麗だなぁ。廊下の突き当たりにある扉の方からテレビの音が聞こえるから、あそこがリビングかな。左右に扉がいくつかあるけど、きっと寝室や浴室とかがあるんだろう。
「さっ、琴実ちゃん」
「はい」
沙耶先輩が用意してくれたスリッパを履いて、私は先輩について行く形で家の中を歩いて行く。
沙耶先輩が突き当たりの扉を開くと、そこにはセミロングの黒髪の女性がソファーに座ってテレビを観ていた。お姉さん……かな。
「あっ、おかえり!」
すると、黒髪の女性はテレビを消して私達の目の前に立つ。
「姉さん、ただいま。この子が今年、白布女学院に入学した折笠琴実ちゃんだよ。今は私と一緒に風紀委員として頑張っているんだ」
「はい。初めまして、折笠琴実です。沙耶先輩には2度も助けてもらって、それからは風紀委員として一緒に先輩と過ごしています」
「へえ、あなたが例の琴実ちゃんなのね。私、
「こちらこそお世話になっています」
梢さん、とても優しく柔らかい雰囲気を醸し出しているなぁ。どうしてお姉さんはこんなにふんわりとした感じの人なのに、妹がパンツ大変態になっちゃったんだろう。あと、うちのOGなんだ。
「沙耶が迷惑を掛けてないかな。幾度となくパンツを堪能されたりしているでしょう?」
「……梢さんの方から注意してほしいくらいです」
「分かったよ、琴実ちゃん。沙耶、琴実ちゃんのパンツを堪能するのは、彼女が不快にならない程度にするんだよ」
ちょっと怒った表情で頬を膨らませ、梢さんは沙耶先輩に向かってそう言うけど……その姿が可愛すぎて、沙耶先輩が言うことを聞くかどうか。
「分かったよ、姉さん。ちなみに、今、穿いているパンツは琴実ちゃんのもので……ほら、色違いなんだよ」
そう言うと、沙耶先輩は自分のスカートと私のワンピースをたくし上げる。
「うわあっ、可愛い! 本当にお揃いだ! 縞模様が可愛いね」
梢さん、喜んだ表情で私と先輩の穿いているパンツをじっと見ている。何だか、今のことで、梢さんが沙耶先輩のお姉さんなのが納得できちゃった。
「……って、いつまで先輩はワンピースをたくし上げているんですか。梢さんもじっと見ないでください。恥ずかしいですよ……」
「あっ、ごめんね。沙耶ちゃんがこんなに可愛らしいパンツを穿いているのを見るのはひさしぶりだったから……」
パンツが好きなのは血縁の影響もありそうだ。
「それにしても、琴実ちゃん。沙耶ちゃんが言っていたように可愛い女の子だよね。だから、ぎゅー!」
梢さんは私のことをぎゅっと抱きしめてきた。沙耶先輩も魅力的だけど、梢さんも温かくて、甘くて、優しい。あと、先輩よりも胸が大きいからか、自然と柔らかい印象を抱く。
「琴実ちゃん、猫ちゃんみたいで可愛いなぁ。もふもふ」
猫ちゃんみたいって。さっき猫カフェに行って猫ちゃんとたくさん戯れてきたから、服に猫ちゃんの匂いが付いているのかな。
「……段々と思い出してきたよ。昨日の夢で見たこと……」
「……あっ」
そういえば、沙耶先輩が昨日見た夢って、下着姿の私が梢さんに抱きしめられていて、その罰として先輩に下着を渡さなきゃいけなくなる……って感じだったよね。着ているものは違うけど、状況はかなり似ている。
「姉さん、そろそろ琴実ちゃんを離してくれないかな。その……いきなり琴実ちゃんを抱きしめたら、琴実ちゃんにも迷惑でしょ」
「ええっ、もっともふもふさせてよ。それに、これは出会ったことを喜ぶ意味を込めたハグなのに。琴実ちゃん……もういや?」
「いえ、梢さんに抱きしめられるのも悪くないです。むしろ安心できるというか……」
沙耶先輩よりは、色々と変なことをされないという意味で。
沙耶先輩が不満そうにしているところ……初めて見たな。掛布さんに話を聞くときでもこんな表情は見せなかった気がする。
「分かったよ、沙耶ちゃん。琴実ちゃんの抱擁を解いてあげる」
「うん、なら……」
「でも、いつもみたいに私のことをお姉ちゃんって呼んでくれたらね」
「えっ」
「家に帰ってからずっと、私のことを姉さんって他人みたいに呼んで。なあに? 琴実ちゃんの前だとお姉ちゃんって呼ぶのが恥ずかしいの? 甘えている気がして」
「いや、その……」
沙耶先輩、不満そうな表情が一気に消えていって、今度は頬を赤くしてちょっと恥ずかしそうにしている。これは図星みたい。
「あと、琴実ちゃんも私のことをお姉ちゃんって呼んでいいんだよ」
「……お姉ちゃんではアレですから、お姉さんと呼ばせてください」
「ふふっ、分かったわ。よしよし」
梢さんは私の頭を優しく撫でてくれる。もし、お姉ちゃんがいたらこんな感じだったのかな。
「ほら、琴実ちゃんは素直に私のことをお姉ちゃんって言ってくれたよ。ほら、沙耶ちゃんも言ってごらん? 琴実ちゃんの相棒であり、先輩なんでしょう?」
梢さんはそう言うけど、単に妹からお姉ちゃんと呼んでほしいだけなのでは。
沙耶先輩は顔を赤くさせながら、
「こ、梢お姉ちゃん……」
物凄く恥ずかしそうに言った。昨日の夜、私に対して冗談っぽく琴実お姉ちゃんと笑いながら言っていたのに。しかし、こういった沙耶先輩はなかなか見ることができない。
「はい、よくできました」
沙耶先輩は梢さんに頭を撫でられるけど、そのことも恥ずかしいのか顔の赤みが増していく。
――ピンポーン。
インターホンが鳴る。会長さんがマンションのエントランスに着いたのかな?
「京華かもしれない。ちょっと行ってくる!」
そう言うと、沙耶先輩は私達から逃げるようにリビングを後にする。
「ふふっ、沙耶ちゃんったら可愛い」
「そうですね」
学校では頼れる3年生の先輩だけど、大学2年生のお姉さんを前にすると甘えん坊な妹なんだな。そのギャップがとてもキュンとくるのであった。
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