第45話『猫カフェ』

 沙耶先輩と一緒に猫カフェに行くと、そこにはたくさんの猫ちゃんに囲まれている会長さんがいた。Vネックの白いセーターが似合っていて可愛らしい。あと、たくさんの猫ちゃんに囲まれているからか神々しく思える。


「沙耶に折笠さん、こんなところで会うなんて。しかも、沙耶だけが制服姿だけどどうかしたの?」

「実は昨日、学校から直接、琴実ちゃんの家に行って泊めさせてもらったんだ」

「へぇ、そうなの」


 膝の上に乗っている猫ちゃんを撫でているからか、会長さんは笑顔のままだ。


「折笠さん、沙耶に失礼なことされなかった? 寝ている間にパンツを堪能されたとか」

「それは以前からされています」


 朝早く来て、寝ている私のベッドの中に入り込んだことが何回あったか。


「……斜め上の回答だったから、返す言葉が全然見つからなかったわ」


 会長さんは苦笑い。まあ、言葉が見つからないのが普通だと思う。


「今日なんてむしろ、寝間着がはだけているからって私の体を弄んだんだよ?」

「変な夢を見ているから、脇腹を触っただけじゃないですか」


 下着姿の私が自分のお姉さんに抱きしめられているからって、その罰で下着を脱がせようとするからだよ。


「と、とにかく色々なことがあったのね」

「そうだね。琴実ちゃんと一緒に寝たし、お風呂に入ったし……」

「へえ……随分と仲のいいこと。良かったわ、上手くやれているみたいで」


 ふふっ、と会長さんは優しい笑顔を見せている。確かに、沙耶先輩の相棒になるかどうか悩んでいるとき、会長さんに色々と言ってしまったから。


「さあ、2人も猫ちゃんと戯れましょう?」

「そうだね」


 ソファーの上にも猫ちゃんが座っているので、私は猫ちゃんの近くに座る。


「やっぱり、アメリカンショートヘアは可愛いですよね」


 あぁ、触りたいなぁ。自然と両手の指が動いてしまう。


「折笠さん、猫ちゃんの方から近づいたら触るようにしてね。猫ちゃんを抱きたいからって自分から抱くことはあまり良くないの」

「そうなんですね、分かりました」


 ということは、会長さんの周りにいる猫は自分から会長さんの側に来ているということか。会長さん、優しい雰囲気に溢れているから自然と近寄ってくるのかな。


「にゃーん」


 すると、私の近くにいたアメリカンショートヘアの猫が私に近寄ってきて、私の脚の上に乗った。


「にゃおん」

「うわぁ、かわいい……」


 そっと頭を撫でると、気持ちいいと思ってくれているのか、私の上でゴロゴロし始めた。ふふっ、かわいい。


「おっ、琴実ちゃんもさっそく猫が近寄ってくれたね」

「はい! 夢のような場所ですね、ここ」

「猫好きにはたまらないよね」


 隣に座っている沙耶先輩はロシアンブルーの猫の頭を撫でている。


「確か、京華も昔から猫が好きだったよね」

「うん。この店は2、3年くらい前に見つけてね。今日は受験勉強の気分転換にここまで来たのよ」

「受験か」

「沙耶は指定校推薦だもんね。私は今のところ国公立目指しているけど、指定校の情報がもっと分かれば沙耶みたいになるかも」

「そっか。でも、京華は五本指に入るくらいに成績いいから、どこでも指定校を取れるんじゃない?」

「そうなると一番いいけどね。まあ、行きたいところに入れるチャンスが見つかるといいかな」


 高校入学して間もないけど、何だか現実を見てしまったような気がする。当たり前のことだけど、2年後は本格的に受験勉強をしなきゃいけないんだよね。沙耶先輩みたいに指定校推薦で受験するって決めていればいいけど。


「ごめんね、折笠さん。入学直後なのに受験の話をしちゃって」

「いえいえ」

「折笠さんは高校生活を思い切り楽しんでね」

「……楽しいかどうかはともかく、充実した日々を送っているのは確かです」

「今週は色々あったものね。来週以降も盛りだくさんになりそうな気がするけど」

「平和であってほしいです」


 猫ちゃんと戯れている今のように、穏やかな時間を過ごせればいいんだけど。それにしても、アメリカンショートヘアは可愛いなぁ。

 すると、さっき受付の近くにいたペルシャ猫が私に近寄ってきて、太ももに両手を乗せてくる。


「あれ、君も?」

「にゃーん」


 すると、ペルシャ猫ちゃんは太ももに頭をすりすりさせてくる。こんなにたくさん猫ちゃんと触れ合えるなんて、1時間だけじゃなくて1日中いたいくらいだよ。


「おっ、琴実ちゃん。猫にモテモテだね」

「猫ちゃんとこんなに戯れることができるなんて、幸せですよ」


 まあ、会長さんに比べたらまだまだだけど。あぁ、こうやってずっと猫ちゃんと一緒にいたいな。


「ねえ、沙耶、折笠さん」

「何かな、京華」

「何でしょうか?」


 すると、会長さんはもじもじとした雰囲気で、


「もし、お邪魔じゃなかったら……私も沙耶の家にお泊まりしてもいい?」


 沙耶先輩と私のことを見ながらそう言ったのだ。

 会長さんが沙耶先輩のお泊まりに来るのか。昨日聞いた話だと、沙耶先輩と会長さんは中学生になってから、全然お泊まりしてないんだよね。


「私は琴実ちゃんの意見に従うよ」


 沙耶先輩はいつもの爽やかな笑みを浮かべてそう言った。きっと、私に気を遣ってそう言ったんだと思う。家にはお姉さんもいると思うけど、沙耶先輩の部屋で私が先輩と2人きりで過ごしたいのか、それとも会長さんと3人で過ごしてもいいのか。


「折笠さん、どう?」

「そ、そうですね……」


 上目遣いで甘えるようにして見てくる会長さんがとても可愛らしい。普段は頼りがいのある雰囲気を醸し出しているだけに、ギャップがたまらない。

 会長さん、私が沙耶先輩の家に泊まるから、羨ましくて自分も泊まりたいって思ったのかな。それだけならまだしも、もしかしたら沙耶先輩のことが好きで、私と2人きりの時間を作るのが嫌だとか?

 でも、沙耶先輩のことをもっと知りたいし、会長さんとも親睦を深めたい。それに、3人で一緒なら間違いは起きないよね。


「いいですよ。会長さんも一緒に泊まりましょう」

「本当に? 私がいていいの?」

「もちろんです。沙耶先輩の相棒を務めるために、先輩のことを色々と知りたいですし、会長さんと親睦を深めることのできるいい機会かなって」

「嬉しい。ありがとう」


 会長さん、本当に嬉しそうな笑みを浮かべている。ここまで嬉しそうだと、沙耶先輩と一緒にいたいんだって分かっちゃうよ。そうだよね、先輩と会長さんは幼なじみで、ひさしぶりのお泊まりだもんね。


「じゃあ、ここである程度楽しんだら、一旦帰って荷物をまとめてくるね」

「ああ、分かったよ」

「ちなみにですけど、会長さんの家は沙耶先輩が住んでいるところからどのくらい時間がかかるんですか?」

「歩いて15分くらいかな。ちょうど、沙耶の実家と沙耶が今住んでいるところの中間くらいかな」

「そうだね。まあ、この駅は急行列車も止まるし、姉さんの通っている大学も徒歩圏内にあるからね。私も白布女学院に通学するなら、ちょっとだけどこっちの方が通いやすいからって姉さんと2人暮らしを始めたんだ」

「なるほど……」


 ということは、帰ろうと思えば実家に帰れるわけだ。今の話を聞いている限り、沙耶先輩も先輩のお姉さんも実家から通えそうな気もするけど。お金持ちだったりするのかな?


「そろそろ、私……1時間経ったから一旦、家に帰るわね」

「うん、分かった。家で待ってるよ」


 会長さん自身が15分くらいかかるって言っていたから、沙耶先輩の家の場所は分かっているか。

 会長さんは猫カフェを後にする。その時にたくさんの猫ちゃんが寂しそうに鳴いていたのが印象的だった。

 しかし、数分もすれば猫ちゃん達は私と沙耶先輩の周りに集まっていく。


「凄く多いですね」

「そうだね。思う存分にもふもふできるね」


 この数の猫ちゃんを会長さんは相手していたんだよね。そう考えると会長さんは凄いなぁと思うのであった。

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