第41話『姉妹じゃなくていい』
寝間着に着替え、お母さんにお風呂を出たことを伝えて、私は沙耶先輩と一緒に部屋に戻った。
「お風呂、気持ち良かったね」
「そうですね」
気持ち良かったのは本当だけど、常にドキドキしていて妙に体が熱くなったような。今でも普段よりも鼓動が早い。
「先輩、ドライヤーで髪を乾かしましょう」
「ありがとう。じゃあ、その後に私が琴実ちゃんの髪をドライヤーで乾かすね」
「はい」
沙耶先輩にも見えるようにテーブルの上に鏡を置いて、私はドライヤーを使って沙耶先輩の髪を乾かしていく。
こうして触れてみると、先輩の髪って結構サラサラしているなぁ。櫛を使ってといてみるとかなり長い。普段、ポニーテールだからか全然気付かなかった。
そういえば、お風呂を出る直前に沙耶先輩が言っていたさっきの言葉ってどういう意味だったんだろう。先輩に訊いてみようかな。
「沙耶先輩。さっき言っていた、私が妹じゃなくて良かったってどういうことですか?」
その言葉が頭の中にずっと残っていて。妹じゃなくて良かったというのはどういう意味なのか気になっていた。
沙耶先輩は視線をちらつかせたけど、すぐに笑顔を見せて、鏡越しに私のことを見る。
「……ダメな姉になったかもしれないと思ったから」
「えっ?」
「琴実ちゃんはとてもしっかりしている女の子だよ。私は琴実ちゃんに助けられたり、甘えたりして……何もできない人間になっていたかもしれない」
「そんな、風紀委員の仕事をしているときも、沙耶先輩に色々なことを教わりました。沙耶先輩に2度も助けてもらいました。沙耶先輩はしっかりとした女の子ですよ」
そんな先輩と仮に姉妹だったとしても、多少は甘えん坊になるかもしれないけど、基本的には今と変わらないと思うけど。
でも、沙耶先輩にはお姉さんがいる。姉妹だと妹が姉に甘えそうなイメージがあるなぁ。沙耶先輩がしっかりしているってことは、先輩のお姉さんは甘えん坊さんなのかな?
「……そう言ってくれるのは嬉しいよ、琴実ちゃん」
「私は……思ったことを言っただけですよ。あと、沙耶先輩が私の姉じゃなくて良かったです」
「どうして?」
「小さい頃からずっとパンツを堪能されるなんて嫌ですから」
四六時中、沙耶先輩のことを警戒しなきゃいけないなんて嫌だもん。
「ははっ、そうか。でも、姉さんのパンツは毎日堪能しているわけじゃないよ」
「……毎日じゃなければいいっていうわけじゃないんです」
まったく、先輩ったら。でも、沙耶先輩と姉妹だったら、絶対に毎日パンツを堪能してくると思う。そう思わせるくらい、この1週間でパンツに関する沙耶先輩の変態ぶりを見せつけられてきた。
「はい、先輩。終わりましたよ。こんな感じでいいですか?」
「うん、ありがとう」
「髪がストレートになると本当に印象が変わりますね。動かなければ本当におしとやかですよ」
「……普通、喋らなければじゃないの?」
「沙耶先輩はパンツを見て、触って、嗅ぐことで堪能しますからね」
「なるほどね。私は琴実ちゃんの穿いている赤色の縞模様パンツ可愛いねって言うけど?」
「……喋らなければも追加しておきましょうか」
「結局そうなるんだ」
沙耶先輩は声に出して笑っている。本当に可愛らしい先輩だ。
ストレートヘアの沙耶先輩なんて滅多に見ることができないので、ベッドの上に置いてあるスマートフォンを手にとって、先輩のことを写真に撮った。
「急に撮られたからビックリしたよ」
「ご、ごめんなさい。あまりにも可愛かったもので」
「まあ、琴実ちゃんならいいよ。ほら、琴実ちゃんの髪を乾かすから、ここに座って」
「はい」
さっき沙耶先輩が座っていたところに座り、ドライヤーで先輩に髪を乾かしてもらう。
「やっぱり、琴実ちゃんの茶髪は綺麗だね。サラサラしているし」
「ありがとうございます」
「きっと、これが生来の茶髪だからここまで綺麗なんだろうね。まあ、私は髪を染めたことがないし、周りに髪を染めるような人がいないから、実際は分からないけど……」
「この髪は好きですから、多分、染めるようなことはないと思います」
それに、沙耶先輩が綺麗だって言ってくれているから。髪をわざわざ変えるようなことはしない。
鏡越しで沙耶先輩のことを見ているけど、穏やかな笑みを浮かべながら私の髪を乾かしてくれている。もし、2歳上の姉がいたら、こういう風に髪を乾かしてもらうことがもあったのかもしれない。
あぁ、ドライヤーの風が温かくて、段々と眠気が。
「琴実ちゃん、眠くなってきた?」
「お風呂に入った直後ですし、ドライヤーの温かい風が気持ち良くて。それに、今日は色々なことがありましたから」
「確かに、今日は私が盗撮されたのが判明して、盗撮した生徒を見つけて、ダブル・ブレッドの存在が明らかになったもんね」
「今日一日で起きたとは思えないくらいに盛りだくさんでしたよね」
来週は平和な1週間になってほしいけど、多分、そうならないんだろうな。ダブル・ブレッドが動き始めた可能性が高いし。
「一通り乾いたと思うけど、これでどうかな?」
「はい、ありがとうございます」
何だか、いつもよりも髪がふんわりとしているような。コツとか……あるのかな。
――ぎゅっ。
そんなことを考えていると、沙耶先輩は後ろから私のことを抱きしめてきた。
「せ、先輩?」
いきなり抱きしめられたら、凄くドキドキしちゃうよ。
「本当にありがとね、琴実ちゃん」
「な、何のことでしょうか?」
「盗撮をされたって知ったとき、本当はちょっと怖かったんだ。でも、琴実ちゃんが側にいてくれたから、すぐに安心できた。琴実ちゃんのおかげで、今日もいつも通りに学校生活を過せたんだよ。ありがとう」
沙耶先輩、普段と変わりない様子だったけど、本当は盗撮されたことを恐れていたんだ。もしかして、家に帰ってくるときに見せた寂しげな笑みも、私と一緒にいるところを盗撮されているかもしれないと思ったからなのかな。
「私は風紀委員として、先輩の相棒として当然のことをしただけですから。でも、まずは先輩を盗撮した掛布さんを捕まえることができて良かったです」
そのことで、事態が良くなったかどうかは分からないけれど。どうなろうと、沙耶先輩の相棒として活動していくことに変わりはない。
沙耶先輩の方に振り返ると、先輩と目が合う。すると、先輩はにっこりと笑った。
「……そうだ」
すると、沙耶先輩はスマートフォンを手にとって、
――カシャッ。
私とのツーショット写真を撮影した。まさか、先輩とこうした写真を撮れるなんて嬉しいな。
「琴実ちゃんに送るね」
そう言うと、SNSで沙耶先輩から今の写真が送られてきた。先輩とツーショットの写真を持つことができるのが嬉しくて、すぐにホーム画面に設定した。
「これでお揃いだね、琴実ちゃん」
すると、先輩のスマートフォンのホーム画面も今の写真になっていた。沙耶先輩とお揃いかぁ、嬉しいな。
「じゃあ、今日はもう寝ようか」
「すみません。まだ9時過ぎくらいで明日はお休みなのに」
「気にしないでいいよ。眠たいときに寝た方が体にいいし。それに、これで明日早く起きたらそれはそれでいいと思うけどな」
「そうですね」
今夜は眠れないことになるかもしれないと思ったけど、どうやらいつもよりも早く眠れそうなのであった。
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