第15話『初仕事の準備です!』

 午前7時半。

 昨日よりも大分早い時間に、沙耶先輩と一緒に登校した。まだこの時間だと部活の朝練がある生徒くらいしか来ていなくて、結構静かだ。

 教室の方には行かず、風紀委員会の活動室に直接行く。すると、既に千晴先輩とひより先輩が登校していた。


「おはようございます、朝倉さん、琴実さん」

「おはようございます、朝倉先輩、琴実ちゃん」

「おはよう、藤堂さん、ひよりちゃん」

「おはようございます、千晴先輩、ひより先輩」


 そういえば、昨日とは違って今は千晴先輩とひより先輩のブレザーの左袖に、『風紀委員会』と書かれている腕章が付けられている。


「はい、琴実さん。生徒にあなたが風紀委員だと分かるように、この風紀委員の腕章を付けてください。安全ピンで留めるようになっていますから」

「分かりました」


 先輩達と同じように、私はブレザーの左袖に風紀委員の腕章を付ける。急に風紀委員って感じがして気が引き締まる。


「昨日も話したとおり、今日は新年度になって初めて、校門での抜き打ち服装チェックを行ないます。琴実さんは風紀委員として初めての仕事ですね。重点的にチェックするところは2点です。顔に化粧をしていないか。スカートの丈が規定よりも短くなっていないか。これを注意深く見てください。琴実さんは入学してから日も経っておらず、すぐには分からないでしょうから、朝倉さんと一緒に行なってください」


 良かった。いきなり1人でやれと言われても、全然できないだろうし。昨日の夜、生徒手帳の服装規定のところを読んだけど、スカートの丈が膝上何cmまでならいいのかもう忘れてしまった。


「分かりました。沙耶先輩、よろしくお願いします」

「うん、よろしくね。私が主にチェックをするから、琴実ちゃんは……そうだね、これを持っていてもらおうかな」


 沙耶先輩から渡されたのは、メジャーと紙が挟まっているバインダー。ちなみに、バインダーに挟まっている紙には日付、学年、組、氏名、違反内容という欄がある。


「えっと、これは……」

「スカート丈は膝上15cmまでって決められているんだよ。そのメジャーで測るんだ。ちなみに、琴実ちゃんのスカート丈は……」

「ふ、ふええっ?」


 いつの間にか、沙耶先輩にメジャーを取られて、私のスカート丈を計られている。今の体勢、これからパンツを見られるときの体勢なんですけど。


「ど、どうですか?」

「膝上12cm。OKだね。それで、パンツはフリル付きの水色だね。朝起きたときからパンツが変わっているっていうイリュージョンは起こらなかったね!」

「千晴先輩やひより先輩がいる前でパンツの色を言わないでください!」


 それに、今朝、私の布団の中で散々、今穿いているパンツを味わっているんだから別に改めて言わなくてもいいじゃない。恥ずかしいよ……。


「今日もパンツの欲が凄いですね、朝倉先輩は」

「懲りない方ですわね、朝倉さんは。琴実さん、こういう流れになることも考えられますので、朝倉さんのことをよろしくお願いいたします。私やひよりさんも定期的に彼女のチェックをしていきますけど」

「……分かりました」


 登校してくる生徒の服装チェックよりも、服装チェックをするときの沙耶先輩がちゃんとしているかのチェックの方が重要かもしれない。


「大丈夫だよ、琴実ちゃん。校門ではしっかりと仕事するよ、たぶん」

「……たぶん、なんですね」

 素直に多分と言うのは可愛らしいけど、風紀委員としては嘘でもいいから「絶対」って言ってほしかったな。


「琴実さん、そのバインダーに挟まっている用紙には、こちらが注意しても直そうとしなかった生徒や、今すぐには直せない違反項目がある生徒について記載してください。各項目の一番上を見れば何を書けばいいのか分かると思います。もし、分からなくなったら、遠慮なく私達に訊いてください。最後に私が記載内容をチェックします。その後に、私が生活指導の教師に提出しますので」

「分かりました」


 違反内容という項目があったので、校則を著しく違反する生徒の名前を書くんだろうなとは思っていた。


「……特に、その用紙は服装チェック用のものではないので、朝倉さんがしつこく変なことをしたら遠慮なく書いていいですからね」

「……分かりました」

「節度を持ってやるから大丈夫だよ。それに、パンツを見るときには基本的に許可を取ってから見るようにしているし」

「許可を取ればいいってものではないでしょう! それに、さっきの琴実さんの水色パンツについては、琴実さんの許可がなかったじゃないですか!」

「だって、琴実ちゃんは私の相棒だもん。それに、琴実ちゃんのパンツは彼女の部屋で一度見ているから!」

「どんな理屈なんですか! まったく、朝倉さんはパンツのことになると困った人になりますね。琴実さんも無理せずに私やひよりさんに助けを求めてきていいですからね」

「千晴先輩の言うとおり。琴実ちゃんは朝倉先輩とペアだけど、4人一緒って感じでやっていこうね」

「……ありがとうございます」


 沙耶先輩の相棒、という立場からか1人で沙耶先輩のことを止められるかどうか心配だったけど、そうだよね。4人でやるんだもんね。千晴先輩やひより先輩に頼ってもいいんだよね。

 でも、私は沙耶先輩の相棒なんだから、きちんと言っておかなくちゃ。


「沙耶先輩。パンツのことは考えずにしっかりと服装チェックしましょうね」

「分かってるよ」

「もし、相手が嫌がっているのに、パンツを見ようとしたら、今後、私のパンツはしばらく見ることを許しませんからね」

「……気をつけるよ」


 そう言う沙耶先輩は真剣な表情をしていた。効果があるかどうか試すために、私のパンツを餌にしてみたら意外と効果があるみたい。今だけかもしれないけど。


「みなさん、そろそろ校門に行きましょうか」

「そうだね。じゃあ、行くよ。パンツ・フォー!」

「その掛け声はいりませんから! 朝倉さん!」

「これを言うとやる気が出てくるんだよね」

「どうせ、変なことをする意味でのやる気じゃないんですか?」

「そんなことないよ。ほら、委員長も一緒に言ってみようよ。気持ちが漲ってくるよ?」

「絶対に言いません! そんなはしたない掛け声なんて!」


 何だかんだで、同学年の風紀委員として長い付き合いだからなのか、沙耶先輩と千晴先輩の息が合っているように見える。それが微笑ましくて、ちょっと嫉妬しちゃうな。


「じゃあ、琴実ちゃんとひよりちゃんだけでも。パンツ・フォー!」

「パンツ・フォー!」

「……ふぉー」


 恥ずかしくて、『パンツ・フォー』なんて言えるわけないよ。ひより先輩はよく笑顔のまましっかりと言えるなぁ。千晴先輩みたいに言わない方がいいかなぁ。


「さあ、校門に行きましょう」


 千晴先輩を先頭に、私達風紀委員は校門へと向かい始める。

 みんな、服装はきちんとしていてくれているといいな。そうすれば、沙耶先輩がパンツを見ようとしないかどうか心配せずに済むから。

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