第14話『幸せな終末』
4月14日、木曜日。
ゆっくりと目を覚ますと、昨日みたいに沙耶先輩は部屋の中にいない。部屋の時計で時刻を確認すると、今は午前6時半か。
「うん……んっ?」
何だか、下半身に違和感があるんだけど。何も着ていないような感覚があるけれど、布団の中が物凄く温かく思える。
もしかして、と思いゆっくりと掛け布団をめくってみると、
「おはよう、琴実ちゃん」
「……きゃあっ!」
どうして、ふとんの中に制服姿の沙耶先輩がいるの? それに、寝間着のズボンを脱がされて下半身がパンツだけになってるし。昨日は部屋の中にいるだけだったのに、日に日に行動がエスカレートしていってない?
「ふとんの中でボディーソープの甘い匂いに包まれながら、琴実ちゃんのパンツの匂いを嗅いだらやっぱり甘かったよ。いやぁ、今日のパンツは水色なんだね! しかもフリル付き!」
「先輩の変態!」
沙耶先輩の頭がちょうど私のパンツのあたりにあるので、両脚で沙耶先輩の首元を思いっきり挟む。
「琴実ちゃん、太ももで首を固定しようとするなんて、そんなに私にパンツの匂いを嗅いで欲しいのかい? 前に、京華から両手で頭を押さえつけられたことはあるけど、太ももで首を挟まれたことは初めてだよ。あ、あれ……挟む力が強くなってきてないかな。うっ、段々と苦しくなってきたけど……琴実ちゃんの柔らかい太ももで首を絞められて、琴実ちゃんのパンツに視界を奪われて、琴実ちゃんのパンツの匂いを嗅ぎながら死ぬことができるなら、これ以上に幸せな人生の終わり方はないよ……」
首を挟まれて息苦しくなれば、さすがに私から離れると思ったのに。よく、ギブアップするときは相手のことを軽く叩くけれど、それさえもしないなんて。本当にこのまま死んでもいいと思っているんだ。
沙耶先輩には死んでほしくないので、太ももで先輩の首を挟むのを止める。
「いやぁ、まさか琴実ちゃんに首を絞められるとは思わなかったなぁ」
「自業自得ですよ。まさか、沙耶先輩が布団の中にいるとは思いませんでした。まだ午前6時半ですよ。どれだけ早く起きて、私の家に来ているんですか……」
お父さんもお母さんもよく朝早くから先輩が来ることを許しているよね。私と一緒に登校するためとか言っているんだとは思うけど。
「今日は風紀委員として、登校してくる生徒の服装チェックをやるんだよ。だから、昨日よりも早く学校に行くことになるって言わなかったっけ?」
「言っていましたけど……」
風紀委員には登校してくる生徒の服装が校則に反していないかどうか、定期的にチェックするという仕事がある。まだ、私は入学したばかりなので、一度もそういう場面には出くわしたことはないけど。
「早めの登校といっても、まだ6時半ですよ」
「琴実ちゃんのことを護衛するっていう仕事もあるからね。琴実ちゃんのためならどんなに早い時間でも大丈夫だよ」
「……そうですか」
私のことを護衛してくれるのは嬉しいけど、仕事としてではなく気持ちとしてやってほしい感じ。
「さあ、制服に着替えたらご飯を食べようか。実は、琴実ちゃんのお母さんが、私を護衛する間は朝ご飯を食べていきなさいって言ってくださったから……」
「そ、そうなんですか」
お母さん、沙耶先輩のことを凄く歓迎しているみたいだけど、こんなに変態なことを絶対に知らないんだろうな。
「じゃあ、制服に……」
「待ってください」
ベッドから離れようとした沙耶先輩の腕をぎゅっと掴む。
「……下を脱がせたんだったら、上の方も脱がせてください。中途半端で終わらせちゃうのは……ずるいですよ」
私、何を言っているんだろう。さっきまではふとんの中にいて、いつの間にか寝間着のズボンを脱がせたことを嫌だと思っていたのに。今はもう、沙耶先輩に寝間着を全て脱がしてほしくて。もっと私のことを見てほしくなって。
「……琴実ちゃんは甘えん坊だね。いいの? 上も脱がせちゃって」
「寝ている間に下の方を脱がせた人が何を言っているんですか。……いいですから、早く」
「……分かった。失礼するね」
すると、沙耶先輩は馬乗りのような姿勢になって、上の方から寝間着のボタンを一つずつ外していく。
胸に沙耶先輩の両手が当たってる。普段はパンツばかりだけど、先輩って胸に興味はあるのかな。でも、あるかも。昨日の朝、胸が大きいって言ってくれたし。
「琴実ちゃん、顔が赤くなってる。寝間着を脱がせてもらうのは恥ずかしい?」
「……ちょっと、恥ずかしいかもです」
ううっ、顔が赤くなっていたんだ。気付けば体全体が熱くなっている。
寝間着のボタンを全て沙耶先輩に外される。
「そういえば、琴実ちゃんって、寝ているときもブラジャーをしているんだね」
「そっちの方が落ち着くので」
「へえ。私はしないで寝るなぁ」
「そういう人も多いですよね」
すると、沙耶先輩はニヤリと笑って、
「……上の方、ってもしかしてブラジャーまで取って欲しいってことかな?」
「そんなわけないじゃないですか! 下だってパンツは穿いているじゃないですか!」
「ははっ、冗談だよ。琴実ちゃんは可愛いなぁ」
本当に沙耶先輩は私のことをからかって。他の女の子にもこういうことをしていたら、絶対に許さないんだから。
「こうして改めて琴実ちゃんの下着姿を見てみると、琴実ちゃんって結構スタイルがいいよね。肌もスベスベだし」
「ふあっ」
左の脇腹をさすられてる。突然だったから、体をビクつかせちゃった。このままの状態が続いたら、パンツがおかしくなっちゃうよ。
「琴実ちゃんって脇腹が弱いの?」
「……先輩が突然触ったからですよ」
「それなら体がビクついちゃっても仕方ないね。でも、もしそこが弱いんだったら、琴実ちゃんのことをまた一つ知れると思ったのになぁ……」
「えっ……」
それって、どういう意味なの? そんなことを言われたら、まるで沙耶先輩が私のことが好きだって思えてくるよ。
「そこが弱いんだったら、真面目な琴実ちゃんがパンツのことで邪魔をするときにいい対抗手段になると思ってね」
「何ですかそれ! もう、先輩のばかっ!」
想像していたよりも遥かに悪い考えだったので、仕返しに両手で沙耶先輩の胸を鷲掴みする。
「んっ……」
沙耶先輩の胸の大きさと柔らかさが分かったと同時に、先輩の頬が赤くなっていることも分かった。
「先輩、もしかして胸が弱いんですか?」
「……突然、琴実ちゃんが胸を掴んできたからだよ。いくら私でも、突然掴まれたら声が漏れちゃうよ……」
「そうですか。ところで、先輩の胸って凄く柔らかいんですね。先輩だって胸は大きいじゃないですか」
「こ、琴実ちゃんほどじゃないから……」
以前に私が先輩のことを押し倒したときと同じように、沙耶先輩は右手で口元を隠している。眼は潤んで視線をちらつかせていて。沙耶先輩はもしかしたら、触られて嫌なところはないけど、突然のことにはめっぽう弱いのかもしれない。
「ほら、上も脱がしてあげたから後は自分でできるでしょ? 着替えたら朝ご飯を食べて、一緒に学校に行くよ」
そう言うと、沙耶先輩はベッドから離れる。
制服に着替え始めるけど、私に胸を鷲掴みされたからなのか、沙耶先輩は昨日みたいに私の着替えをじっくりと見ることはしなかったのであった。
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