第11話『夢と現実』
「琴実ちゃん……」
「沙耶先輩……」
私は今、制服姿の沙耶先輩にベッドに押し倒されている。
沙耶先輩は微笑んでいるけれ、いつもの沙耶先輩の笑みとは違った。普段のように厭らしい気持ちが感じられるような笑みではなく、本当に優しい……私のことを見る視線も、そっと頭を撫でてくれているようだった。
「琴実ちゃんの全部を私にくれないかな」
「えっ?」
ど、どういうこと? もしかして、もしかしちゃうの?
「……はっきり言わないと分からない?」
「……はい」
何を言おうとしているのか分かっていたけど、その言葉を沙耶先輩の口から言ってほしかった。だから、わざと知らないふりをする。
「私、琴実ちゃんのことが好きなんだ。初めて会う前から」
「……そうだったんですか。私も沙耶先輩のことが好きです」
「そっか。嬉しいな」
段々と沙耶先輩の顔が揺らめく。
沙耶先輩は優しく私の目元に触れる。そして見える彼女の笑顔。
「さあ、今日はパンツを脱ごうか」
「えっ、えっ……!」
いつもはパンツを見たり、触ったり、嗅いだりするのに今日はパンツを脱がすなんて。そんな、私、心の準備がまだ全然できてないよ……!
『琴実ちゃん。琴実ちゃん! 大丈夫かい、琴実ちゃん!』
目の前に沙耶先輩がいるのに、別の場所から沙耶先輩の声が聞こえ、私の視界が白んだのであった。
*****
目を覚ますと、そこには制服姿の沙耶先輩がいた。でも、さっきとは違ってベッドの側にいる。なぜか、先輩は焦った表情をしていた。
「沙耶、先輩……?」
「琴実ちゃん、何が変な夢でも見たのかい?」
「夢?」
「そうだよ。琴実ちゃん、顔を真っ赤にして私の名前を叫ぶから、夢の中で何かあったのかなと思って」
じゃあ、ベッドに押し倒されて、沙耶先輩にパンツを脱いでって言われたのって全部、私の見た夢だったってこと? 夢で見たってことは私、先輩にそういうことをされたいって思っていたの?
「琴実ちゃん、寝ていたときよりも顔が赤いよ! 今日は学校休む?」
「いえ、大丈夫です。ちょっと体が熱くなっただけです」
スマートフォンを見てみると、朝の7時過ぎか。特別急ぐことはないし、ゆっくりとご飯を食べて身支度をしても大丈夫――。
「って、どうしてこんな時間に沙耶先輩がここにいるんですかっ!」
「だって、少しの間は琴実ちゃんと一緒に登校するって言ったじゃない。昨日、そう約束したはずだけど、もう忘れちゃった?」
「いえ、忘れていませんけど。でも、こんなに早く来なくたって……」
起きてすぐに沙耶先輩に会えるのは嬉しいけど、こんなに早く来てもらうのは何だか申し訳ない。
「だって、早く来れば琴実ちゃんのお着替えを見られるじゃない。そうなれば、必然と琴実ちゃんのパンツと、もれなくブラジャーまで……」
「あー、そういうことですか」
そうだよね、この人はパンツド変態。パンツを見られるなら、朝早く私の家に来ることに何の苦労も感じない人なんだな。しかも、ブラジャーまで興味があるとは。
「琴実ちゃんのパンツあるところに私あり」
「標語みたいな感じで言われても、私がそれに感銘を受けてパンツを見せることはありませんよ」
「でも、このまま寝間着姿で学校に行くわけにはいかないでしょ?」
「……着替えている間、私の部屋から出て行くっていう考えは出てこないんですか?」
「そうしたら、パンツを見られないじゃん。そんなことをするわけないよ。女の子同士なんだから恥ずかしがる必要なんてないんだよ?」
「恥ずかしいです!」
この人はパンツのことになると自分勝手になるんだから。もう、夢の中で見た優しげな先輩は夢でしかなかったのか。現実はパンツなんだ。
もしかして、明日からも朝早く家に来るかもしれないってこと? そうだとしたら、今夜からは制服のまま寝ようかな。
「ダメだよ、琴実ちゃん。制服のままで寝るなんて。皺ができちゃう」
「……そういうことだけは、私の心を読んでくれるんですね」
もっと、私がされたら嫌なことが何なのか考えてくれないかなぁ。パンツを見てくることとか、パンツを触ってくることとか、パンツを嗅いでくることとか!
「さあ、琴実ちゃん。さっそく制服に着替えようか」
「出て行ってください! 恥ずかしいですから!」
「何を今更。私達は互いのパンツを見せ合ってきた仲じゃないか」
ううっ、内容は最悪なのに響きは悪くない。それに、沙耶先輩のパンツは強引な形で堪能させてもらったし。
「……部屋の中にいていいですけど、その……見るだけですからね。飛び込まないでくださいよ」
「分かってる、分かってるって……」
そう言いながらも、私のお腹付近に視線をロックオンする沙耶先輩。これは……怖い。
沙耶先輩でも、誰かに注目されながら制服に着替えるのは恥ずかしいなぁ。
寝間着のズボンをゆっくりと下ろすと、
――ゴクッ。
今、沙耶先輩、絶対に唾を飲み込んだよね。
恐る恐る沙耶先輩の方を見てみると、沙耶先輩は私のすぐ近くで興奮した様子で私のパンツを凝視していた。
「琴実ちゃん、今日のパンツは桃色のイタリアンショーツなんだね」
「……わ、悪いですか?」
「凄く似合ってるよ。お尻もかわいい」
「……どうもです」
沙耶先輩に似合っていると言われると、これからもパンツを見せてもいいかもな……と思えてしまうから恐ろしい。あと、お尻を褒めてくれたのはお母さん以外では初めてかもしれない。
上の方を脱ぐと、
「へえ、ブラも桃色なんだ」
「セットですからね」
「揃っていると何かいいよね。琴実ちゃん、とっても可愛いよ。あと、琴実ちゃんって意外と胸があるんだね。私よりも大きいんじゃないかな」
「意外とあるって失礼ですね。ちょっと傷付きました」
ただ、正直とても嬉しい。似合っているって言ってくれたことと、その……胸のことで褒めてくれたことが。
「……もう、制服着てもいいですか? 下着姿って結構恥ずかしいんですよ……」
「うん、いいよ。ありがとう」
良かった、さっさと下着姿から解放されて。
「明日からもこのくらいの時間に来た方がいいな。一日の活力が得られる」
「それはやめてください!」
いい雰囲気になっていたので、いいですよって思わず言ってしまいそうになった。もしかして、このために私を褒めていたんじゃ。
制服に着替えた私は沙耶先輩の横で朝食を食べ、彼女と一緒に登校をする。昨日や一昨日のような怪しい男達が姿を見せることはなかったのであった。
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