第10話『シグナル』
「ふう。仕事をした後の琴実ちゃんのパンツは最高だね」
私のパンツを見て、触って、嗅いだ沙耶先輩はとても満足そうな表情を浮かんでいる。沙耶先輩と一緒に風紀委員の仕事ができると思うと嬉しいけど、パンツのことを考えると途端にやっていけるかどうか不安になってしまう。
「そうだ、琴実ちゃん。スマートフォンの番号とメールアドレスを教えてくれるかな。これから色々な場面で使うと思うから」
「そうですね、いいですよ」
そして、私は沙耶先輩とスマートフォンの番号とメールアドレスを教え合った。相棒になったこともそうだけど、連絡先を教えたことで沙耶先輩との距離がぐっと縮まった気がする。それがとても嬉しい。
「これでいつでも連絡が取れるね」
「そうですね」
「何かあったら、いつでも連絡してきて。私の方から連絡することもあると思うけど」
「……パンツ絡みのことでは連絡しないでくださいよ」
沙耶先輩といつでも連絡できることは嬉しいけれど、唯一つ心配なのはパンツのことで連絡されるかもしれないということだ。今日のパンツは何色? 何時にパンツを堪能させてくれない? とか。
沙耶先輩は、それは考えていなかった、と言わんばかりにはっとした表情になり、
「さすがは琴実ちゃんだね。何でもパンツのことに絡ませてくれる。そうか、連絡先を交換したからそれができるのか……」
嫌な予感が的中。余計なことを言うんじゃなかった。さっそく後悔している。
「私は注意するために言ったんです。催促なんてしませんよ」
「琴実ちゃんが嫌がることをするつもりはないよ。例えば……あの縞模様のパンツを明日は穿いてきてくらいのことしか言わないから」
「アウトです!」
パンツ指定サービスは受け付けていないし、そもそも開始する予定もない。
「じゃあ、放課後に琴実ちゃんのパンツ鑑賞の予約を入れるために使うとか?」
「それもアウトです!」
パンツ鑑賞サービスも受け付けていないし、開始する予定だってない。ううっ、これは電話番号とアドレス変更を検討しないといけないかも。
「大丈夫だよ、琴実ちゃん。そんなことで連絡しないから」
「沙耶先輩……」
真剣な表情でそう言ってくれるんだから、きっと大丈夫そう――。
「直接頼んだ方が、琴実ちゃんの表情を見られていいじゃん!」
「こらああっ!」
本当にパンツのことになると、底知れぬ変態になっちゃうんだから! 一瞬でも抱いた期待を返してほしい。
もしかして、さっき……強引に沙耶先輩のパンツを見たり、触ったり、嗅いだりしたからその仕返しで意地悪なことを言っているの?
「別に、さっき琴実ちゃんに、強引にパンツを堪能されたから意地悪をしてるわけじゃないよ」
「ひゃあっ!」
耳元で囁かれ、沙耶先輩の温かな吐息がかかったことに驚いてしまう。それよりも、どうして私の考えていることがバレたの?
「そこまで驚かなくてもいいと思うんだけどなぁ」
「耳がくすぐったいからですっ! まったくもう!」
「ごめんごめん、驚かせるつもりはなかったんだよ。あと、私は相棒なんだから、琴実ちゃんが何を考えているかくらいは分かるよ」
「そ、そうなんですか……」
それなら、もしかして……私が沙耶先輩に好意を抱いていることもばれちゃっているの? ううっ、考えただけで恥ずかしくなってきた。顔も体も熱くなってるよ。
「ははっ、顔を赤くしちゃって。2人きりでもパンツを見られるのは恥ずかしいか」
「あ、当たり前でしょう?」
恋心がバレていないようなのでほっとした気持ちもあるけど、ちょっぴり寂しい気持ちもあって。何だか複雑。
「実はさっき、琴実ちゃんにパンツを見られたときはちょっと恥ずかしかったんだよ」
「沙耶先輩でもそう思うことがあるんですか」
それは意外。少しでも恥ずかしいと思ったのなら、これからは私のパンツを見ることが段々と減っていくかな?
「恥ずかしい気持ちが分かると、これからはパンツを見るときに今まで以上に興奮するんだろうな。もっと琴実ちゃんのパンツを見たくなっちゃった」
期待した私が馬鹿だった。そうだよね、パンツド変態な沙耶先輩がパンツを見なくなるなんてことはあり得ないよね。
「……本当に沙耶先輩ってパンツのことになると変態になりますよね」
「私にとって一番の褒め言葉だね」
「それでも、今の発言はひどいです! ゲスの極み女子ですっ!」
「ごめんごめん。でも、こういうことを考えるのは琴実ちゃんだけだから。他の女の子のパンツを見たいとは思うけど、ここまで興味を持ったのは琴実ちゃん以外いないからね。だから安心して」
「……は、はい」
話しの流れで頷いちゃったけど、私は何に安心すればいいのだろうか。先輩に上手く言いくるめられているような気がする。
「沙耶先輩。こういった2人きりの場所ならともかく、公共の場でパンツのことはあまり口にしないでくださいね」
「それは京華にも言われてるから大丈夫だよ」
「……そうですか」
さすがにそこは生徒会長から注意を受けているんだ。安心した。
「そうだ、明日から少しの間……私と一緒に登下校しよう。琴実ちゃんを襲おうとしている男達がまだいるかもしれないから」
確かに、放課後……学校から出たところにいた男達は、昨日、沙耶先輩に倒された男達の仲間だったし。1人で登下校するのは危険かもしれない。
「……ありがとうございます。では、お言葉に甘えて」
パンツから離れると途端に真面目になるからこそ、沙耶先輩の相棒になることを決めたんだ。先輩が一緒に登下校してくれることに安心できるし、そんな先輩のことを信頼できているんだから、きっと……一緒にやっていけるよね。
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