第9話『みやび』

 昨日と同じように、朝倉先輩と一緒に帰ってきて、私の部屋に通す。


「まさか、昨日の今日でここに来ることができるなんてね」

「……朝倉先輩は、その……いい人なのは分かったので。まあ、パンツに関しては頭を抱えるくらいのド変態ですけどね」

「それは褒め言葉として受け取っておくよ」


 皮肉で言ったんだけどね。

 朝倉先輩は私のベッドに腰を下ろすと、いつもの爽やかな笑みを浮かべながら私を見てくれる。


「あの、朝倉先輩。さっき言った先輩に話したいことなんですけど」

「うん、何かな」


 すると、真剣な表情へと変わり私を見つめてくる。そんなに見つめられるとドキドキして、言えそうなことも言えなくなっちゃうよ。

 でも、朝倉先輩にここまで来てもらったんだ。言うべきことをちゃんと言わないと。


「私……風紀委員になって、朝倉先輩の相棒になります。なので、これからよろしくお願いします」


 風紀委員になって、朝倉先輩の相棒になる。それをしっかりと先輩に伝えることで、本当の意味で決断できると思って。その証拠に、今は心がとても軽くなっている。


「ありがとう、琴実ちゃん。私のことを信頼してくれるんだね」

「……信頼してもいいかなって思えるようになったんです。2回助けてもらって、先輩はいい人なんだろうって思うようにしました。まあ、まだまだ知らないことばかりですけど」

「……そうか。ありがとう、琴実ちゃん」


 そう言うと、朝倉先輩は持ち前の爽やかな笑みを浮かべる。そして、


「それじゃ、相棒になったからその記念に琴実ちゃんのパンツを――」

「待ってください」


 そう簡単に朝倉先輩にパンツを見せるわけにはいかない。これだけパンツのことで嫌な想いをしてきたんだ。そんな先輩にすることは決まってる。


「先輩の……朝倉先輩のパンツを見せて、触って、嗅がせてください。もし嫌なら、風紀委員にも朝倉先輩の相棒にもなりませんから」


 そうだよ。あれだけパンツのことでやられたんだから、しっかりとやり返さないと。そうじゃなきゃ、私の気が済まない。

 朝倉先輩は落ち着いた様子で、笑みを浮かべながら私のことを見ている。


「……私のパンツを琴実ちゃんに見せて、触って、嗅がせる?」

「ええ、そうです」

「それらのことをさせないと風紀委員にも相棒にもならないか。まったく、琴実ちゃんからそんなことを言われるとは思わなかったよ。私の相棒になる素質があるね」


 そう言われること自体は嬉しいけど、その理由がパンツなので何とも言えない気分。


「昨日、この場所で朝倉先輩にあんなことをされたら、パンツを見せて、触って、嗅がせてもらわないと気が済まないです」

「……いいよ。じゃあ……えっ」


 私はベッドに腰を下ろしている朝倉先輩のことを押し倒す。朝倉先輩の顔との距離は吐息がかかるくらいに近い。


「……スカートをめくってもらわなくていいですよ。私がめくりますから」

「琴実ちゃん……あっ」


 朝倉先輩のスカートをめくると、そこには綺麗な太ももがあって……脚の付け根に視線を移すと、そこには黒い布地が視界に入る。


「先輩、黒いパンツを穿いているんですね」


 フリルのついた黒いパンツを先輩は穿いていた。先輩らしい、大人っぽく……妖艶な印象を抱かせる。


「先輩、失礼しますね」


 昨日、先輩がしてきたように……私は朝倉先輩の太ももを触って、先輩の穿いているパンツに顔を近づける。

 ああ、昨日、先輩が言った……甘くてちょっと刺激的な匂いって、こういう感じのことを言うんだ。まあ、私はパンツよりも、すべすべとして柔らかな触り心地の太ももの方が気になるけれど。

 はあっ、とゆっくり息を吐くと、


「……んっ」


 と、聞いたこともないような声が聞こえる。当然、私の声じゃないから、この声はもしかして――。

 顔を上げて朝倉先輩のことを見ると、そこには顔を赤くして右手で口を押さえている先輩の姿があった。まさか、先輩がこんな反応を見せるなんて。意外だな。パンツ好きだからもっと平然としているかと思っていたけど。正直、かなりかわいい。

 朝倉先輩は私が見ていることに気付くや否や、すぐに笑みを見せてきて、


「まったく、琴実ちゃんも変態だね。それもかなりの」

「……私は先輩にされたようなことをしただけですよ。朝倉先輩のパンツ、大人っぽくて可愛かったです」


 ただ、それよりも顔を赤くした先輩の方が遥かに可愛かったけれど。

 パンツを見て、触って、嗅いだ感想も昨日、朝倉先輩にされたこと。黒いパンツはクールな先輩の印象通りだった。


「琴実ちゃんに押し倒されたときは、キスでもされると思ったよ。相棒になるってことの誓いの意味を込めて」

「……そんなことしませんよ」


 キスしたいのは山々だけど、それは朝倉先輩に好きな気持ちを伝えられるまでとっておくつもり。できない限りは決してしない。


「まあ、いいよ。今のことでまた琴実ちゃんが魅力的だと思ったから」

「……そうですか」


 どんなことがきっかけであれ、先輩に魅力的って言われると凄く嬉しいな。

 それに、よくよく考えると先輩のこと……押し倒しちゃっているんだよね。私、凄く大胆なことをしていたんだ。

 色々なことを考えているうちに、朝倉先輩に体勢を変えられて、いつの間にか私が先輩に押し倒される形になってしまった。


「まったく、許可なしに先輩のことをいきなり押し倒しちゃうなんて。風紀委員としてどうかしてるよ?」

「パンツド変態な先輩がよく言えますね」

「……ふふっ、琴実ちゃんならそう言い返してくると思ったよ。琴実ちゃん、これからよろしくね。一緒に頑張ろう」

「……はい。沙耶先輩」


 この後、沙耶先輩に滅茶苦茶パンツを見られ、触られ、嗅がれたのであった。

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