第12話『任命』
4月13日、水曜日。
沙耶先輩は一緒に登校するだけでなく、1年3組の教室の前まで来てくれた。
「琴実ちゃん、昼休みに生徒会室まで来てくれるかな。一応、琴実ちゃんは生徒会からの推薦で風紀委員会に入る予定だから」
「分かりました」
「じゃあ、また昼休みにね」
沙耶先輩は私に手を振り、教室を後にした。
教室の中に入ると、既に理沙ちゃんが自分の席に座っていた。
「理沙ちゃん、おはよう」
「おはよう、ことみん。朝倉先輩と一緒に来たけど、仲直りできたんだ」
「うん。昨日の帰りに、また男達に襲われそうになってね。そこでまた沙耶先輩に助けてもらって……風紀委員になることに決めたよ」
「……そっか。ちょっと寂しくなるね」
寂しくなる……か。
確かに風紀委員になったら、今日みたいに昼休みには教室にいられなくなる日も多くなりそうだし、放課後は仕事ばかりになるかもしれない。
「一緒にいられる時間が結構減っちゃうかもしれないね」
「そうだね。それは嫌だけど、ことみんが決めたことだもんね。あたしは風紀委員の活動を応援するよ」
「ありがとう、理沙ちゃん。そういえば、理沙ちゃんの方はどうだった? 確か、テニス部の見学に行ったんだよね」
「うん、結構楽しそうだったよ。あたしは入部しようと思うんだけど、ことみんはどうする?」
「風紀委員の方があるからね。とりあえずは様子見かなぁ。でも、委員会の方でいっぱいになって、部活と両立するのは難しいかも。文化部ならまだしも」
風紀委員の仕事がどういうものなのか。詳しい内容はそこまで知らないけど、中には沙耶先輩が私を助けてくれたような危険な仕事だってあるわけでしょ。そんな委員会と部活を両立させるのはかなり難しいと思う。
「そっか。高校生活自体にも慣れないといけないしね。分かったよ。じゃあ、あたしだけでテニス部に入るね」
「うん、ごめんね、誘ってもらったのに」
「いいよ、気にしないで。ことみんとはクラスメイトとして一緒ににいられるんだし」
「そうだね。……あっ、昼休みに生徒会室に呼ばれているから、理沙ちゃんと一緒にお昼ご飯が食べられないの」
「そっかぁ、寂しいなぁ。分かったよ」
生徒会に所属する生徒は、いつも生徒会室でお昼を食べるって聞いたことがあるけど、白布女学院もそうなのかな。昨日のお昼は生駒会長しかいなかったけど。それがちょっと気になった。
昼休みになり、私は1人で生徒会室へと向かう。
――コンコン。
『どうぞ』
ノックをすると、すぐに中から生駒会長の声が聞こえた。
「失礼します」
扉を開け、生徒会室の中を見てみると、そこには沙耶先輩と生駒会長の2人が。
「おっ、琴実ちゃん。ちゃんと来てくれたね」
「はい。あの……お2人だけですか? ここにいるの」
「ええ、そうよ。いつもは私1人だけだったり、生徒会のメンバーと一緒に昼食を食べることがあったり。沙耶と2人きりで食べることもあるわよ」
「そう……なんですね」
どうやら、白布女学院は違うようだ。これなら、理沙ちゃんと一緒に昼休みを過ごせる日が多くなるかもしれない。
ただ、沙耶先輩と2人きりのときがあるんだ。2人は幼なじみだそうだし、ここで2人の親交を深めているのかも。生駒会長が羨ましい。
「どうしたの、琴実ちゃん。顔をしかめて。気分でも悪い?」
「いえ、そんなことはありません」
うううっ、顔に出ちゃっていたんだ。
「じゃあ、さっそく折笠さんに」
すると、生駒会長が私の目の前に立つ。
「1年3組、折笠琴実さん。生徒会より、あなたを今日から風紀委員に任命します」
「はい。よろしくお願いします」
こうして、私は生徒会からの任命により、正式に風紀委員になった。
生駒会長の方から私と握手を交わす。
「風紀委員の仕事、頑張ってね。沙耶、折笠さんのことをよろしく」
「任せて。彼女の相棒として、責任を持って彼女のことを育てていくよ」
2人が見守ってくれていると思うと、何だか安心できる。今でもちょっと怖い気持ちはあるけど、ここなら何とかやっていけそうかな。
そうだ、昨日のことを謝っておかないと。生駒会長には色々なことを言っちゃったから。
「生駒会長。その……色々なことを言ってしまってごめんなさい」
「ふふっ、私は別にかまわないわよ。折笠さんの言うことも間違っていなかったし。ああいうことを言ったあなただからこそ、風紀委員になると決意してくれたことがとても嬉しいと思っているし、期待しているのよ。もちろん、そんなあなたを信頼しているわ」
「……ありがとうございます」
昨日も私のことを信頼していると言ってくれた。生駒会長に色々と酷いことを言ってしまったのに、その想いは揺らいでいない。それがとても嬉しいし、会長の想いに応えることができるよう頑張らなければいけないなと強く思う。
「……でも、昨日はちょっと傷付いちゃったかも。何かお詫びしてほしいなぁ」
「じゃあ、パンツを見せてもらえばいいんじゃない? 今日の琴実ちゃんのパンツは桃色で可愛いんだ! お尻もね」
「何で沙耶が興奮しているのよ。ていうか、パンツの色を知っているということは折笠さんのパンツを見てきたのね、まったく……」
「今朝、琴実ちゃんの家に行って、彼女が制服に着替えているときに見たんだよ」
「……これから色々と大変だと思うけど、頑張ってね、折笠さん」
「は、はい……」
沙耶先輩が暴走しないように気をつけないと。私のときと同じように生徒さんを助けたときに、その報酬としてパンツを見せてって言いそうだから。
「それで、京華は琴実ちゃんのパンツを見ないの?」
「私はあなたとは違って、パンツにはあまり興味はないの。どっちかっていうと、こっちの方が気になるかな?」
そう言うと、生駒会長は両手を私の胸に当ててくる。
「ひゃあっ!」
「……へえ、結構大きいのね。私ほどじゃないけど」
「えっと、その……んんっ」
生駒会長に胸を揉まれてしまっている。でも、会長が爽やかな笑みを浮かべていて、手つきが優しいからか、彼女のことを厭らしく感じない。
「へえ、京華って胸に興味があったんだ」
「……ただ、昨日のお詫びとして揉ませてもらっただけよ。だから、安心して。もうこれっきりだから。あと、あなたの胸、程良い柔らかさだったわ」
「は、はい……」
程良い柔らかさって。他の人の胸も触ってきたってことなのかな。
でも、安心した。てっきり、これから定期的に会長に胸を揉まれるかと思ったから。もし、会長が胸の大好きなド変態さんだったらどうしようかと。
「じゃあ、やるべきことも終わったし、お昼ご飯でも食べましょう」
「はい」
「……そうだ、放課後になったら一度、生徒会室に来て。沙耶以外の風紀委員のメンバーとの顔合わせをしたいから」
「分かりました」
風紀委員会の生徒さん達って、どんな感じの人達なんだろう。沙耶先輩みたいな変態がいなければいいんだけど。そんなことを考えながら、3人でお昼ご飯を食べるのであった。
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