第40話【触媒】
絶体絶命―――。
ルイッサはサラマンダーのブレスを弱めるためのシールドを張っている。
彼女にパトリックのような
つまり、我々は白虎の氷撃と魔剣アゾットの斬撃を防ぐことが出来ないのだ。
「ガーランド騎士団長ルーファス・アルフォード! 貴様の首、もらい受ける!」
ブラックはサラマンダーで突進してきた。
俺はそれを奥義で迎え撃つ。
「剣王流奥義、
だが、奥義を放つと同時にサラマンダーは下降、ブラックは跳躍して上昇し、俺の奥義を
「砕け散れルーファス!
ブラックが高速で縦回転して斬撃の奥義を繰り出す。
魔剣から出る瘴気までも回転し、暗黒の渦となって襲ってきた。
「やられるわけにはいかん!」
俺は炎の剣で魔剣アゾットを止めた。
強い衝撃が伝わってくる。
炎の剣でなければ、俺は剣ごと両断されていただろう。
「ククク・・・いや、お前はもう終わりだ。」
「なにっ!?」
後ろの壁から跳躍し、俺の背中に迫り来るものがあった。
それは白虎だった。
サラマンダーの突進も、アゾットの奥義もブラフに過ぎない。
ブラックは
白虎の氷の牙が迫り来る。
「グオオオオオオオッツ!!」
白虎は悲鳴にも似た咆哮を上げて逃げ去った。
その眼には手裏剣が刺さっている。
「危なかったな、団長。」
声の主はカイルだった。
あれはカイルの手裏剣か?
なぜだ?
魔剣アゾットの攻撃で動けなかったはず・・・。
「ちっ・・・飼い犬に手を噛まれるとはな。」
ブラックは俺から離れて距離を取り、またサラマンダーの上に乗った。
奴の視線の先には、カイルに治癒魔法をかけるシルフがいた。
アイリスが俺にウインクする。
そうか、お陰で助かったぞアイリス。
「フッ、次は外さん。覚悟するがいい・・・。」
ブラックは、また戦闘態勢を取った。
サラマンダーたちが一斉に口を開く。
「待たれよ、ブラック・ウェイン!」
俺はブラックとの交渉の道を選んだ。
まともにこの
このメンバー、1人たりとて失うわけにはいかない。
「貴公、それほどの力を持ちながら、なぜ
ブラックは攻撃の手を止め、空中から俺を見下ろした。
「フンッ、時間稼ぎか・・・。まぁいい、他でもないガーランド騎士団長の話だ、聞いてやろう。」
ブラックは魔剣をしまい、サラマンダーの上で腕組みをした。
「教えてほしい。これほどの強さを持ちながら辺境の地に隠れ棲み、盗賊稼業に手を染める。これには何か理由があるのではないか?」
ブラックは俺の質問に意外そうな顔をしていた。
俺の言葉の中に、奴の心に響くものがあったようだ。
長い沈黙の後、ブラックはサラマンダーと白虎を戻して降りてきた。
そして祭壇の上の椅子に座り、頬杖をついた。
「ちっ、やる気が失せた。」
どうやら戦闘は回避できたようだ。
ブラックは無言のまま座っている。
奴は何も言わないが、俺には奴の過去に思い当たるものがあった。
「貴公・・・国を憎んでいるか?」
ブラックの動きが止まった。
「・・・なぜ、そう思う?」
ブラックは聞き返した。
やはりそうか。
どうやら図星のようだ。
「貴公が襲うのは決まって王侯貴族だ。一般人からは一切盗まない。それどころか富を分け与えるほどだ。過去に何か因縁があったとしか思えないのだ。」
しばらくの沈黙が流れた。
「・・・ああ、八つ裂きにしたいほど憎んでいる。だからお前たちに手を貸すなどありえない。」
やはり本音はそこか。
「ブラックよ、貴公が一般人に富を分け与えるのは、人々を愛しているからではないか? 国や我々のことは憎んでいてもいい。きっと許せない理由があるのであろう。だが、我々ではなく、貴公の愛する人々のために戦ってはくれないだろうか?」
ブラックはじっと俺を見つめている。
まだ若いが、人を見る眼力に優れている。
俺に裏は無いかと探っているのだろう。
「・・・どうして俺なのだ? 他にも戦士はいるだろう?」
「魔王アスモデウスを倒すためには、魔導戦争の英雄パトリック・エルフィンストーンにかけられた6つの呪いを解かねばならないのだ。その呪いは魔王親衛隊の6匹によってかけられている。すでに1つはハルファスを倒すことで解呪した。だが次の呪いを持つ魔神モロクスを倒すには、貴公の
モロクスという言葉を聞いた瞬間、ブラックは血相を変えて椅子から立ち上がった。
「魔神モロクスだと!? 奴が生きていただと!?」
ブラックの体が怒りに打ち震えている。
これは相当な因縁があったようだ。
深くは聞くまい、こちらの情報を提供するに留めよう。
「奴ら魔王親衛隊は、自分たちが殺した子供を触媒に呪いをかけるのだ。パトリックはその呪いのせいで子供の姿に封じ込められている。ハルファスを倒した時には一旦パトリック本人の姿を取り戻したが、すぐに次のモロクスの呪いが効力を発揮し、また別の子供の姿に変わってしまった。6匹全てを倒すまで、呪いが解けることは無いだろう。」
ブラックの体に大きな魔力の高まりを感じた。
広げた両手から稲妻が
砕けた天井の一部が大きな音を立てて床に激突する。
「先ほどより強い魔力です。これが彼本来の力のようですね・・・。」
恐ろしい力だ。
さっきまでは本気ではなかったのか。
その怒りの形相でブラックが俺に問う。
「・・・モロクスはどこだ? 奴はこの手で叩きのめす!」
「待ってくれ、ブラック。奴はハードキャッスル帝国にある沼地の洞くつにいる。だが軍勢を多く引き連れている。そこで我がガーランド軍が陽動作戦を取り、その隙にモロクスを討つという算段をしているところだ。その時まで待って欲しい。」
俺の願いが通じたのか、ブラックは魔力の放出をやめた。
天井を破壊した巨大な稲妻は消えたが、まだかすかに両手から小さな火花が出ている。
「・・・
アイリスが満面の笑みを見せる。
「じゃ、じゃあ手伝ってくれるのね!?」
「それは報酬次第だ。」
「へっへーん、そう来ると思ったわ!」
そういうとアイリスは、背中に差していた細長い包みを取りだし、それをほどき始めた。
俺には嫌な予感がした。
「ま、まさかアイリス!? それは!?」
そしてそれは的中した。
アイリスの手には見覚えのある漆黒の剣が握られていた。
「はい、ブラック、受け取って!」
「ま、待て、バカ!?」
俺の制止も空しく、その剣は放り投げられてブラックの手に渡った。
「な・・・に!? この剣は、まさか・・・!?」
ブラックは一瞬で悟ったらしい。
全身に冷や汗をかいているようだ。
「そうよ、破滅の剣ティルフィングよ!」
それを聞いたカイルが驚いて叫ぶ。
「ええええええ!? アイリスちゃん、その剣は国宝級の魔剣だぜ!? んな、いきなりブラックにあげるなんて!?」
「いいじゃない! レスター国王からもらった物よ? 私がもらったのだから、私の剣。どう使おうと私の勝手でしょ?」
俺もルイッサも驚きのあまり何も言えなかった。
だが、当のアイリスは平然とした顔でブラックに話しかける。
「どう、その剣? ハルファスの
ブラックも
だが・・・。
「フッ・・・フハハ・・・アーッハッハッハ! まったく何だお前は? クククク。」
アイリスの行動に笑いが止まらないようだ。
「なによー、いらないの?」
「どこにあるかと思えばハルファスの野郎が持っていたのか・・・。いいだろう、これを報酬としておこう。」
「え? ほんと? やったー!」
喜ぶアイリス。
とんでもないことをしでかしてくれたが、結果オーライというところか。
だが、ブラックは突然暗い顔になった。
「待て・・・。呪いの触媒が
「その通りだ、ブラック。」
「・・・ハルファスの触媒だった子供はどうした?」
ブラックの口から出た言葉は痛烈だった。
しかし、嘘をつくわけにもいかない。
「・・・悪魔どもは自分が殺した子供を触媒に使った。したがってハルファスを倒した瞬間、その子は悪魔から解放され・・・天に召された。」
ブラックの表情が凍りついた。
そして急激に彼の魔力が上がり始め、また天井を稲妻が走り始めた。
「ふざけるな! モロクスを殺せば、また別の子供が死ぬではないか!? この俺に子供を殺せと言うのか!?」
「待ってくれ、ブラック! その子はすでに死んでいる身だ。そしてその呪いのため、成長することもなく、永遠にこの世をさまよう
これは俺の本心では無かった。
コリンやララには、本当はずっと生きていてほしいと思っていた。
そしてそれをブラックに見抜かれた。
「迷っている貴様が言えたことか!? 失せろ、愚か者どもが!!」
そう言うとブラックはティルフィングをアイリスに投げ返した。
「え? いらないの? 欲しいんじゃないの?」
「その気になれば、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます