第37話【光の速さ】
高さが200メートルもある塔だが、天井の高さも30メートルある。
床の厚みを考えれば実質的には5階層ぐらいだろう。
巨大な宗教画を飾っているところを見ると、ここは神殿のようなものなのかもしれない。
奥の階段を上り、俺たちは第2階層に出た。
その途端、俺たちは敵の
「柱!?
コンクリートの塊が、柱状になって通路の奥から飛んできた。
直径1メートル、長さは術者までの距離と同じ数十メートルといったところか。
柱の陰になって姿は良く分からないが、小柄の術者が呪法を放っている。
「外壁や内壁の一部を利用して飛ばしているようです。動きが直線的なのは避けやすくて助かりますが、ここは四方がその材料で出来ていますので、やはり向こうが有利ですね。」
「冷静に分析なんかしてないで何とかしてよ、ルイッサ!? またたくさんいるみたいじゃない、こんなん避けきれないわ!?」
やはり術者は10人以上いるようだ。
我々は左右からも攻撃を受けてはいるが、幸い、塔の柱を盾に出来た。
柱にぶつかったコンクリートは粉々に砕け散っている。
「アイリス、このコンクリートはもろいぞ? 俺とお前の魔剣なら砕けるはずだ。」
「そっか! オーケー、やってみる!」
俺とアイリスは左右に分かれた。
隠れていた1匹が俺に向けて呪法を放ってきた。
そう、これを待っていたのだ。
「場所は分かった! 剣王流奥義、
俺はコンクリートが飛んできた方向に奥義を放った。
ハルファス戦で使った遠距離奥義だ。
術者は、この飛んできたコンクリートの先に必ずいる。
俺の衝撃波は、岩を砕くような大きな音を立てながらコンクリートを叩き割って進んでいく。
そして術者をもろともに吹き飛ばした。
「よし、そこね!?
アイリスが放ったのは、ドラゴンを真っ二つにしたあの・・技。
放つところを見るのは俺も初めてだ。
神剣グラムが光に包まれた直後、アイリスは剣を横に振った。
いや、あまりの速さで剣筋が見えなかったので「振ったようだ」というのが正しいのだろう。
光の衝撃波が見えないほどの速さで飛んでいく。
垂直に切り裂いたドラゴンの時と違い、今度は水平方向に放たれている。
そしてそれは、一挙に3人の術者を両断した。
やはりアイリスは強い。
「土の呪法を使う精霊と言えば1種類しかいませんね。彼らはノームです。」
シールドの魔法で防御しながらルイッサが説明した。
コンクリートはシールドにぶつかって次々と粉砕されていく。
「ノームですと? あの三角帽子をかぶった老人の?」
聖なる槍でコンクリートを砕きながらテレンスがルイッサに聞いた。
「いやですわ、テレンス。それはお
ルイッサがため息まじりにテレンスに答えた。
「しかし盗賊ブラックというのも大したものですね、また12匹も精霊を呼び出しています。となると、残るは8匹ですね。位置を特定しますので、カイル、テレンス、お願いしますね。」
「オーケー、ルイッサちゃん!」
「それこそ我々重装兵団の役目、任せられい!」
カイルとテレンスはルイッサの左右に立って守りを固めた。
ルイッサは目を
ルイッサの体が青色の光に包まれていく。
これは魔法探査である。
意識を遠くへ飛ばし、情報をつかみ取るのである。
「はい、位置が分かりました。」
そういうとルイッサは呪文の詠唱を始めた。
それと同時に、階層内の壁が凍り始める。
「銀の腕を持つ戦神ヌアザよ、モイツラの奇跡を再び我が前に示し給え、
直径2メートルはあろうかという8本の巨大な氷柱が床からノームたちを突き上げ、そのまま轟音と共に天井に激突した。
ノームたちの奇声は一瞬で
「8匹を一瞬か・・・。相変わらずの威力だな、ルイッサ。」
「いいえ、テレンスさんとカイルさんに守ってもらえたから出来たことです。」
謙虚なところがこの子の良いところだ。
「アイリス、あれが光撃波導斬か。剣先がほとんど見えなかったぞ?」
俺の言葉にアイリスは少々驚いたようだ。
「え、ルーファス、あれが見えたの? 剣先の速度は光の速さに匹敵するって兄さんが言ってたわよ? 良く見えたわね。」
いや、それはこっちが驚いた。
「な? 光の速さってお前・・・。どういう仕組みでそこまでの速さが出せるんだ? しかも大剣だぞ?」
アイリスは他の少女同様、
そもそも身の丈ほどもある大剣を振り回すことすら謎である。
「ああ、それ、兄さんが研究中だったわ。光の一族の特徴らしいけど、なんかね、振る時に剣の重さを感じないのよ。だから大剣だろうがなんだろうが、ススキの穂でも振り回すみたいに振れるのよ。」
これには全員が驚いた。
特に衝撃を受けているのはテレンスだった。
「何ということでありましょうか・・・。もしや、その村では、わしのような筋肉はただの
「うーん・・・そんなところね!」
アイリスの言葉に、がっくりとうな
この話を聞いて悔しい思いをするのはテレンスばかりではないだろう。
武器を振るって戦う男はみな、その体を鍛え上げることに注力するのだから。
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