第24話【光】

「ぐああああああっ!!」


 呪いの黒い稲妻が、周りのありとあらゆるものを破壊し尽くす。

 寝室に駆け付けた我々の眼前に広がる光景がそれだった。


 パトリックは懸命に龍脈術式ガイアドライブで呪いを抑えようとするが、背中から出たいばらに腕まで縛られて陣を描けない。

 先に駆け付けたルイッサも、フラフラになりながら解呪を試みるが、魔法は全て棘に吸収されてしまう。

 この呪いには龍脈術式しか効力を持たないようだ。


「兄さんっ!? ええい、こんなもの!!」


 アイリスは棘を断とうと神剣グラムを振るったが、逆に弾かれてしまう。


「そ、そんな!? ドラゴンスレイヤーが通じないなんて!?」


「アイリス、無駄だ・・・近づくな・・・。」


 棘で血まみれになりながらも、パトリックはアイリスを気遣う。

 その時、黒い稲妻はさらに激しさを増し、壁を、窓を、床を、粉々に砕いた。


「きゃー!」


 稲妻が起こした爆風にルイッサが吹き飛ばされる。

 壁に激突する寸前、俺はかろうじて彼女を抱きとめることが出来た。

 だが、もうパトリックには近づくことさえ出来ないだろう


「もはや抵抗かなわぬか・・・。」


 そう言うとパトリックは呪文の詠唱に入った。


「白き衣をまといし聖者よ! シナイの山の聖なる恵みよ! 聖なる盾を我に与えよ! 明聖退魔光オムニズウィル!!」


 詠唱し終えると、パトリックの体が七色に輝き始めた。


「あ、あれは最上級の防御魔法・・・。なぜ・・・はっ、まさか!? そんな!?」


 ルイッサが叫ぶ。

 解呪ではなく、防御の呪文?

 俺には何のことか、皆目かいもく見当がつかない。


「・・・そうです、ルイッサ殿。呪いのダメージを最小限に抑えるために使いました。また・・お会いしましょう。」


 パトリックの言葉に皆、戦慄せんりつを覚える。

 とらわれの身となるのか、パトリック!


「いや・・・いやよ、兄さん! 行かないで!」


 泣き叫ぶアイリスに、パトリックは棘で血まみれになりながらも微笑んで言う。


「私は大丈夫だ、アイリス。後は頼んだぞ・・・。」


 言い終わると同時に、黒い稲妻が大爆発を起こして我々は吹き飛ばされた。




 5分ほどたったであろうか、寝室はまだ爆発の煙に包まれていた。


「アイリス、ルイッサ、無事か?」


 煙で見通しが悪い。

 声をかけて確認するしかない。


「コホッ、コホッ。」


 声のする方に近づいてみると、アイリスだった。


「兄さん、兄さんは?」


「悪い、まだ分からない。・・・む? 横に寝ているのは誰だ?」


 アイリスの横にあった人影はルイッサであった。

 大丈夫だ、気を失ってはいるが軽症だ。


 その時、爆心の辺りが光り始めた。

 煙の中に、それは小さな人の姿で光っていた。

 それを見たアイリスが歓喜の声を上げる。


「あ、あの時も光の中からパットが現れたのよ!? パット!? パットなの!?」


 煙の中、光に駆け寄るアイリス。

 そうか―――。

 呪いでパトリックは消えても、子供の姿で転生するのか。


 煙が落ち着いてきた。

 視界がだいぶはっきりしてきた。


「あ・・・あ・・・。」


 信じられない光景が俺の目に飛び込んできた。

 茫然ぼうぜんとした顔でしゃがみこむアイリスの前に、その子は立っていた。


「・・・おねーちゃん、だーれ?」


 ブロンドの髪を2つに結んだ、5歳ぐらいの少女だった。

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