第12話【涙】
精霊の弓―――。
昼でもなお明るく輝く魔法の弓。
ハイエルフが作ったと言われるその弓が放つ矢は、遠く千里に届くと言われる。
「間一髪というところか。魔導戦争以降は封印していたのでな、解くのに時間がかかってしまった。」
レスター国王の援護射撃は非常にありがたいものだった。
これで回復までの時間が稼げる。
「こ、こんなもの・・・・!! う、うぐわああああっ!?」
ハルファスは右眼の矢を抜こうとしたが、矢を握った手が聖なる炎で焼けただれていく。
魔力を込めて矢を撃てるから、魔法の弓なのだ。
しかし国王のお体は―――。
「ルーファス様! お待たせしました!」
少女神官の治癒魔法の詠唱が終わった。
体が動く!
護衛の重装兵から剣をもらい受け、俺はついに戦線に復帰した。
「レスター国王、お下がりください! あとはお任せを!」
レスター国王は大戦で大ケガを負っている。
呪いの武具によるケガのため、神官の治癒魔法でも完治はしなかった。
今も常に治療を受け続けなければならない状態なのだ。
大きな魔力を必要とする精霊の弓を撃つことのできるようなお体ではない。
「そなた1人でどうにかなる敵でもあるまい。ルイッサ魔導士長、援護を頼む!」
国王を戦線に立たすなど、騎士団の名折れである。
しかし、魔法の弓に頼らねばならないのが現実。
それにハルファスが右眼を失ったことで、奴の右側が死角になっている。
つまり、今は絶好のチャンスなのだ。
「団長、アイリスはまだ昏睡状態だ。あれはまだしばらくかかるぜ。」
カイルがアイリスの様子を伝えに来た。
治療は難航しているようだ。
彼女にも重装兵団にも期待することはできそうもない。
「カイル、騎士団の半数をアイリスの護衛に回してくれ。残りの半数は重装兵団の救助だ。」
「・・・分かった。死ぬなよ、団長!!」
重装兵団の分厚い装甲をもってしても、ハルファスの奥義の前には紙クズも同然であった。
王を守るのは騎士団の務めではあるが、現状では足手まといになり、無駄に死人を出すだけだ。
この面々で一気に決める!
「契約に従い、遠くアララト山より来たれ、氷の女王!!
ルイッサが空中から呪文を放った。
何千もの氷の槍が襲いかかる。
片眼を使えぬハルファスは距離感がつかめず、打ち落とすことが出来ない。
氷の槍がハルファスに突き刺さる。
「ここだっ!! 剣王流奥義、
俺は、ハルファスの死角から奥義を放った。
2本の剣を高速で繰り出し、敵を斬り刻む技だ。
呪文で傷ついたハルファスの体に、無数の斬撃が食い込む。
「ぐおおおおおおっ!! 小僧、貴様あああ!?」
ハルファスは炎の剣で反撃してきた。
だが奴が左眼で視認する頃には、俺はもう攻撃圏内から離脱していた。
「とどめだ、ハルファス!!
レスター国王の精霊の弓が
三筋の光がハルファスの眉間に、そして両肩に突き刺さった。
「うがあああああああ!!」
文字通り、断末魔であった。
呪文、斬撃、射撃の連続攻撃に、悪魔の体が砕かれていく。
「お、おのれ!! ただでは、ただでは死なん!!」
ハルファスの眼はまだ赤く光っている。
俺は直感した。
「はっ、まずい!? アイリス!! 彼女を道連れにするつもりだ!!」
離脱して距離を取ったのが災いした。
走り出したハルファスに追いつく距離ではない。
国王の射撃には魔力を込める時間が必要である。
当然、ルイッサの魔法も間に合わない。
「これで光の一族は根絶やしだ!!
最悪の結果を覚悟したその瞬間、俺は信じられない光景を見た。
アイリスたちの前に光のシールドが現れ、ハルファスの奥義を防御したのだ。
爆炎は全て弾かれていく。
「あ、あれは・・・?」
そこにいたのは20代と思われる青年だった。
銀髪のその青年は左手を前に突き出し、シールドの魔法をかけている。
「あの姿、まさかパットの・・・?」
棘に覆われていたあの青年にそっくりだった。
そうであれば、彼は伝説の魔法剣士パトリック・エルフィンストーンということになる。
その青年が口を開く。
「皆さん、私と妹のためにここまでしてくださり、感謝の言葉もありません。お話をさせていただきたいことが数多くありますが、まずは目の前の悪魔を葬りましょう。」
唖然とする我々をよそに、青年は左手でシールドの魔法を放ったまま、右手で別の呪文をアイリスに放った。
「
青年は詠唱することも無く、いきなり呪文を放った。
高位の魔術師は、低級の魔法であれば詠唱無しに呪文を放てる。
だがこの魔法は最高クラスの治癒魔法である。
しかも、2つの魔法を同時に・・・。
「間違いなく、パトリック・エルフィンストーンご本人ですね。
ルイッサの言うことだ、間違いはないだろう。
しかし、どうして戻れたのだ?
「2つだけじゃないわよ! 兄さんは3つまで同時に魔法を操れるのよ!」
見ると、アイリスが神剣グラムを手に戦闘態勢に入っていた。
恐るべきことに、どうやら一瞬で回復したようだ。
彼女の頬には涙が光っている。
「お帰りなさい、兄さん・・・。」
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