第7話【雷撃】

 パトリシア・レインは美しかった―――。


 ブロンドの髪、優し気な青い瞳、絶えない笑顔、落ち着いた物腰。

 貴族の娘でもないというのに、立ち居振る舞い、そのすべてが美しかった。


 出会いはお互いが16の頃、パトリシアが王宮騎士団の世話係となった時だった。


 俺はマイルズやカイルと共に、武勲を理由に王宮騎士団に配属された。

 成りたての当時は右も左もよく分からず、ヘマばかりをしていた。

 しかしパトリシアは、そんな俺たちをかばい、励ましてくれた。


 パトリシアの人柄の良さは大臣の耳にも届き、姫の教育係にすら推薦されたほどだ。

 そう、今の姫があのように立派な成人になられたのは、きっとパトリシアの教育があってこそだろう。




 俺は当初、パトリシアが苦手だった。

 巨獣を前にしても臆さない俺だったが、彼女の前ではなぜか焦りを隠せなかった。


「そりゃお前、あのに惚れてるんだよ! アッハッハ!」


 騎士団の館でカイルに大笑いされた。

 他の団員も俺を指さして笑っている。

 そうなのか、俺は彼女に―――。


「ルーファスさんは本当に真面目な方なのですね。」


 驚いて振り向くと、にこやかに微笑むパトリシアが立っていた。

 彼女は偶然、聞いてしまったようだ。


 美しい・・・。

 女性の笑顔とは、これほど美しいものなのか。

 これが恋というものか。

 俺はパトリシアに恋している―――。


 気づくと、カイルたちが笑っている。

 なんということだ、声に出ていたようだ。

 パトリシアの顔は耳まで真っ赤になっていた。

 俺は慌てて椅子から立ち上がり、彼女に謝った。


「す、すまないパトリシア。俺は、俺は・・・。」


 パトリシアの反応は意外だった。

 彼女は目に涙を浮かべていた。

 そして、彼女は泣きながら言ったのだ。


「ルーファスさん・・・。そのお言葉を、ずっと、ずっとお待ちしておりました。」


 それからの二年間は、本当に幸せだった。

 そしてこの幸せが、未来永劫みらいえいごう、決して変わらぬことを信じて疑わなかった。




「貴様だけは!! 貴様だけは!!」


 ずっと待っていた。

 この悪魔こいつを倒すためだけに、この十年間を生きてきた。


「まさか、あの剣は!? だめよ、ルーファス!? 距離を取って!!」


 ルイッサが叫ぶ。

 しかし俺には勝算があった。

 この時のために、鍛錬を続けてきたのだ。


「ハルファス!! 十年前の恨み、ここで晴らさせてもらう!!」


 破壊王ハルファスの真っ赤な眼が俺を睨にらみつけた。


「たかが人間風情が!! 魔界の公爵の力、見せてくれよう!!」


 ハルファスは紅蓮に包まれた剣でぎ払った。

 剣の軌道を読んでいた俺は咄嗟とっさに飛びのいた。

 だが剣で斬られた大地は底が見えぬほどにまで裂け、さらに火柱までもが吹きあがっている。


「ああ、やはりあれは『炎の剣』! ルーファス、剣撃の直線上にいてはダメよ!」


 それを聞いたハルファスがルイッサに興味を示す。


「ほぉ、炎の剣を知っているとはな・・・。面白い、だが解呪はさせぬ!! 喰らえ!!」


 炎の剣がルイッサを襲う。

 が、次の瞬間、テレンスたちが防御陣を張った。


百二式鋼聖盾ホーリーシールド!! 重装兵団の力、悪魔に見せつけてやれ!!」


 テレンスが咆哮する。

 炎は弾かれて消滅したが、重装兵団へのダメージは大きく、幾人いくにんかの鎧に亀裂が入っている。

 そう何度も耐えられるものではない。


「カイル、行くぞ!!」


 俺の声を合図にカイルは跳躍をし、手裏剣をハルファスに投げつけた。

 ハルファスは炎の剣で払ったが、そこに隙が出来た。

 すかさず俺は懐に飛び込んだ。


「喰らえ、ハルファス!! 剣王流奥義、皇龍殲滅斬こうりゅうせんめつざん!!」


 ゼロ距離から巨大な衝撃波を放つ。

 打倒ハルファスのために磨いてきた奥義である。

 しかしダメージこそ与えたものの、ハルファスを倒すことはできなかった。

 しかも、剣に亀裂まで入っている。 


「こしゃくな技を!! しかしこれで終わりだ、小僧!!」


 全身全霊を込めて奥義を放った俺に、もはや炎の剣を回避することはできないだろう。

 至近距離から紅蓮の炎が襲い来る。

 が、次の瞬間、何者かがその剣撃を止めた。


「全く無茶するんだから・・・。そんな剣で炎の剣に勝てるわけないでしょ?」


「アイリス・・・!」


 巨大な悪魔の剣撃を、アイリスはドラゴンスレイヤーで受け止めたのだ。


「ぬぅ、ドラゴンスレイヤーだと? そうか貴様、あの時のガキか!!」


「ガキって何よ! レディーに向かって失礼ね!」


 そういうとアイリスは、ハルファスの炎の剣を大きく弾いた。

 直後、奥義の構えに入る。


「喰らいなさい! 光の剣技、雷撃閃光刃ボルティックブレイド!!」

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