β16 優勝談義☆僕に決まっている
1
昨日、あまりにも色々な事があり過ぎて二人は忘れていたが、今日は歓迎大会の続きがある。
美舞も玲も勿論出場する事が決まっていた。
注目すべきは、やはり混合の部で美舞と玲の外に一年生が五人、二年生と三年生が九人の十六人で準々決勝だ。
偶然、一年生同士が当たらない様になっていた。
会場で美舞たち三人は一年生について話していた。
「ねえ、玲君。一年生で一番強いのは誰かな?」
日菜子が訊いた。
「そうですね。先ずは、
他の選手にも言及しようと、玲は続ける。
「次は、
同級生の今までを振り返り、次々と語り出した。
「それから、
やはり、怜悧だ。
分析力はかなりある。
「それに、
実は彼の事は好きではない。
でも、きちんと誉めるべき所は誉めるのが玲らしい。
「最後に、
かなり語り尽くしたが物足りなさそうな玲を少し可愛いと美舞は思った。
淡い気持ちが芽生えていたなどの自覚はなかったが。
2
玲が説明するのを日菜子は頷きながら聞き、その横で美舞が何かを考えている。
「あともう一人、女子部ですが
突然女子の名が挙がった。
「具体的には?」
美舞も女子を褒めるからと意地っ張りだ。
さらりと訊いてみた。
「彼女は女性にしては大柄ですが、動きに無駄が無く華麗です。攻撃が素早く重い、守ってもミリ単位で躱す。彼女は格闘家になる為に生まれて来たかの様ですね」
べた褒めだ。
玲にしては珍しい。
日菜子はそんな玲を見て、悪戯な笑みを浮かべた。
「美舞の前でそんな事を言っていいの? やきもち妬くわよ」
「僕もそう思う」
美舞はさらっと言った。
見た目は平静だが、内心は他人には分からない。
しかし、日菜子も玲も敏感に感じ取った。
「あの子は、女子部を任せて行ける逸材だね。これで僕は男子部で気兼ねなくできる」
「あの、それって」
玲は美舞を見て不思議な感じになった。
美舞の強さに対する真摯な気持ちはどこから来るのだろうか。
両親の教育の賜物なのか、それとも血のなせる業なのか。
そのどちらにしても美舞にとって棘の道になるだろう。
考えれば考える程、玲はずっと美舞の側で見守って行こうと思った。
3
「それで、優勝するのは誰かな?」
再び日菜子は訊いた。
「それは勿論……」
「僕に決まっている」
「俺に決まっている」
美舞と玲はハモった。
素晴らしいハーモニーに日菜子はグッと来た。
ナイスと拳を握った腕を横に引く位だ。
「何言ってるの。昨日、僕に負けただろう」
雛鳥みたいに口をぱくぱくして言った。
子供っぽいのは母親譲りだ。
「今日は負けないさ」
負けじ心はお互い様の玲だ。
しかして、挑発が始まった。
「それはこっちのセリフだよ」
雛鳥ちゃんは続ける。
「よし、じゃあこうしよう。もし、俺が勝ったら俺の言う事を一つ聞いてください」
玲はちょっと軽く言ってみせた。
「……いいよ。変な事じゃなければね」
少しぶすりとして美舞が腕を組む。
「よーし、頑張るぞ」
玲は不気味な笑みを浮かべながら、闘技場に向かった。
それを見送りつつ、日菜子は呆れた顔を美舞に向けて囁く。
「大丈夫なの?」
「何が?」
美舞は大切な時に限って素っ頓狂だ。
「勝てるのかという事もそうだけど、あんな約束してしまって」
日菜子は少し大人っぽい考えで制していた。
「大丈夫でしょう。僕は、先ず負けないもの」
自信だけは負けない。
それも兵に必要なものだと信じていないと、勝利の道を外すからだ。
「でもね」
日菜子は珍しく曇り顔だ。
「でも?」
本当に何の心配をしているのか同じ年でもこうも違う。
「負けるのもいいのかもね。美舞は奥手だから」
少し微笑んだ。
「ええっと」
やっと、少しだけ意味が分かった。
美舞は日菜子の言葉に赤面した。
女の子としてはそれでもいいかなと思うところはあるのだが、格闘家としては負けられない気持ちが強い。
とにかく、玲と闘うには決勝まで行かなければならない。
それまで負けないと言う保証はないのだから、一生懸命闘わなければならないのには違いがなかった。
「僕に決まっている」
自信を捨てたら駄目だ。
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