番外編「アゼルと……」

 時は遡り


 ここはあの世。

「あ、やっと見つけた」

 魔法の鏡を見ながら呟いているのはサラマンドル王子アゼルだった。

「死んじゃってもうユカを見る事はできない、と思ってた。けどこうして……元気そうで安心したよ。しかし可愛らしいなあ」

 アゼルはうっとりしながら鏡に映っているユカを眺めていた。


「その鏡って普通はその人が直前まで生きてた世界しか見れないはずなのに、なんであなたは他の世界まで見れるのよ?」

 驚きながらそう言ったのは頭に光の輪が浮かび、背には大きな白い翼が生えている見た目二十代くらいの女性、生と死を司る天使だった。

「え、そうだったんですか?」

「そうよ。ほんと不思議ねえ。あ、もしかして愛の力かな? きっとそうね……でもねえ」

「ん? どうかしたんですか?」

「鏡をよく見て」

「え、あ」


 鏡にはユカがシューヤに電気あんまをかけてるとこが映っていた。

「あ、いいな~。僕もユカにああされたかったな~」

 アゼルは何かがズレていた。


「……あのねえ。しかしあの子、何か酔っ払って魔王と化してるみたいね。あ、彼いきそうね」

「はっ? あれってもしかして……? そうだ天使様、僕を一時的にでも現世に戻してもらえないですか?」

 アゼルが天使に頼んだが

「えーとね、それ私の一存じゃ無理なのよ。てかあなたが何をしたいのかはわかるわよ」

「だったらなんとか」

「聞いて。あのね、いずれあの子は自分の生まれ故郷に帰るわ。その時に」

 天使は語れる範囲でユカ達の未来を語った。

「なるほど。聖なるトナカイであるルー君と神剣士の子孫シューヤの力を借りればいいと」

「そうよ。でもこれ辛いわよね。だって」

「いいんですよ、たしかに全く腹が立たないのかと言われたら……でもユカはどうやら彼に惹かれてるようだし、それなら」

「……じゃあ数カ月後に現世に行けるよう手配しておくわね」

「はい、ありがとうございます」

 そう言ってアゼルはその場を去った。


「しかし彼といいガルヴァスさんといい、本当に自分の事より他者の事を思える人がいるのよね。まだまだ捨てたもんじゃないわ」

 この天使は以前誤って現世に落っこちて大怪我していたところをユカやアゼル達の世界に攻め込んだ魔王であったガルヴァスに助けられた。

 その後天使はお礼に何かしたい、と言ったらガルヴァスはタケルの仲間であり彼の知人でもある老魔法使いとその妻の寿命を出来る限り伸ばしてくれと頼んだ。

 二人には幼い子供がいるから、と。


 だが寿命を伸ばすには誰かの寿命を代わりに縮めないと、と言ったら自身の寿命と引き換えにしてくれと躊躇わずに言った。

 

「ガルヴァスさんってかつてはともかく、今は偉大な魔王と言っても過言ではないわよね。こんな事言ったらダメだけど早くあの世に来ないかな~、そしてできれば……ぽ」

 天使はどうやらガルヴァスに惹かれているようだった。

 


 その後アゼルはルーやシューヤと共に無事目的を果たした。

 


 さらに数年後。

 あの世にやってきたガルヴァスは天使にしつこく交際を迫られて困惑していたが、やがて彼も天使に惹かれ……幾多の試練を受けた後あの世の守護者となり、天使と二人いつまでも仲良く暮らした。

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