番外編「武神タケルと……」
武神タケルは隆生達の世界にやって来た。
そして姿を消し、とある場所に住む青年の様子を伺っていた。
姿を消したのは自分がそこにいるのを知られたくないからである。
「彼がそうか。しかし調べてみたが本当に辛い事ばかりだったな。でも」
彼は可愛らしい女性と楽しそうに話していた。
「これからはその笑顔がずっと続くようにしてやるからな、待ってろよ」
そう言って腰に差していた剣を抜き、彼に向けてある技を放った、が
「き、効かない!? この技なら彼から妖魔を追い出せるはずなのに!」
タケルが先程放った技はどうしても祓えない闇を祓う秘奥義、光心剣だった。
驚きながら彼をもう一度見ると
「そうか。妖魔が心の奥底にまで入り込んで光が届かないんだ。くそ、これじゃ……いや、諦めてたまるか。あれをほっといたら多くの世界が、そして彼自身が」
タケルはしばらくその世界に留まり、彼を見守りながら打開策を考えていた。
そんなある時、彼は橋の上から身投げしようとした。
その顔はもはや絶望に染まっていた。
「あ、やめろ! ……え?」
そんな彼を止めたのは気の強そうな女性だった。
そしてしばらく話した後、彼の頬を叩いた、涙ぐみながら……。
彼は彼女に礼を言い、ある場所へと走ろうとしたその時だった。
彼の中から妖魔が苦しみ叫びながら現れたのは。
「せりゃああ!」
タケルはその機を逃さず妖魔に向かっていき
ギャアアアア!
それを一刀両断にして消滅させた。
「ふう、これで終わったな……彼女達のおかげだな」
タケルは彼女の方を見て呟いた。
彼女は本当に彼が好きだったんだな、あんなに泣いて……少し違うけどキリカが俺に言ってくれたあの時の事を思い出したよ。
――――――
約三千年前
「あのね、ユイはあんたの事が好きなのよ!」
キリカはタケルを睨みつけながら言った。
「え、本当に?」
「嘘じゃないわよ! てかあれだけアプローチしてて気づかないってどれだけ鈍感なのよ!」
「いや、あれはただじゃれてるだけだと。それに俺好かれるような事してないぞ」
その時タケルはキリカに頬を叩かれた。
「あんたねえ、ユイはあんたの事だけは忘れてないのよ! 私や他の皆の事はもうほとんど覚えてないのに……それどういう事かわかってるの!?」
キリカの目には涙が浮かんでいた。
「え、あ」
「わかったならさっさと行きなさい!」
「……わかった。すまんキリカ」
タケルは物凄い勢いで部屋を出て行った。
「ユイ、今だけタケルをあなたにあげるわ」
タケルが去った後、キリカは辛い気持ちを押し殺してそう言った。
――――――
「ほんと俺ってバカだよなあ、子孫もそんなところは似なくていいのに似ちまいやがって、はあ」
タケルはため息をついた後、走っていった彼を思った。
本当に彼には多くの人の想いが向けられているよな。
今までは妖魔に邪魔されてなかなか届かなかった想い。
それが進んでいく彼の側に集まって一つの形を取り、あり得ない早さで目的地へと導いていったなんて。
ホント人の心の力って凄いわ。神になっていくら強くなってもさ、それには永遠に敵わないって思うよ。
タケルは目を潤ませていた。
そして再び彼女の方を見て
特に「君達」にはなんとお礼を言っていいか。
そんなつもりはさらさらないだろうけどさ、君達は彼だけじゃなくこの世界や多くの異世界をも救ってくれたんだよ。
お、泣き止んでやけ酒といくか?
飲み過ぎるなよ……君ならきっとまたいい縁があるよ。
それともう一人、死してなお彼を見守っていたなんてね。
あ、もし君が望むなら、この世界の守護神イオリ様にお願いしておくよ。
そして……どうやら帰ってこれたようだね。
彼と幸せにな。
「さてと、そろそろ行くか……お」
空から深々と雪が降ってきた。
街を見るとイルミネーションが光り輝いている。
「もうそんな時期だったのか、全然気づかなかったわ。そういやこの世界にも聖誕祭、クリスマスがあるんだったよな」
タケルはしばらく街を、人々を眺めていた。そして
「彼等の新たな始まりに、そして皆の夢や希望がずっと続くように」
-メリー・クリスマス-
そう言ってこの世界から去っていった。
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